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インテグレイション オブ ワールド  作者: アサム
○▼※△%章
179/190

179、ズルい女14 ひ め の る ▪️

「何だお前たち。防御は捨てたのか?」

赤虎が言う。


「その纏っていたものが無ければ、吾輩の攻撃で一瞬のうちに消炭になるぞ」

そのとおりなのは重々わかっている。

それでもやらなければならないのだ。


赤虎は前足や尻尾を使って、攻撃を仕掛けてくる。

勇くんと翁くんは必死に避ける。


赤虎の攻撃は触れただけでも死は免れない。

それに赤虎が纏う高熱の炎は直接触れなくても、火傷を負わされてしまう。


そのため、いつもより大きく避けなくてはいけないので、2人の動きは遅れがちだ。


それでも勇くんと翁くんの火傷の箇所がどんどん増えていく。


赤虎が尻尾を振るう。

勇くんがジャンプで避ける。

しかし、赤虎は尻尾の軌道を変えて、ジャンプしている勇くんを狙った。


「危ない!」

と私は声を出すが、空中では思うように動く事はできずに赤虎の尻尾は勇くんに命中して、勇くんは炎に包まれた。


ハッと意識が切り替わる。

勇くんは無事だ。

戻ったんだ。


勇くんがジャンプで避ける。

その時、即座に私は勇くんに巻きつけている糸を引いた。

勇くんの体を強制的に移動させて、尻尾をかわす。



勇くんは着地すると私を見た。

心の中で「ごめんなさい」と謝りながらも私は頷いた。


その途端に意識が切り替わった。

えっ?

勇くんが糸に引っ張られて着地した。

戻った??


すぐさまに翁くんを見た。

翁くんが赤虎の爪に裂かれながら火だるまになった。


また意識が切り替わった。

勇くんが糸に引っ張られて着地した。


すぐに翁くんの糸を引っ張る。

翁くんの体が少し後方に飛んで、赤虎の爪をかわした。


勇くんがこちらを見ている。

私は勇くんに頷いた。


初めてのことだった。

私は翁くんの死を認識していなかった。

それでも戻りが発動したのだ。


私は戻りの発動条件を自分の絶望感だと思っていた。

今回の戻りは認識をしていなかったので、絶望のしようがない。

コートの人が言うように、発動条件が違うのだろう。

何にしても発動してくれて良かった。


しかし、ホッとしている余裕は無かった。

赤虎は火球を2つ吐き出した。

勇くんは月刀に薄緑の光を纏わせて火球を斬り、消滅させた。

翁くんは火球を避けるが、火球が地面に着弾した際の爆炎に飲まれてしまった。


またしても戻りが発動する。

私は翁くんが爆炎に飲まれないように糸を引っ張った。


勇くんが赤虎の爪に引き裂かれた。

また戻る。


翁くんが赤虎の強靭な顎で噛み砕かれる。

また戻る。


勇くんが赤虎の尻尾に体を掠めて燃え尽きる。

また戻る。


涙が溢れてくる。

でもそんなそぶりはみんなには見せる事はできない。

みんな必死に戦っているのだ。


2人が近づきすぎると、赤虎は広範囲の炎を放ってくる。

近距離での広範囲攻撃をかわすことはできずに2人が飲まれる。

また戻る。


5分がとても遠い。


勇くんが踏み潰される。

また戻る。


もうやめて。


翁くんが炎に包まれた。

また戻る。


もうやめて。

涙が止まらない。


勇くんが噛み砕かれる。

また戻る。


もう許して。

「うぅ」

胃から込み上げてきて、私は吐いた。

でも前線のみんなには悟られたくない。


勇くんが切り裂かれる。

また戻る。


もう許して。

ガチガチ

と音が聞こえる。

何の音?と考えた。

私の歯がぶつかり合う音だった。

全身が震えていた。


「一閃」

勇くんが一閃を放ち、赤虎の左目を潰した。

これによって赤虎は怒り狂い攻撃が激しくなる。


一閃で体力を消費した勇くんは赤虎の火球をかわす事ができずに直撃を受ける。

また戻る。


「おぇぇぇ」

吐き気が込み上げ嘔吐した。

涙と胃液で私の顔はぐちゃぐちゃだ。

でもひたすらに前を向いた。

下を向いてしまうと、心まで折れてしまいそうだったから。


赤虎が再び大きく息を吸い込んだ。

広範囲の炎を吐かれると、糸を引っ張るだけでは逃れられないかもしれない。


「イグニッション」

翁くんがイグニッションを全力で発動して赤虎の正面に走る。

そして、赤虎の顔の前までジャンプし、剣を赤虎の口を目掛けて振り下ろした。


翁くんの剣は赤虎の鼻の頭に命中して、強制的に口を閉じさせると、炎を吐き出そうとした瞬間の出来事に赤虎は止めることができず口の中で暴発した。


助かった!と思った瞬間、翁くんは暴発した爆風に飲み込まれた。

また戻った。


私は吐きながらも、爆風に飲み込まれる前に翁くんを引っ張った。


確実に前線2人の動きが衰えてきている。

2人の体力の限界が近い。


戻りが発動する頻度も増えてきた。

もう吐いても胃液しか出てこなくてなった。

何度も何度も見続ける仲間の死。

何度も何度も見せられる最愛の人の死。


赤虎の攻撃が激しくなる。

また戻る。

戻ってしまう。


視界が狭くなってきた。

戻るたびに押し寄せてくる嘔吐感。

涙が止まらない。


何で私ばかりこんな思いをしなくてはならないのか。

何でこのまま終わりにしてくれないのか。

何で誰も助けてくれないのか。

何で、、、何で、、、何で、、、何で、、、何で、、、

なんで、、、なんで、、、なんで、、、なんで、、、なんで、、、


もうこんな思いをしたくない。

もうこのまま終わりにしたい。

もう許してください。


視界もどんどん狭くなっていく。

その間も戻りは発動する。

何度戻りを繰り返しただろうか。

50回?いや100回は戻ったかもしれない。


もう数も数えられない。

許してください。

許してください。


私はそのまま地面に膝をつこうとした。


その時、狭くなった視界に勇くんが映った。


勇くんは必死に赤虎の攻撃をかわした。

続けて放たれた火球もジャンプでかわす。

もう薄緑の光の力を使う余裕はないのだろう。

身につけている物もボロボロ、もう体中で火傷が無いところを探す方が大変なくらいに傷だらけになりながら、、、それでも必死に前を向いて。。。



何で動けるの?

何で倒れないの?

何でそんなに頑張れるの?

何で諦めないの?



・・・・・・・・

当たり前じゃない。

私たちを信じてくれているから。


ウィンちゃんの魔法。

翁くんの奮闘。

杏奈のフォロー。


私の作戦。。。


まるまる信じてくれているから。


「わっ私がっ。倒れる訳には行かないのよ」

私は倒れ込みそうな足に力を入れた。

歯を食いしばった拍子に口が切れて唇から血が流れる。

口の中の痛みで、視界が元に戻っていく。


私は服で、口から流れた血を拭った。


「前を向いて。今私ができる事を!」

私は勇くんと翁くんに繋がる糸に力を入れた。



赤虎の火球を2人がかわす。

2人の跳躍では足りずに、糸でフォローをした。


どれくらい時間が経ったのかわからない。

でも、、、

「いくらでも粘ってみせるわ」

勇くんが折れないかぎり。。。

と気合を入れ直した。


その時、

「姫姉。みんなを戻して」


その声に反応して、ウィンちゃんの方を向いた。


「お待たせ」

とウィンちゃんは力強い目で言った。


私はすぐに2人を引っ張る。

杏奈も気がついてこちらに戻ってきた。


「じゃあ行ってくるよ」

と言ってウィンちゃんが飛び立つ。


飛び立つ間際に、

「姫姉。ありがとう」

とウィンちゃんは言った。

私の事をウィンちゃんはずっと近くで見ていた。

私が嘔吐していた事、涙を流していた事、膝をつこうとしていた事、そして諦めずに立ち続けたことを。

私の能力のことは知らないはず、でも私が苦しんでいた事はわかってくれていた。


私はまた涙が出そうになったが、勇くんたちが戻ってくる。

前線で頑張ってきたみんなにそんな顔は見せられない。


私は袖で顔をゴシゴシと拭った。

そして、できる限り凛とした表情をして、


「これからよ!最後の攻撃は3人に任せたわ!」


ギュンと私の体の中のエネルギーが勇くんと翁くんに移って行った。

この力もよくわからないが、最後の攻撃に備えて力になれる事なら何でもいいと思った。


「ようやくだなっ!」

と翁くんが言って、3人が力強い頷きをした。





ウィンちゃんの魔法は言葉にならないくらいに凄かった。


「アロン」


赤虎を四角で囲むように四方からの大きな津波が放たれ、4つの津波が一斉に赤虎を飲み込む。

赤虎の吐き出した炎は津波に当たって、一瞬のうちに消滅した。






「みんな!今だ!」

と力を使い果たしたウィンちゃんが倒れながら言った。

3人が動き出す。


まずは勇くんと翁くんが走り出した。


「Gアイスドリル!」

杏奈が魔法を放つ。


「これできまれぇぇぇぇぇ!」


長かった。


5分とは思えないくらい長かった。


何度繰り返しただろう。


あの赤虎の攻撃を一撃も受けずに耐えると言う無理難題。


でも何とかここまでたどりついた。

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