17、芽衣
僕の叫び声にようやく芽衣は重い口を開いた。
「勇っちごめんね。私はずっと前からこの女の命を狙っていたんだよ。」
「えっ?」
僕は理解が追いつかない中、芽衣は続ける。
「私はね実はAEで産まれた人間なんだ。私は勇っち達がいた地球に行って、あちら側の状況を確認していたの。スパイみたいなものかな。ずっと騙していてごめんね」
芽衣は申し訳なさそうに言う。
「なんでそんなことを」
僕は芽衣に聞いた。
「勇っちも転移で飛ばされて、転移保護施設にいる人を見たからわかると思うけど、ここ数年でかなりの数の人が転移してきてるの。」
芽衣は続ける。
「それはね。AEと元いた地球が元の一つに戻ろうとする働きが強くなっているから。それによって時空間の揺らぎが頻繁に発生しているため転移者が増えているんだ」
「AEと元いた地球はね分離した後、7つの柱の力で分離した状態を保っていたの。今その柱の力が急激に弱まってきているの。」
「元の一つに戻るとどうなるんだ?」
僕は聞いた。
「戻った衝撃で多くの人が死に、世界の環境も一変するだろうね。もしかしたら人間が住める環境では無くなってしまうかもしれない」
芽衣が答える。
「じゃあ芽衣はそれを防ぐために?」
僕は聞いた。
芽衣は下を向いて首を左右に振りながら言った。
「んーん。逆。私達はAEと元いた地球を元の一つに戻す事を目指しているんだ。」
「なぜそんな。。。」
僕はその後の言葉が続かない。
「AEも人類間の戦争などによって環境破壊が進んでいる。勇っち達がいた地球はもっと酷い状況で、機械の発達や機械を用いた戦争で、地球は大きく疲弊している。さらに自分たちの地球だけでは飽き足らず、他の惑星まで侵食を始めようとしている。私達はね地球を元の一つにもどして一度人類の文明をリセットしようと考えているんだよ。」
僕は言葉が出てこない。
さらに芽衣が続ける。
「私達の計画にその女の能力が邪魔なんだって。だから私はずっと前からその女を殺す任務を与えられていたの。現実世界の食堂で真壁をけしかけて、ナイフで殺させようとしたのは私なの。」
「確かに真壁は隣の席からナイフを取った。そこに座っていたのは芽衣なのか。。。だから転移の時に一緒に巻き込まれたのか。」
「そうだよ。転移してストロングウルフに襲われた時、真壁に横に逃げるように指示したのも私。花巻先輩の足元を少し凍らせて体勢を崩したのも私。あの間隔ならあの女にぶつかって2人でストロングウルフの餌食になる予定だったんだよね。」
芽衣は続ける。
「施設で生活している時も何度かこの女を襲ったんだけど、勘がいいのかいつも逃げられちゃった」
「ストロングウルフの討伐後や今日この場所に真壁が待ち構えていたのは、私が教えたからなの。真壁は私の操り人形なんだよね。真壁は単純だし、ちょっと頭がイっちゃってるから扱いやすいし、あの女に振られたみたいで恨みを持っていたからちょうど良かったの。あっ真壁に海賊刀を渡したり、スキルを教えたのもわたしだよ。」
芽衣は言った。
僕は芽衣との思い出を思い出しながら、
「そうかよ。全部お前のせいかよ。今までのやり取りや笑顔も全部嘘だったのかよ!答えろよ芽衣!!」
僕は芽衣に問いただす。
「あの女に対してはそうかな。興味も無いから名前も覚えていないし。」
芽衣は続ける。
「ただね。勇っちのことを好きってことは本当だよ。私は勇っちを本気で好き」
「前に言ったよね。どこかで2人で暮らさないかって。あれ私の本当の気持ちだよ」
「ストロングウルフで花巻先輩が襲われている時に、勇っちが助けに行こうとしたでしょ。勇っちが助けに行けばあの女も逃げることができず一緒に死ぬかもしれなかった。でも私には勇っちを殺させることはできなかった」
「森の入り口で真壁に襲われた時も勇っちがあの女を助けてしまった。このままでは真壁が勇っちを殺してしまう可能性もあると思って、その場は逃げ出すように仕向けたんだ。」
「何度も言うけど私は勇っちが好き。見た目もそんなにかっこよく無いし、身長低いし、自分に自信がなくて、優柔不断だけど誰に対しても優しい勇っちが好き」
「私と一緒に来てくれないかな。」
芽衣は言った。
芽衣は前にも同じように好きだと言ってくれた。
こんな僕を好きだと言ってくれた。
「芽衣みたいな子に好きと言われて、一緒に来てと言われて嬉しくないはずがない。」
「でも一緒には行けない。僕はまだこの世界のことがあまりよくわかっていないけど。芽衣の言うAEと僕たちの地球を一つに戻すことには賛成できない。」
僕は言った。
「それに、、、」
僕は姫乃先輩を見た。
「うん。なんとなくそう答えるだろうなとは思っていたよ。」芽
衣は悲しそうに笑った。
「じゃあさよならだね。私は元のところに戻るよ。この女を殺す任務は達成したしね。この傷じゃあすぐに治療しないと助からない。勇っちは回復魔法は使えない。街まで戻るにしてもそこまでは持たないだろうからね。もうここにいる意味はない。。。」
芽衣は悲しそうな顔でそう言うと倒れている真壁を担いだ。
「さようなら勇っち。また、会えるといいな。」
と言うと大きくジャンプして消えて行った。
僕は芽衣消えていくのを、呆然と見ていた。




