189、砂漠の花捜索隊
僕たちはポッタの家に来ている。
ポッタ(兄)とポルカ(妹)の兄妹2人暮らしで、両親は数年前に他界しているようだ。
家の中は、それほど裕福では無さそうだが、食べる物に困るほど貧困でも無さそうだ。
何でも、ポッタは幼い時から家業を継いで、生計を立てているそうだ。
ポルカは可愛らしい女の子で、病気のせいかはわからないが、真っ白い肌をしていた。血の気が引いたような青い唇、目の下にクマがあり、微かに手が震えているようだ。
ポッタは逆に真っ黒に日焼けした肌をしているので、兄妹だと言われなければわからない。
ポルカはベッドに横になり、吐息は掠れ、乾いた喉からはヒューヒューという音が漏れていた
顔には汗をかいており、ポッタが拭ってあげると、ポルカは目を覚ました。
「お兄、、、ちゃん。お帰りなさい」
「ポルカ。大丈夫っすか?」
「うん。昨日よりも少し楽になったかな」
とは言うもののかなり苦しそうだった。
昨日はもっと酷い状態だったのだろうか。
「ポルカ。もう少し我慢するっすよ。必ず砂漠の花を持ってくるっすから」
「お兄ちゃん。無理をしないでね」
「わかっているっす」
ポッタがそう返すと、ポルカは安堵したように眠りについた。
「一昨日からこんな感じっす」
僕たちはポッタの家の椅子に座り話を聞いていた。
ポッタの話を聞いて心が痛んだ。なんとかしてあげたい。
もちろんそう思っているが、安易な約束でポルカに希望を抱かせ、もし叶わなかったら、その失望はどれほどのものになるだろう。できないことを易々と引き受けて、期待を持たせることもできない。
窓から差し込む冬の光がポルカの顔を白く照らし、その輝きが僕の心に刺さる。何か僕にできる事はないのだろうか。
「砂漠の花の咲く場所については、予想とかできないのかしら」
「わからないっす。砂漠の花はここ数年取れたという話は聞いていないっす。そもそもこの砂漠は夜になると魔獣がわんさか出てくるっす。そのため、夜に砂漠を探索する人はほとんどいないんすよ。」
「うーん。ただ砂漠を探し回っても見つかる可能性は低そうよね」
確かに姫乃先輩の言うとおりだ。
ミトが何か知らないか聞いてみるかな。
そう思った時、僕にひとつ閃きが降りてきた。
「この病気ってウィンの回復魔法で治らないかな?」
姫乃先輩もハッとした顔をして言った。
「試してみる価値はあるよね」
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「ごめん。僕の魔法じゃ無理だ。」
というのがウィンの答えだった。
僕はすぐにウィンを呼びに行ったのだが、回復魔法は元の状態に戻す魔法であって、元々の能力を上げることはできない。体が弱いとか持病などを治すことはできないそうだ。
「病気を治す魔法を作ることもできない?」
魔法創造士と看板を掲げているウィンならばできるのではないかと思った。
実際に赤虎の時は炎を防ぐために、「水の羽衣」という魔法を作り出したのだから。
「それも無理。魔法を創造するには頭の中で組み立てないといけない。原理がわからないとできないんだ。僕には病気を治す原理がわからないんだ」
ウィンの言葉は、僕の中に一瞬灯ったばかりのロウソクの火を、あっけなく吹き消した。胸の奥が冷たくなり、思わず声が漏れた。
「そっかぁ」
仕方がない。ミトに聞いてみるかと思っていると、トントントンとノックがした。
声をかけていたミトが来たのだ。
「砂漠の花ですか。入手困難なことは知っていますが、それ以上のことは、、、」
「そっか。。。」
ミトの知る限りでも情報が少ないと聞き、またしても暗闇に突き落とされた気分だった。八方塞がりだ。そう思った矢先、彼の言葉が僕の耳に届いた。
「しかし、、、2日ほど頂ければ可能な限り情報を集めてきますよ」
「ほんと!?」
「ええ。皆さんは砂漠の花を取りに行く準備をしておいてください」
ミトの真っ直ぐな瞳に、一筋の光明を見た。ミトならきっと道を見つけてくれるだろう。頼もしさに胸がいっぱいになった。
僕たちは情報収集をミトにお願いし、準備をする事にした。
準備と言っても、サンダルを買うくらいかもしれないが、、、
翌日、ミトから声がかかって、ポッタの家に集まった。
四宮さんも一緒になり、全員集まるとポッタの家はいっぱいいっぱいの状態だ。
それにしても、ミトはやっぱり優秀だと思う。
みんなを集めたという事は、情報が集まったのだろう。
ちゃんと仕事をこなす事もそうだし、2日と言っていたが実質は1日。
「砂漠の花について調べてみました」
と早速ミトは話を始めた。
ミトが集めてきた情報は以下の通り。
▪️砂漠の花は月が出ている時のみに咲く
▪️月の光に反応して青白く光る。その光は月の光が
満ちているほど強い。満月の時が一番光が強いという事だ。
▪️砂漠の花の周りには魔獣が集まりやすい。
短時間でこれだけの情報を集めてくれたミトに感謝をしながら作戦を立てる。
ちょうど今夜が満月なので、今夜に砂漠の花を探しに行く事にした。
それにポルカの苦しそうな様子を見ていると、それほど悠長に構えていられない。
捜索のメンバーは姫乃先輩、ウィン、四宮さん、リムと僕だ。
ミトは戦闘で足を引っ張るからと言って待機を申し出た。
捜索の方法は飛びながら光っている花を探す。
僕以外はみんな空中に滞在する術を持っていたので、僕は戦闘要員となる。
僕たちは日が暮れるまで、各自で休息を取った。
夕方、街の入口に集まる。
ポッタが見送りに来てくれていた。
「皆さん。妹のためにありがとうっす。この御礼は必ずするっす」
「まだ見つかるかわからないけどね。でも全力で探してくるよ」
そう言って、僕たち砂漠の花捜索隊は街を後にした。




