163、高みまで
「グォォォォォ」
回復が完了した竜が吠えた。
「くるぞ!」
と姫乃に注意を促す。
竜は翼をはばたかせると、強風が巻き起こった。
周りの木々を飲み込みながら、俺たちに迫ってくる。
姫乃が糸で盾を作って、近くの岩などを使って固定した。
俺たちはその盾の後ろで強風を防ぐ。
飛んでくる木々が衝突しても、姫乃の盾は破られない。
しかし、支えにしていた岩が砕けて、風の勢いを抑えきれなくなった。
俺たちは強風に飲み込まれて、吹き飛ばされた。
数十m飛ばされて、ようやく風の勢いが弱まる。
吹き飛ばされたダメージはそれほどではないが、腹の傷が痛む。
俺は立ち上がるとイグニッションを使った。
俺の体から金色の光が発せられる。
俺は痛みをこらえながら、攻撃に移る。
このまま、守られてばかりじゃいられないし、守ってばかりじゃこの場を逃れることはできない。
姫乃を横目で見ると、ちょうど起き上がるところだ。
それほど大きなダメージは受けていなそうだったのでほっとした。
俺は王威の剣を握りしめて、竜の足元に斬りかかる。
流石に竜の鱗は硬く、剣が弾かれた。
逆に腹が痛んで俺のダメージの方が大きいくらいだ。
「さすがに硬ぇな」
俺は姫乃を見て言った。
「姫乃!糸で俺を竜の頭上まで放り投げてくれ」
「えっ?でも。。。」
俺の傷のことを考えてだろう。姫乃は躊躇している。
「俺は大丈夫だ。だから頼む」
姫乃は頷くと、糸を俺の体に巻き付けて上空に放り投げた。
腹の傷が痛み、顔が歪む。
しかし、俺は構わずに上空で王威の剣を突きの構えに構える。
「鱗は硬ぇかもしれねぇが」
俺は剣を引いて、
「目はどぉだぁ!」
と俺は王威の剣を竜の左目に突き刺した。
「グォォォォォ」
竜が雄叫びを上げる。
俺は竜の目玉ごと剣を抜き取り、地面に向かって飛んだ。
着地は姫乃が、フォローしてくれた。
ふぅと息を吐いた時に、
「姫乃先輩!」
と空から声がした。
見上げるとウィンがぞろぞろと引き連れながら飛んできていた。
ウィンたちは俺のすぐ近くに着地を決めると、
「姫乃先輩!翁くん!大丈夫ですか!?」
と慌てた様子で勇が飛んできた。
その返答を待たずに、
「あ゛ーー!2人ともすごい怪我だよー!」
とウィンが叫ぶと、すぐにこっちにきて魔法を唱えた。
「ハイケア×2」
俺と姫乃の傷が見る見る内に塞がっていく。
「ふーっ」
と尻餅をつくウィン。
「ウィン。サンキュー」
とお礼をいうと、
「間に合ってよかったよ。でもこれで僕はスッカラカンだ。あとは任せたよ」
と言うとその場で横になって寝始めてしまった。
バカなのか大胆なのかわからんやつだが、わるいやつじゃない。
心の中で改めて「サンキュー」と言い直した。
となりにいる勇を見ると、かなり消耗しているのがわかる。
「勇。戦えるか?」
と俺が聞くと、
「もちろん!」
と返してきた。
から元気なのは充分に理解できる。
しかし、勇のその心意気に、俺の心も奮い立った。
「じゃあ。いくか」
と俺は勇に並び立つ。
俺と勇は左右に分かれて緑竜との距離を詰めていく。
竜は長い尻尾を振り回して、俺と勇を薙ぎ払おうとしてくる。
俺はイグニッションで高められた身体能力を駆使してかわしながら竜との距離を詰めていく。
勇も尻尾の速さに対応できているようだ。
かわしながら月刀を振るって、竜の尻尾にダメージを与えていっている。
俺も竜の足を剣で斬るが、やはり竜の鱗は硬く弾かれてしまう。
俺は剣を鞘にしまうと、イグニッションのエネルギーを両方の拳に
多めに回して、竜を殴った。
殴った箇所の鱗は砕けて、明らかにダメージを与えていた。
これなら俺も竜に対抗できる。
全てのエネルギーを拳に回さずに比重を変える。
これはなかなかに難しかった。
変えるだけでも集中が必要だし、維持も難しい。
これをビナスは戦闘中に動きながらやっていた。
俺も。
俺も。
「その高みまで登ってやるよぉ」
俺は竜の体を利用して飛び上がり、竜の顔面に拳を叩き込んだ。
竜は顔面を凹ませながら、体勢を崩して倒れる。
大きな音を立てて倒れる竜。
だが、竜を緑色の光が包み込んだ。
周りの木々が枯れ始めて、さっき潰したはずの左目が復活していた。
「なんだあれ?」
俺は状況がわからずに勇に聞いた。
「あの竜。緑竜は大地からエネルギーを吸収するんだ。いくら倒しても大地からのエネルギーで復活してしまう」
「はぁ?それじゃあいくらやっても倒せねぇじゃねぇか」
「うん。でも、、、」
と言いながら勇は後ろにいる双子を見た。
「ラン!リン!」
「はい。準備はできました」
と双子の片割れが言うと、
「「絶対結界」」
2人同時に地面に手のひらをついて発声した。
双子を中心に、青い結界が地面に被さる様に広がる。
地面から生えている木々にまで結界は被さっていき、青の世界が広がった。
「なっ。なんだこれ?」
「ランとリンが大地と緑竜を遮断する結界を張ってくれたんだ。これで緑竜は回復できない」
「なるほど。これで倒せるわけだ」
と俺は緑竜を見て拳をかち合わせた。
バタッ
後ろで音がしたので振り返ると結界を張ったランとリンが倒れていた。
すぐに四宮が駆け寄る。
ランとリンの様子を確認して、
「たぶん気を失っているだけ」
と言った。
「たぶん力を使い果たしたんだ。あの結界を張ったのは2回目だし、かなりの生命力を使うみたいなんだ」
と勇が言った。
生命力?
つーことは文字通り命を削りながら、張ってくれた結界ってわけだ。
なおさら負けられねぇ。
「ここで仕留めるぞ」
と勇に言うと、勇は力強く頷いた。
「四宮!姫乃!フォローを頼む」
そう言って、俺は走り出し、それに勇もついてきた。
緑竜は距離を詰めさせまいと強風を放つ。
勇が月刀に薄緑の光を纏わせて、強風を斬り裂いた。
勇が切り開いた道を通って距離を詰めた俺は、緑竜の腹を殴りつける。
連打、連打、連打。
何発もの拳を撃ち込むと、緑竜は胃液を吐き出す。
「姫乃先輩!」
と勇が叫ぶと、姫乃が勇の体に糸を巻き付けて上空に放り投げた。
上空で体勢を整えた勇は、月刀に青い光を纏わせて緑竜を斬りつける。
勇の月刀は緑竜の右目を斬り裂いて、血飛沫が舞い落ちる。
力尽きたのか、そのまま落下する勇を姫乃が糸で受け止めた。
「グォォォォォ」
痛みからか怒りからかわからないが緑竜が吠えた。
その隙に俺は緑竜との距離をとっていた。
「四宮!グラビティを合わせてくれ」
と叫ぶと、四宮は頷いた。
俺は緑竜に向かって、思いっきり地面を蹴った。
その勢いにグラビティが重なり、スピードが上がる。
俺はイグニッションの全てのエネルギーを右の拳に集める。
右の拳が金色の光を強く放つ。
これが俺が今できる最高の攻撃だ。
「うぉぉぉぉぉぉ」
自然と声がでて、それは叫びになった。
俺は緑竜の腹を目掛けて、一直線に飛んでいく。
そして、俺は緑竜の腹に拳を入れると、そのまま体を突き抜けた。
俺が突き抜けた後には、腹にどでかい風穴の開いた緑竜がいた。
俺が地面に降り立つと、風穴の開いた緑竜の体がふらついて、地響きを起こしながら倒れた。
「どぉだ!」
俺はみんなの方を向いて言った。
勇が姫乃の糸に支えられながら親指を立てた。
それに釣られて四宮と姫乃も親指を立てた。
緑竜の体が少しずつ散りになっていく。
その時だった。
少しずつ体が崩れていっている緑竜の目が光った気がした。
「お前ら避けろ!」
俺は叫んだ。
緑竜は口から何かを放とうとしている。
狙いは姫乃たちか。
今からじゃ間に合わない。
「逃げろーー!」
と叫ぶが、無情にも緑竜は光線を放った。




