154、連れて行って
僕は光の柱が立ち上がった場所を目指して急いでいる。
早く行かないとミトが危ないみたいだし、残してきたイサミンたちも心配だ。
早くミトを回復して、イサミンたちの元に戻らなくてはならない。
後方で大きな音がした。
緑竜が倒れたのだ。
「イサミン。やるなぁ」
と言って、僕は「跳躍」を唱える。
光の柱が立ち上がった場所が見えてきた。
大きな穴が開いていて、そこから緑竜が出てきたのだろう。
僕は周りを注意深く見渡す。
「いた!」
僕はミトたちを見つけて、そこに急降下した。
トンっと横たわるミトの近くに着地すると、
「ウィン!待っていたのよ。早くミトに回復魔法をかけるのよ」
とリムが言った。
ミトを見ると出血が酷く、顔に生気が無かった。
おそらくここから街に戻ったのでは間に合わなかっただろう。
イサミンの好判断だ。
「わかってる」
と僕はミトに向かって手のひらを向けて魔法を唱えた。
「フルケア」
緑色の光がミトを包み込み、見る見るうちに傷を癒す。
「あっありがとうございます。ウィンさん、、、」
傷が回復したミトはすぐに意識を取り戻して、僕にお礼を言った。
傷は回復したものの、流した血液は戻っていない。
ミトは青白い顔をしていた。
「傷は塞いだけど、血を流しすぎてる。無理はしちゃダメだよ」
「はい。わかってます」
「リム。ミトとこの子達を街まで連れて行ける?僕はあそこに戻らなきゃ」
と一度倒れたが、復活している緑竜を指差した。
「わかったのよ。任されたのよ。勇ほうを頼むのよ」
と自分の無力さを悔やみながら、声を絞り出すようにリムは言った。
本当はイサミンのところに駆けつけたいのだろう。
「うん。わかった。僕に任せて。必ずイサミンを守るから」
リムの気持ちは痛いほどわかる。
リムのためにも僕はイサミンを助ける。
と心に誓い、すぐにでも緑竜の所に向かおうとした時、
「あのっ!」
と双子の女の子が声をかけてきた。
「私たちも緑竜の所に連れて行ってくれませんか?」
「えっ?」
「私たちは竜の封印を守ってきた巫女です。竜の封印は解かれてしまいましたが、最後まで責務を全うしたいのです」
「でもあそこは戦場だよ?僕も君たちを守ってはあげられないよ」
「わかっています。自分達の身は自分達で守ります」
「それに必ずお役に立てると思います」
と2人は強い眼差しで僕を見つめた。
「・・・・・・」
僕は2人を見つめ返す、2人は一切目を逸らすことはなく強い眼差しで僕を見つめ続けた。
「わかったよ。一緒に行こう」
と僕が言うと、2人は一瞬大きく目を見開いた後に力強く頷いた。
「でも、2人を抱えたとなると僕も移動に困るな。少しでも早く緑竜のところに行きたいし、、、」
と僕が言うと、
「仕方がないのよ」
とリムは言いながら、2人を人差し指でツンと刺した。
すると2人がふわっと浮いた。
「短時間なら浮いたままなのよ。これで連れて行けるのよ」
「ありがとうリム」
と僕がお礼を言うと、
「ふんっ。しっかりやるのよ」
と言いながらリムは街の方向を向いた。
「よし。じゃあ2人とも僕の手に掴まって」
「はい」
「お願いします」
2人は僕の腕を掴む。
「じゃあ、飛ばすから下を噛まないように」
と言って魔法を唱えた。
「跳躍」
足に魔法の力が宿り、僕は思いっきりジャンプした。
急いでいるので、いつもよりも強く地面を蹴ると、凄まじい勢いで上空に上がっていくと、
「きゃっ」
「きゃっ」
「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ」」
2人の悲鳴が響き渡った。
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「騒がしいのよ」
「リムさん」
「ミト。どうかしたのよ?どこか痛いのよ?」
「このまま柱に向かってもらえますか?」
「はっ?なのよ。お前は傷が治っただけで血が足りないのよ。無理はするもんじゃないのよ」
「わかっています。でも行かないと。リムさんは柱に行かなくてはいけません」
「よくわからないのよ。。。でも街に戻る気は無さそうなのよ」
「・・・」
「わかったのよ。柱に向かうのよ。でも倒れても知らないのよ」
「ありがとうございます」
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ガンッ
目に見えない波動が飛んでくるのを私は糸で作った盾で防いだ。
スキルを使い出した真壁は想像していた以上に厄介だった。
真壁との距離が短いと、空間を詰めて一気に接近戦に持ち込まれる。私は護身用に短剣を持ってはいるが、真壁の海賊刀と渡り合えるような剣技は持ち合わせていない。
また、距離を詰められてもいいようにさらに距離を取ると、先ほどのように見えない波動を放ってきた。
これがかなり厄介で、見えないのでかわしにくい。
それに真壁は波動を放ったふりを織り交ぜてきていた。
私は真壁に対して啖呵をきった。
しかし、現実は防戦一方だ。
ガンッ
と真壁が放った波動を盾で防ぐ。
すると真壁は一気に距離を詰めてきていた。
私は真壁との距離を保とうと後ろに飛ぶが、真壁は空間を削りあっという間に私と真壁との間にあった距離は無かったものとされた。
「ひゃひゃ」
真壁はしてやったりと言うような顔で海賊刀を振り下ろしてくる。
私は後ろに飛んで海賊刀をかわすが、真壁の振り下ろしは私を斬るためではなく、後ろに飛ぶであろう私との距離をもう一度詰めるためのものだった。
再びゼロ距離に引き戻され、真壁が私を斬るための攻撃を仕掛ける。
何とか初撃を紙一重でかわすが、掠った衣服の切れ端が飛ぶ。
すかさず今度は顔を狙った一撃に、前髪を僅かに斬られた。
次の突きでは頬を掠める。
次第に避けきれなくなってきている。このままでは、、、
と思った時に真壁の海賊刀が左腕を掠めた。
傷口から鮮血が飛ぶ。
「ぐっ」
痛みに顔を歪める。
「ようやくいい顔が見れたぜ。おとなしく死ねぇぇぇ」
と勢いに乗った真壁が海賊刀を振り下ろしてくる。
私は何とか横に動いて海賊刀をかわした。
「う゛っ」
避けることを読まれていたのか、真壁の蹴りが私のみぞうちに入った。
口から胃液が漏れて動きが止まる。
「ひゃひゃひゃ」
と笑いながら真壁は殴りかかってきて、右拳が私の左頬を捉えた。
視界が揺れて思うように体が動かない。
「もう逃がさねぇぜぇ」
真壁は私が逃げないように海賊刀を右足の甲に突き刺した。
「あ゛あ゛あ゛」
あまりの痛さに声にならない音が漏れる。
真壁は今までの鬱憤を晴らすかのように殴りかかってくる。
腹、頬、目、頭、また腹と何発も何発も殴られた。
海賊刀に足を刺されていて、倒れることも叶わず殴られ続けた。
意識が朦朧とする中、私は勇くんの事を思い浮かべた。
「勇くん。。。」




