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インテグレイション オブ ワールド  作者: アサム
○▼※△%章
170/190

170、ズルい女⑤▪️め▪️ ▪️▪️

明け方近くになり、私たちはようやくベルンの街に帰還することができた。

ストロングウルフや真壁くんとの戦闘で私たちの疲労はピークに達していたので、すぐさま施設に戻り私たちは眠りについた。


トントントン

しばらくして、私の部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「はい」

と言って扉を開けると、フードを被った人が立っていた。

顔は見る事ができない。


「何か御用、、、」

グザッ

フードの人はいきなりナイフを出して、私のお腹を刺した。


突然のことで、何がなんだがわからない。

とりあえず命の危険が迫っている事だけは把握して、

「だれかっ。助けて!」

と叫んだ。

腹部を刺されている私は、助けを呼ぶ事くらいしかできない。

刺された所からは血がとめどなく流れていて、私は立っている事ができずにその場に倒れた。

いたいいたいいたいいたいいたい。


誰かが私の声を聞いて駆けつけてきてくれたようだ。

フードの人を後ろから押さえて、フードの人が足掻く。

駆けつけて来てくれたのは勇くんのようだ。


フードの人と勇くんが揉み合いになる。

フードの人のナイフが勇くんの首を掠めた。

勇くんの首からは血液が噴き出す。


「いやぁぁぁぁ」

フードの人が叫ぶ。

フードの人の声は女性だった。

慌てている?

動揺している?

何で?


私も意識が薄れていく。。。



ハッと気がついた。


トントントン

扉をノックする音が聞こえた。

戻ってしまったみたいだ。

戻る事ができたと言った方がいいのだろう。


このままドアを開けたらフードの人に襲われてしまう。

私は糸を使って、窓からそっと外に出た。

走って逃げたい所ではあるが、ストロングウルフとの戦闘で受けた傷が痛み、走る事ができない。


フードの人が窓から私を確認している。

ノックしても出てこないので、痺れを切らしてドアを開けたのだろう。

フードの人が窓から飛び降りた。

追ってくる!


ここには人通りがいない。

早く人がいる場所までいかないと。

そうすればフードの人も諦めるはず。


私は急ぐが走るフードの人の方が断然速い。

追いつかれる!


そう思った時に、私とフードの人の間にコートを着た人が割って入った。

フードの人がナイフを突き出すが、コートの人はナイフを軽々と叩き落とす。

すると勝てないと思ったのか、フードの人は逃げていった。


「助けてくれてありがとうございます」


「ふぅ。物騒だな。嬢ちゃん気をつけなよ」

と言うと、コートの人はすぐに去っていった。


今思えば、私たちがベルンの街を出発してすぐに出会ったコートの男の人。アルの村で刀を探すようにアドバイスをくれた人と同じ人だったのだろう。

だからあの時、私はコートの男の人の話をすんなりと聞く事ができたのかも知れない。



その後も何度か私は襲われたが、何とか逃げる事に成功して、ピクニックの日を迎えた。

ピクニックは楽しかった。

AEに来て初めてのお出かけ。

勇くんと今は別々になっちゃったけど芽衣ちゃんもいた。

3人並んで手を繋いで歩いた。

咲いている花を見たり、川で泳いでいる魚を見たり、何でもない事でも楽しく感じた。

元の地球でもこんなふうに心の底から楽しかった事はなかったかも知れないな。


でもその楽しいピクニックもまた真壁くんに邪魔された。


何とか勇くんが真壁くんを退けたけど、私は芽衣ちゃんの魔法でお腹を貫かれた。

私のお腹から2本の氷が生えているように見える。


すぐに勇くんが抱き起こしてくれた。

勇くんと芽衣ちゃんが何か話している。

でも会話の内容は頭に入ってこなかった。


あぁ。

また戻るのかな。

ピクニックの途中まで戻ってくれるといいな。

またあの楽しい時間を過ごしたい。

それだったら何回戻ってもいいかもしれない。


勇くんと芽衣ちゃんの会話は頭に入ってこないが、「好き」という単語は聞こえて来た。


そうだよね。

芽衣ちゃんも勇くんの事が好きだもんね。

だから私が邪魔になっちゃったのかな。。。


少しすると会話が終わり、芽衣ちゃんはいなくなったようだ。


私のお腹からはゆっくりと、そして確実に血液が流れ落ちている。

死に近づいている実感はある。

しかし、勇くんに抱かれながらというのは悪くないなと思った。


勇くんは涙を流す。

心配しないで勇くん。


「勇くん。」


「姫乃先輩!」


「勇くん。泣かないで。私は大丈夫だから。」

たぶんそろそろ戻ると思うから。

そう言って私は目を閉じた。


少しして

「あれ?おかしいな。どうしてだろう。」

戻らない。

どうして?いつもこのくらいのタイミングで戻るのに。


「そっか」

この時間を戻す能力の発動条件は絶望なんだ。

私が絶望を感じた時に戻るんだ。

私が瀕死の時、勇くんが殺されてしまった時、いつも私は絶望を感じた。

それが発動条件だったんだ。


花巻さんが死んじゃっても発動しなかったのは、、、

ははは。やっぱり私はズルい女なんだ。

薄情な女なんだ。


今この命を落とそうとしているこの時を、勇くんに抱き抱えられて迎えている事に


「私満足しちゃってるんだ。絶望してないんだ」

だから発動しないんだ。


「死を間近にして、もう傷口から痛みも感じない状況でも」


「それでも勇くんに抱きかかえられている、勇くんが私のために涙を流してくれている、この状況に満足しているんだ。」


私は勇くんを見つめた。


「勇くん手を握ってもらえるかな。」


「はい。」

勇くんは私の手を握ってくれた。

姫乃先輩もその手をしっかりと握り返してくれた。

最後の瞬間まで握っていて欲しかった。

このくらいのわがままは許してくれるよね。


「勇くん。この前森の出口で真壁くんと戦っている時に私が言った言葉覚えているかな?」

あとどれくらいの時間が私に残されているのだろうか。


「はい。覚えています。忘れるはずがありません」


「ふふふ。ありがとう。でもキミは私の言ったことを、その場しのぎの言葉だとでも思って信じていないようだけど。」

少しでも長く勇くんと話をしていたい。

そして、ちゃんと私の想いを伝えたい。


「勇くん。私はキミが好きだよ。愛している。こんな気持ちになったのは初めてで、どんなことを言っていいのか、どんな行動を取ればわからなくて、戸惑うばかりだけれど、、、」

本当にこんな自分は初めてだ。

勉強もスポーツも友達との付き合いもある程度自信を持って行動している。

でも勇くんの事に対しては、何をするにしても自信がない。

こんなことをしたら嫌われるだろうか。

どうしたら喜んでくれるだろうか。

どうしたらお話しできるのだろうか。

どうしたら

        笑ってくれるのだろうか。


「姫乃先輩。」


「キミは私のことはほとんど知らないと思うけど私は一年前。キミが中学生の時から知っていたよ。最初は登校中にたまたまキミを見かけたのだが、キミは見知らぬお婆さんに手を貸していた」

ずっと、、、


「ある時は泣いている子供を助けていた。不良グループに絡まれている男子を助けに入って殴られている時もあったかな。」

ずっと、、、


「キミはいつも人を助けていた。この高校に入学したことを知って私の胸は高鳴ったよ。気づけば視線がキミを追っていた。勇くんは入学後もいろんな人を助けていた。そして、真壁くんから私も守ってくれた。」

ずっと、、、


「そんな勇くんが実は自分に自信がなく。自分の事になると途端に臆病になる。同級生にちょっかいをかけられても黙って耐えている時もある」

キミを見ていたよ。。。


「そんなギャップのあるキミを見ていると、守ってもらいたいという気持ちと、見守ってあげたいという気持ちが入り乱れ、いつの間にか好きになっていたんだ。」

好きになる事ができたんだ。


「勇くん。改めて言わせて貰うけど私はキミが好きだよ。元いた地球とAEの中で誰よりもキミを愛しているよ。死が間近に迫ったこの状況なら信じてもらえるかな。」


「はい。ありがとうございます」

勇くんは泣きながら、嗚咽混じりに答えてくれた。


「この世界に来て大変なことばかりだったけど、キミと一緒に過ごせたこの数ヶ月は私は幸せだったよ。もっと早くキミにしっかりと気持ちを伝えていればよかったと思う反面、こんなことになってしまったけれど、死ぬ前にキミに私の本当の気持ちを伝えることができてよかった」

遅かったかな。

でも遅すぎたということはないよね。

だって、、、ちゃんと、、、告白する事ができたのだから。


あぁ。

何となくわかる。

もう時間がない。

もっと勇くんに抱きしめていてほしいな。

もっと勇くんを感じていたいな。。。


「勇くん。ありがと・・・」

そして意識を手放した。


勇くんが私を好きって、愛しているって言ってくれている気がしたんだ。

それはとてもとても幸せな事。。。



次に気がついた時にはベッドの上だった。

「勇くん?あれ?私どうしたのかな?」

私は命を繋ぎ止めていた。

何が起きたのか全くわからない。


「僕にもわかりませんが、先輩が急に光出して、傷が治って。」


「そっかぁ。理由はわからないけど、私は助かったのね。」

一世一代の死の間際の告白のつもりだったので、少しバツが悪い。

死ななかったのはとてもうれしいんだけれどもね。


「はい!」


そういえば、私の意識が遠くなってしまった時に

「勇くん。それよりも私が気を失いかけている時、なんて言ったのかな?確か好きです。とか愛してるとか。どこにも行かないでとか。」

と言ってくれていた気がしたんだ。



勇くんは急に顔が真っ赤になり、パニックになり、

「ちゃっちゃうんです。あれはその・・・」

勇くんは黙ってしまった。


「うふふ。ゆっくりでいいの。また言えるようになったら、聞かせてね」

そう焦る必要はないのだ。

ゆっくり、じっくり、お互いを知っていければいい。


「すみません・・・」


「勇くん。私はもうどこにも行かないわ」

そのためにも私は強くなるんだ。

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