22、ミラド村
俺たちは川沿いを下流に向かって進んでいる。
川沿いのためとりあえず、水不足の心配はなさそうだ。
しかし、食料は深刻な状況である。
川に魚はいるものの、捕まえるのは困難だし、捕まえても、火を起こせないため食べることができない。
俺たちは、進みながら木になっている食べれそうな実を探しながら進んでいた。
途中四宮とオーガ戦のことで話をした。
オーガはなんなのだろう。
よくあるRPGに出てくるオーガにそっくりだったからそう呼んでいたが、実際は何者なのかわからない。
それにオーガの動きを止めていたのは間違いなく四宮の力だ。
そのことについて四宮は
「怖くて、夢中で、こないでって思ったらオーガが動けなくなった」
と言っている。
また、
「オーガを動けなくしている最中は、体の力がどんどん消費されている気がして、たぶんもっと続けていたら倒れちゃったと思う」
と言っていた。
俺の体に纏う金色の光も体力をかなり消費している感覚があった。
おそらく四宮の動きを止めた力と俺の力は同系のものなのだろうと俺は考えていた。
そもそもここは日本なのだろうか。
周りに近代的な構築物はないし、今の日本にこんな場所があるのだろうか。
もしかしたらアフリカ大陸などに飛ばされてしまったのかもしれない。
俺たちは丸一日歩いた。
相当辛いはずなのに四宮も野口も文句一つ言わずに歩いていた。
四宮のことは長い付き合いだからよく知っている。
四宮は我慢強く周りに迷惑をたくないと考える奴だ。
文句も言わないのもわかる。
でも、野口はこんなに我慢強かったのか。
俺は野口をあまり知らない。
同じクラスになったこともないはず。
体育などでたまに見かけるが、いつも後ろの方の順位だったと思う。
そんな事を考えながら歩いていると、
「あっ街っぽいのが見えるよ」
と野口が言った。
俺も四宮も野口の言う方向を見る。
「本当だ。街がある」
四宮は言った。
「でも今の日本の建物とは大きく違うわね」
とも言っていた。
「まぁそれでも行くしかないだろう」
と俺は言って、街に向かって歩き出した。
俺たちはようやく街に到着した。
街の入り口には見張り番が2人立っていた。
「こんにちは」
四宮が挨拶をする。
見るからに周りの人達と服装が違う俺たちを見張り番は怪訝に思い質問をしてくる。
「お前たちはどこから来た。この街に来た目的はなんだ?」
四宮が答える
「私達は気がついたらこの近くに飛ばされていたんです。どこに行ったら良いかもわからず彷徨っていたらこの街を見つけました。少し休ませていただけませんか?」
「そうか。お前たちは転移者だな。少し待っていなさい」
と見張り番は言うと街の中に入って行った。
「転移者?」
俺たちは顔を見合わせた。
少し待つと見張り番が誰かを連れてやってきた。
40代くらいのガタイのいい男の人だ。
その男は俺たちの前にくると声をかけてきた。
「お前たちか。どこから来たのかわからないんだったな」
そう言うと俺たちを見回した。
俺はこの男が信用できるのか考えていた。
するとその男は、
「すまない。自己紹介していなかったな。俺はの名前はミラドだ。この村の村長をしている」
ミラドは続けた。
「ここ最近世界的に転移者が増加していてな。どこから来たからわからないと言っていて、変わった服を着ている人がいればだいたい転移者だ」
「まぁ悪いようにはしないから、とりあえず私の家に着いてきなさい。少しくらいならご馳走しよう」
とミラドは言った。
俺たちは他に当てもないし、ミラドも悪い人には見えなかったのでついて行くことにした。
ミラドの家に向かう途中で村の様子を確認する。ほとんどの家が木を使った簡単な作りの家だった。
村人は中世ヨーロッパの農民のような服装をしている。
裕福ではなさそうだが、生活に困窮しているほどの悲壮感は感じられなかった。
そうこう考えているうちに俺たちはミラドの家についた。
ミラドの家は他の家よりも一回り大きな家であったが、それほどの違いはなかった。
「上がってくれ」と言われて、ミラドの真似をして靴のままお邪魔する。
「お邪魔しまーす」
四宮が挨拶する。
「そこにかけてくれ」
とミラドはテーブルを指す。
テーブルには6つの椅子があった。
俺たちは3人並んで腰掛けた。
「おーい。何か食べ物を用意してくれ。3人分な」
とミラドが言うと、奥から
「はーい」
という女性の声が聞こえた。
しばらくすると奥から、料理を持って女性が現れた。
俺たちの目の前にパンとスープを置いてくれた。
「どうぞ。あまり裕福なわけではないので、そのくらいしか出せないけどな」
とミラドは言った。
「「「いただきます」」」
と言って俺たちは夢中で食べた。
食べ終わるとミラドは俺たちの今の現状を教えてくれた。
この世界のこと、ここはナパン王国の第三都市ベルンの近くの村でモルドという村であること。
魔法のこと、スキルのこと、そしてベルンの街に行けば転移者保護施設があること。
俺たちはミラドの話を黙って聞いた。
とうていすぐには受け入れられない内容ではあったが、疑う理由は無かった。
そして、これは夢ではなく現実であることも認めざるをえなかった。
その後ミラドはここに一泊して、ベルンの保護施設に向かったらどうかと提案してくれた。
今日一泊させてくれるのはありがたい。
しかし、ベルンの保護施設に世話になるのには抵抗があった。
俺は元の世界では施設で育っていた。
産まれてすぐに父は亡くなり、母は病気がちだったため、俺は施設に入れられていた。
施設は裕福ではなく、毎日3食最低限の量の食事だけ。
学校へ行くようになっても、まともに筆記用具も買えなかった。
俺には幸い資金を援助してくれる人がいた。
母親の入院費も出してくれていたみたいだ。
その人とは一度会ったことがある。
俺は交通事故のショックで小学校入学以前の記憶があまりないがうっすらと覚えている。
「イオウおじさん!」
と俺が言って手を繋いでくれた記憶を。
小学校入学してすぐに、母が他界した。
それでも援助は続いていたらしく、俺は筆記用具などを買うことができた。
しかし、同じ施設の上級生から生意気だと言って殴られて、筆記用具を没収された。
俺は悔しかった。
強くないといけない。
強くないと自分の身は守れないと思った。
俺は喧嘩が強くなるように努力した。
一度上級生5人に絡まれたが、返り討ちにしてからというもの俺にちょっかいを出す奴はいなくなった。
俺は援助のおかげで、高校にも入学できた。
一度会ったきりおじさんと会うことは無かったが、卒業したら、働いておじさんに恩を返さなければと考えている。
ということもあり、俺は転移者保護施設に世話になるのに積極的では無かった。
ミラドは冒険者の話もしてくれた。
この村にも冒険者ギルドの出張所があるそうだ。
誰でも冒険者に登録できるし、稼ぐこともできる。
依頼の受諾や、完了報告は出張所でもできるが、登録はベルンに行かないとできないらしい。
俺たちは明日ベルンに向かうことにした。




