21、 覚醒
俺と四宮は追ってくるオーガから必死に逃げている。
野口はもう近くにはいない。
うまく逃げることができたのだろうかなどと、他人を気にしている余裕はない。
オーガは確実に俺と四宮との距離を縮めてきている。
その時だった。
「あっ」
と言って俺と四宮が走るのを止めた。
目の前には川があった。
俺たちの探していた川だ。
だけどこんな時に見つからなくても。。。しかもかなり大きな川で向こう岸に渡るのは容易ではなさそうだ。
「追い詰められたか」
俺はオーガと向かい合いながら言った。
オーガは追い詰めた獲物を逃さないようにとでも考えているのか、慎重に俺たちとの距離を詰めてきている。
重圧に耐えきれず、四宮が叫んだ。
「こないで!もう許して!」
両手を伸ばしながら命乞いをする。
すると再びオーガの動きが鈍くなった。
俺ははっと気づいて四宮に言った。
「まさか四宮がやっているのか?」
「私にもわからないの。ただ、私の体の中から力が出ていっている感じがする」
と四宮が答える。
「今しかチャンスは無い」
と言って俺はオーガに向かっていった。
オーガに手が届く距離まで近づいてから、俺はオーガの太ももに蹴りを放つ。
もともと身長差が大きく、上半身には届かない。
また、最終的に逃げ出すためにもオーガの足にダメージを与えたかった。
しかし、何度かローキックを放つがオーガに効いている様子はない。
先にこちらの足が潰れてしまいそうだった。
再度蹴りを放とうとした時だった。
「翁くん。もうだめ。抑えきれない」
と四宮が言った。
少しずつオーガの動きが元に戻って行く。
オーガが拳を振り上げ俺に照準を合わせる。
「やばいっ」
俺は危険を感じバックステップをする。
ドッカーン!
オーガの拳が振り下ろされた。
直撃こそは免れたものの。
俺は衝撃で四宮の近くまで吹き飛ばされる。
ダメージはそれほどではないが、対抗策が全く浮かばない。
オーガがこちらへゆっくり向かってくる。
四宮は力をつかい果たしたのか地面にへたり込んでいる。
「翁くん。逃げて。私は動けそうもないよ。」
「ばかやろう!お前を置いて逃げる事なんてできるわけねーだろ!」
と俺は怒鳴った。
「でもこのままだと2人とも殺されちゃうよ。翁くんだけでも助かって」
四宮は涙を溜めながらそう言う。
四宮を置いて逃げる事なんてできない。
どうすればいいんだよ。
いつも偉そうにしていてこれかよ。
こんな時になんで俺は何もできないんだよ。
俺にオーガを打ち倒す力があれば。
俺にオーガの顔面に届くくらいのジャンプ力があれば。
俺にオーガを翻弄できるくらいの速さがあれば。
俺に・・・・・・
その時俺の体が金色に光出した。光はどんどん強くなる。
「翁くん。。。」
四宮が驚いて俺を見てくる。
何だこれ?体が軽い?力が湧いてくる。
これなら戦えるかもしれない。
状況を挽回するチャンスかもしれない。
行くしかない!
「うぉぉぉ」
俺はオーガに向かって走り出した。
想像を絶するスピードに戸惑うもオーガに手が届く少し手前でジャンプし、オーガの腹を思いっきり殴った。
ドーン!
俺の拳は見事オーガに命中した。
オーガの巨体がは殴られた衝撃で何十mも吹っ飛ぶ。
途中何度も地面に打ちつけられて、ようやくオーガの巨体が止まった。
オーガはぴくりとも動かない。
「すっげぇ力だ。信じらんねぇ」
今も俺の体から金色の光は出続けている。
「すげぇ力だが、やべぇな。体力がどんどん減っていっているのがわかる。このままだとあまり長い時間は戦えないな」
と言っているとオーガが意識を取り戻して起きあがろうとしている。
「短期決戦だな」
俺はオーガに向かって走り出す。
オーガはまだ完全に起き上がれていない。
俺は中腰になっているオーガの顎に下から蹴りを入れた。
オーガの巨体が上に飛ぶ。
俺もオーガに合わせてジャンプし、オーガの顔面を今度は下に撃ち下ろすように殴った。
ドカーン。
地面に叩きつけられるオーガ。
そのままオーガの首を目掛けて、俺は膝を立てて落下した。
ボキッ!
俺の膝はオーガの首に命中し、オーガの首の骨を砕く音が響いた。
オーガの全身から力が抜けて、二度と動くことは無かった。
「ふうっ」
と息を吐くと金色の光が消えた。
全身から力が抜けて俺は尻餅をついた。
「翁くん」
四宮がゆっくりとこちらに駆け寄ってくる。
あぁ四宮もぼろぼろだなぁなどと俺は考えていた。
「翁くん。大丈夫?」
「あぁ俺は大丈夫だ。ちょっと疲れたけどな。四宮は大丈夫か?」
「うん。なんともないよ。私も少し疲れたけど。。。」
四宮はその後の言葉をもじもじしながら言い難そうに言った。
「翁くん。助けてくれてありがとう。その、、、お前を置いて逃げることなんてできないって言ってくれたのは、とってもうれしかった、、、です。」
四宮は顔を赤くしながら言った。
俺もつられて顔を赤くしながら、
「ばーか。あんな状況で1人で逃げられるわけねぇだろ」
と言った。
「おーい」
遠くから声が聞こえる。見ると野口が走ってきていた。
「四宮さんも澤口くんも無事だったのかい。よかったー」
野口が言う。
「あぁなんとかな。野口はどうしていたんだ?」
俺は聞いた。
「僕は恥ずかしながら夢中で走って逃げたんだ。そうしたら川を見つけたんだよ。君たちに報告しようと恐る恐る戻ってきたら、オーガが倒れていたから、君たちが勝ったんだと思ったんだ。戦いには参加できなかったけど、川を見つけて役に立ったでしょ」
「あぁ俺たちも川は見つけたよ。戦いながらな」
「・・・まぁなんだ。本当に無事で良かったよ。アハハ」
野口はバツが悪そうに言った。
「とりあえず川に沿って街を目指そう」四宮が言って立ち上がった。




