176、ズルい女11▪️め の る▪️
私たちは敗戦のあと、ブルの街に戻ることにした。
翁くんたちも一緒だ。
雪道を歩いてブルの街に向かう。
夜になると私はかまくらを作った。
ミトさんが作ってくれたスープをみんなに配る。
この寒い雪国でかまくらを作って、大勢でスープを飲む。
元の地球だったら、とっても楽しいイベントになっただろうな。
私たちはリクさんに修行をしてもらった事を話した。
翁くんたちは王威という人に修行をつけてもらったらしい。
王威さんの修行はリクさんの修行と似ているところも多かった。
「なぁ勇。俺たち以前にどこかで会った事あるか?」
翁くんが聞いてきた。
実は私もそれを感じていた。
ただ、思い出せない。
「街とかですれ違ったとか?」
「んー。そういう感じじゃないんだよなぁ」
そうなのだ。そういう感じじゃない。
もっと近しい所で出会っていた感じがする。
杏奈もしっかりとした女性だった。
ちょっと自分に自信が無さそうだけど、それは私も同じ。
いや。私は自分をズルい女だと思っている。
私の方が卑屈度合いは高いのかもしれない。
みんなが寝静まった頃、私は途中で目が覚めて、少し風に当たるためにかまくらから出た。
夜空には満点の星空が広がっている。
元の地球と比べても星座については、大きな違いはない。
それは当たり前か。
このAEは地球が分かれた存在。
宇宙は変わらないのだから。
「ふぅ」
と少しかじかんだ手を擦り合わせる。
その時、
「おい」
と後ろから声をかけられた。
敵!?
と思って距離をとって構える。
そこにはコートを着てフードを深々と被った人がいた。
声からして男の人だ。
振り向くと、
「よぉ」
「あっ。あの時の、、、その節はありがとうございました」
あの時の人だ。
コートの人はベルンの街を旅立ってすぐに力不足を指摘してくれて、月刀を取りに行くように薦めてくれた人。
そのおかげで、リクさんたちとも出会う事ができて、今の私たちがある。
そして、この時は気がつかなかったけれども、ベルンの街で私が襲われた時に助けてくれた人でもあった。
「気にすんな。あいつらとは会えたみたいだな」
「はい。いろいろ教えてもらって、修行も付けてくれました」
「よかったじゃねぇか」
「それで、こんな所でどうしたのですか?」
どうして私に話しかけてきたのだろうか。
敵意があるとも思えないし、何だか安心できる人ではあった。
「ちょっと聞きたいことがあってな」
「はい。お答えできることなら」
「嬢ちゃんと一緒にいる精霊のことだが、、、」
「リムちゃんのことですか?」
「本名はなんて言うんだ?」
「確かリンドムーンだったと思います」
「やっぱりか。。。」
「それがどうかしました?」
リムちゃんがどうかしたのだろうか。
「いや。こっちの話だ。そのリムって精霊はこの世界を救うキーマンになりうる存在だ。今は力を失っているようだが、その時まで見守ってやってくれ」
「はい。リムは私たちの仲間ですので、、、」
もちろんリムちゃんは仲間だから守るのは当然だ。
だけど、世界を救うキーマン?
どういうことだろうか。
でも、おそらくこれ以上の事は教えてくれないだろう。
「そうだったな。。。まぁよろしく頼む。あのへなちょこのこともついでにな」
へなちょこ?
あぁ。勇くんの事を言っているんだ。
もうへなちょことは言えないかもしれませんよ。
「はい」
「あっそうそう。嬢ちゃんにこれを渡しておく。肌身離さず身につけていてくれ。必ず嬢ちゃんの助けになる」
「わぁ。綺麗な赤い宝石。こんな高価そうなネックレスもらってしまってもいいのですか?」
「気にすんな。その代わり俺と会ったことはしばらく内緒な」
「あなたが悪い人とは思えませんので、何か考えがあるのですね。わかりました」
「じゃあみんなと仲良くな」
「あっそれと、嬢ちゃんの力だが、、、発動の条件は嬢ちゃんが思っているようなものではないと思うぜ。まぁどちらにせよろくでもない条件だろうがな。。。」
「えっ?それって、、、」
「じゃあな」
「ちょっと待って、、、行っちゃった。あの人は私の力を知っているの?」
どうして私の力を知っているの?
あの人はだれなの?
私の戻る力は私が絶望した時に発動する物と考えている。
違うの?
絶望した時に発動するわけじゃないって、、、他にどんな条件が、、、
コートの人はたくさんの謎を残したまま去っていってしまった。
私はその場にしばらく立ったまま、呆然としていた。
翌日もブルの街に向かって歩いて行く。
私は言われたとおり、昨日もらったネックレスは首に付けている。
コートの人は肌身離さず身につけておくように言っていたので、理由はよくわからないが、その通りにしようと思う。
「姫乃先輩。ネックレスどうしたのですか?」
早速勇くんがネックレスに気がついた。
「うん。貰っちゃった。似合うかな?」
誰に?と聞かれたら何て答えようかなと考えていたけど、勇くんはその点については聞いてこなかった。
「めちゃくちゃ似合ってます。ベリーグッドです。クリティカルです!」
「ははは。よくわからないけどありがとう」
歩きながらも昨日のコートの人とのやり取りが頭に浮かぶ。
私の能力を知っている人。
私の能力の発動条件。
いくら考えても答えが出ない事はわかっている。
それでも頭に浮かんでくるのだった。
そんな中、気持ちが少し軽くなった事もある。
私の能力を知っている人がいる。
今まで私は自分の戻る能力を誰にも話した事がない。
それは、言ったとしても信じてもらえないと思っているから。
証拠も出す事はできないし、実際やってみる事もできないのだから、信じてもらえようもない。
それと、何度も何度も仲間を殺してしまっていることからの負い目。
私はズルい女だから。。。




