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インテグレイション オブ ワールド  作者: アサム
第一章 目覚め
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18、告白

僕はハッと気づいて、姫乃先輩を見た。

先輩の脇腹からはいまだに血が、生命が流れて行っている。


「早く治療をしないと」

でもここから街まではどんなに急いでも1時間以上はかかる。

どうすれば。どうすればいいんだ。


「僕は無力だ」

そう言いながら涙を流した。

その時、姫乃先輩が意識を取り戻した。


「勇くん。」

姫乃先輩の顔は青白く、声にも力がない。


「姫乃先輩!」


「勇くん。泣かないで。私は大丈夫だから。」

そういうと姫乃先輩は目を閉じた。


少しして

「あれ?おかしいな。どうしてだろう。」

姫乃先輩は意識が朦朧としているのか、意味がわからない言葉を発している。


「そっか」

フーッと息を吐きながら姫乃先輩は言った。


「私満足しちゃってるんだ。絶望してないんだ」


「死を間近にして、もう傷口から痛みも感じない状況でも」


「それでも勇くんに抱きかかえられている、勇くんが私のために涙を流してくれている、この状況に満足しているんだ。」

姫乃先輩はそう言うと穏やかな目で僕を見つめて言った。


「勇くん手を握ってもらえるかな。」


「はい。」

僕はそう言うと姫乃先輩の手を握った。

姫乃先輩もその手をしっかりと握り返してくれた。


「勇くん。この前森の出口で真壁くんと戦っている時に私が言った言葉覚えているかな?」


真壁との戦闘のときに姫乃先輩が言った言葉。

忘れるわけがない。

先輩は僕を尊敬していると言ってくれた。

先輩は僕のようになりたいと言ってくれた。

そして、僕を好きと言ってくれた。

たとえ僕を奮い立たせるための言葉だったとしても、僕は嬉しかった。夢のような言葉だった。


「はい。覚えています。忘れるはずがありません」


「ふふふ。ありがとう。でもキミは私の言ったことを、その場しのぎの言葉だとでも思って信じていないようだけど。」

姫乃先輩は苦笑しながら言った。


「勇くん。私はキミが好きだよ。愛している。こんな気持ちになったのは初めてで、どんなことを言っていいのか、どんな行動を取ればわからなくて、戸惑うばかりだけれど、、、」


「姫乃先輩。」

さらに姫乃先輩は続けた。


「キミは私のことはほとんど知らないと思うけど私は一年前。キミが中学生の時から知っていたよ。最初は登校中にたまたまキミを見かけたのだが、キミは見知らぬお婆さんに手を貸していた」


「ある時は泣いている子供を助けていた。不良グループに絡まれている男子を助けに入って殴られている時もあったかな。」


「キミはいつも人を助けていた。この高校に入学したことを知って私の胸は高鳴ったよ。気づけば視線がキミを追っていた。勇くんは入学後もいろんな人を助けていた。そして、真壁くんから私も守ってくれた。」


「そんな勇くんが実は自分に自信がなく。自分の事になると途端に臆病になる。同級生にちょっかいをかけられても黙って耐えている時もある」


「そんなギャップのあるキミを見ていると、守ってもらいたいという気持ちと、見守ってあげたいという気持ちが入り乱れ、いつの間にか好きになっていたんだ。」


「勇くん。改めて言わせて貰うけど私はキミが好きだよ。元いた地球とAEの中で誰よりもキミを愛しているよ。死が間近に迫ったこの状況なら信じてもらえるかな。」


「はい。ありがとうございます」

僕は泣きながら、嗚咽混じりに答えた。


「この世界に来て大変なことばかりだったけど、キミと一緒に過ごせたこの数ヶ月は私は幸せだったよ。もっと早くキミにしっかりと気持ちを伝えていればよかったと思う反面、こんなことになってしまったけれど、死ぬ前にキミに私の本当の気持ちを伝えることができてよかった」


「勇くん。ありがと・・・」

ふっと姫乃先輩の握っている力が抜けた。


「姫乃先輩?」姫乃先輩から返事はなかった。

僕は止まらない涙こぼしながら言った。


「姫乃先輩いやです。僕には先輩が必要です。これからも僕の道標になってください。」

姫乃先輩からの返事はない。


僕は姫乃先輩の口に顔を近づけた。かろうじて息はしているが、今にも止まってしまいそうな弱い息遣いだ。

僕は堪らなくなって叫んだ。


「僕も姫乃先輩が大好きです!愛しています!」

「姫乃先輩どこにも行かないでください!」

その時だった。姫乃先輩の体が光り出した。

光はどんどん強くなっていく。

すると姫乃先輩の体を貫いている氷の槍が砕け散り、見る見るうちに姫乃先輩の傷が塞がっていく。

そのまま、傷が全て塞がると光は徐々に弱くなり消えた。

姫乃先輩は気を失っているものの、呼吸には力強さが戻っていた。


僕は今目の前で起きた奇跡が信じられず、周りをキョロキョロと見回したが、誰もいる気配はない。

すると今度は僕と姫乃先輩を青白い光が包見込んだ。

目の前が真っ暗になったと思った直後、目の前には僕たちが暮らすベリルの街の門があった。


「何が起きた?瞬間移動?」

僕は状況を把握できない。


「姫乃先輩は?」

姫乃先輩を見ると、穏やかに眠っていた。

僕は安心して、姫乃先輩を抱きかかえながら立ち上がると、歩き出した。


「何がなんだかわからないけど、助かった・・・のかな?とりあえず施設に戻ろう。」

施設に戻って姫乃先輩をベットに寝かせた。

しばらくすると姫乃先輩は目を覚ました。


「勇くん?あれ?私どうしたのかな?」


「僕にもわかりませんが、先輩が急に光出して、傷が治って。」

僕は要領を得ない説明をしたが、先輩はしっかりと聞いてくれて理解してくれた。


「そっかぁ。理由はわからないけど、私は助かったのね。」


「はい!」僕は涙を溜めながら返事をした。


「勇くん。それよりも私が気を失いかけている時、なんて言ったのかな?確か好きです。とか愛してるとか。どこにも行かないでとか。」


僕は顔が真っ赤になり、パニックになった。

「ちゃっちゃうんです。あれはその・・・」

僕は黙ってしまった。

姫乃先輩は穏やかに微笑みながら言った。

「うふふ。ゆっくりでいいの。また言えるようになったら、聞かせてね」


「すみません・・・」


「勇くん。私はもうどこにも行かないわ」


第四章に続く。

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