165、 ▪️ ▪️
丁度勇たちが緑竜を倒したのと同じころ。
別の地でひとりの男が立っていた。
目の前には巨大な鰐が地面から顔を突き出している。
太々しいこの鰐は俺の存在を気にもせずに、今しがた丸呑みした村の咀嚼を繰り返している。
自分が強者であるという自覚とともに、弱者を餌とする愉悦に浸っているように見えた。
「気にくわねぇ」
俺はこの世の中の全てが気にくわなかった。
この鰐の態度が気にくわねぇ。
一切の抵抗もできずに飲み込まれた村人も気にくわねぇ。
口ばっかりの国民が気にくわねぇ。
自分の保身ばかりの王が気にくわねぇ。
この国が気にくわねぇ。
このAEが気にくわねぇ。
「おい鰐。お前には少しばかり因縁があるからな。俺の憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ」
聞いているのかどうかもわからない相手に言い放ち、俺は剣を構えた。
「これは復讐だ。お前への復讐じゃない。この世界への復讐だ」
俺は大きく飛び上がると、大きな鰐に向かって剣を振り下ろした。
振り下ろした剣は大きな爆発を巻き起こしながら、鰐の硬い鱗を切り裂いた。
「グォォォォォ」
鰐が雄叫びを上げた。
痛みからなのか、それとも絶対的強者としてのプライドを傷付けられた悔しさからなのか。
どっちでも構わない。
俺はさらに鰐に剣を向ける。
怯んでいる鰐に対して、何度も剣を振り抜く。
その度、爆発とともに血飛沫が飛んだ。
「くらえ」
俺は鰐の体を足場にして上空に飛ぶと、剣を上段に構えて思いっきり振り下ろした。
今までに無い大きな爆発と共に鰐が真っ二つに割れた。
真っ黒に焦げ、真っ二つに割れた鰐からは大量の血液が噴き出す。
血液が無くなったのか、切りあとから噴き出す血液が止まるが、鰐は動く様子がない。
普通であれば、真っ二つに斬られた時点で戦闘は終了だろう。
しかし、俺は知っている。
「おい。いつまで死んだふりしてるんだ?」
俺がそう言うと、バレたかと言わんばかりに鰐が動き出す。
真っ二つに割れた鰐が2匹の鰐に姿を変えた。
2匹の鰐はすぐさま俺に向かってくる。
俺も迎え討つべく、鰐に向かって走り出す。
俺と鰐の距離が縮まっていく。
俺は鰐と接触する寸前に右に少し避けると、鰐は勢いを止める事ができずに、俺を通り過ぎようとする。
その側面から1匹を俺は剣で切った。
大きな爆発を伴いながら、深々と刃が食い込む。
両断とまでは行かないものの、普通なら絶命してもおかしくないほどの傷だ。
しかし、一時的に動かなくなるものの、鰐は再び2匹に別れてこちらに向かってくる。
それをもう1匹の鰐を相手にしながら、横目で確認した。
「そうくる事はわかってたよ」
俺は3匹の鰐をいなしながら、隙をついて1匹を両断する。
鰐は4匹に増えて、俺に襲いかかってくる。
斬って増えて、斬って増えてを繰り返し、鰐は数十匹にまで増えていった。
鰐が増える時は分裂のような感じなので、大きさも小さくなる。パワーは落ちるのだろうが、スピードは上がるし小回りも効くようになる。
次第にいなす事も難しくなってくるが、俺は鰐の体を小さくしたかった。
一気に吹き飛ばすために。
「そろそろか」
俺はそう言って、体から真っ黒なオーラを発した。
これは悪魔に魂を売って得た新しい力。
この国に、このAEに復讐する為に。
「うおおお」
俺は体から発するオーラを貯めて一気に放出した。
俺の体を起点として、大爆発が巻き起こる。
その爆発は周辺の木々を巻き込み、鰐たちを1匹残らず飲み込む。
大爆発で土埃が舞い上がり、周辺の視界が閉ざされるがそれも次第に晴れる。
今まで緑が多く茂っていた周辺は、全てが消し飛び、緑色から茶色に変わっていた。
周辺が更地と化した後も警戒は緩めていない。
これじゃあ倒せない事は理解している。
地面から気配を感じると、地面から鰐の歯が生えてくる。
俺は足に力を入れて、大きく飛び上がった。
バチィィィン
すると地中から出てきた巨大な鰐の口が閉じて、もともと俺が立っていた場所を丸呑みにした。
「それもわかってんだよ!」
と鰐の上空で剣を上段に構え、体から発している黒のオーラを剣に集めた。
剣には黒のオーラが集約されて、
「くらえ!」
体の落下に合わせて一気に剣を振り下ろす。
剣が鰐を捉えると、大爆発が起こり巨大な鰐が一瞬にして蒸発した。
後に残ったのは、鰐が出てきた巨大な穴。
「どうせ本体は別にいるんだろ」
俺はそのまま、巨大な穴に入っていった。
穴の中は思ったよりも深く、どんどん落ちていく。
しばらくするとそこが見えてきた。
俺は小さな爆発を発生させて、落下の勢いを相殺する事で穴の底に無事着地した。
「ピギャーピギャー」
鳴き声が聞こえて振り向くと、穴の底には30センチくらいの小さな鰐がいた。
俺を警戒しながらも、威嚇してきている。
俺が鰐に近づいていくと、鰐は後退をしながら口から玉を3つ吐き出す。
吐き出された玉は少し転がった後にぐにゃぐにゃと形を変えて、鰐の形になっていった。
「やっぱりこいつが大元か」
と言いながら構わずに鰐に近づいていく。
大元の鰐は後退しながら、新たに産まれた3匹の鰐がこちらに向かってくる。
俺は向かってきた3匹を一瞬にして両断した。
3匹は力尽きて地面に倒れるが、予想通り今度は6匹に増えて向かってくる。
その隙に大元の鰐がどんどん奥に逃げていく。
このまま逃してしまっては元も子もない。
俺は黒いオーラを放ち、6匹を一瞬にして消滅させた。
それを見た大元の鰐は焦り、逃げ出すスピードを上げる。
そして、俺が追ってくる事を確認すると、地面を掘り始めて、地中に逃げようとした。
しかし、体が半分ほど地中に入ったところで、俺は鰐を捕まえて地中から引っ張り上げた。
「ピギャーピギャー」
何か吠えているが、全く意味がわからない。
おそらく命乞いか何かだろう。
「うるせぇ。お前は今まで好き放題に人間を食ってきたんだろ。今度はお前の番ってだけだ。諦めろ」
そう言って、俺は鰐を握りつぶした。
ピシャっと音を立てながら、鰐は血液を飛ばしながら絶命した。
三大厄災と言われていても、死ぬ時はあっけないものだ。
でもこれでやり残しは無くなった。
「さてと行くとするか。世界を滅ぼしに。。。」
俺は闇の中に消えた。




