182、ズルい女17 ひ め の る な
真っ暗な闇の中を落ちていく。
ゆっくりと落ちていく。。
落ちていく。。。
落ちていく。。。。
急に私の脳裏にあるビジョンが浮かんだ。
多方から悲鳴が聞こえる。
街の人が逃げ回っている。建物は炎に包まれて、人々が逃げ回る。
そして、大人たちが戦っている。
襲ってきているのは黒い影のようなもので、はっきりとはわからない。
大人たちは必死に抵抗するが、次々に殺されていく。
建物も次々に破壊されていく。
街が燃える。
何かに手を引かれて戦場が遠ざかっていく。
燃え続ける建物。
その隙にも次々と殺されていく大人たち。
視界はどんどん遠ざかっていく。
大人たちは倒されても倒されても、影の行手を防ぐように立ち塞がる。
まるで影をこちらに向かわせないために。
空は真っ暗。月は見えないが、星はとても近くに見えた。
そしてさらに真っ暗な空間に入っていった。。。
私の知っている光景。。。?
私の記憶?
そして真っ暗な闇の中に戻る。
勇くんの声が聞こえる。でももう動くことはできない。
声も出せない。目を開けることもできない。
意識が闇の中を落ちていく。
姫乃 月は落ちていく。
ズルい女は落ちていく。
ゆっくりと落ちていく。
落ちていく。
落ちていく。
落ちて、、、
、、、、、、、、、
私の意識が途絶えたその瞬間、首につけていたネックレスの宝石の部分が強烈に光出した。
宝石から発せられる光は私を包み込む。
一度意識を手放した私は、強制的に現実に引き戻された。
宝石から生命エネルギーが体の中に流れ込んでくる。
そのエネルギーは体全体を巡り、一度は失った生きる力を再び吹き込んでいく。
何が起きたのかわからない。
ただ、私は死んでいないことはわかった。
いや、一度死んで生き返ったのだと思う。
ピキッ
と言う何かが砕ける音がした。
私はゆっくりと目を開ける。
いつの間にか胸の傷も塞がっている。
胸元ではコートの人から貰ったネックレスの宝石が砕け散っていた。
「姫乃、、、先輩、、、?」
勇くんが戸惑いながら私の名前を呼んだ。
目を大きく開けて、涙が伝った後が頬に残っている。
あぁ。
またこの愛おしい顔を見る事ができた。
「勇くん。。。」
「姫乃先輩。。。よかった。。。」
勇くんはまた涙を流す。
でもこの涙はさっきまでの涙とは違った安心の涙。
「心配させてごめんね」
そう言いながら私は起き上がり、勇くんの頭を胸に抱いた。
勇くんは相変わらず、啜り泣きをしている。
私のために本気で泣いてくれる人がいる。
それも私の大好きな人がだ。
私は本当に幸せ者だなと思った。
しばらくして、ようやく落ち着いた勇くんが聞いてきた。
「姫乃先輩。本当に何ともないんですか?」
「うん。私も驚いているの」
本当にわからないことばかりだ。
おタマさんのあの変貌ぶりは何だったのだろうか。
私は砕けたネックレスを見る。
コートの人も謎だらけ。
なんで私にネックレスをくれたのか。リクさんたちが私たちを鍛えてくれたのも、コートの人の根回しだと思う?
ネックレスのおかげで助かった事は間違いないし、リクさんたちの教えがなければもっと早い段階で私たちは死んでしまっていただろう。
ただ、何故私たちを助けてくれるのだろうか。
コートの人は何者なのだろうか。
お礼も言いたいし、理由も聞いてみたい。
「姫乃先輩?」
黙り込んでしまった私を怪訝に思ったのか、勇くんが声をかけてくれた。
「あっうん。本当にもう大丈夫だよ」
と私は立ち上がった。
「宿に戻ろうか」
「はい」
私と勇くんは宿を目指して歩き出した。
いろいろな人に助けられて、支えられて何とか命を繋ぐ事ができた。
まだまだ私たちの力は足りないし、わからない事は沢山あるけど、一歩一歩進んでいこう。
隣にいる勇くんと一緒に。
ズルい女はまだ生きていられるようだから。




