144、黄金の鎧
「ブレイブアーマー!こぉーーーーーい!」
サトルは両腕を天に掲げながら言った。
すると上空に穴が現れて、そこから黄金の鎧が飛び出してきた。
イカの時とは違い、腕だけではない。
足や体、頭などの部分の鎧も飛び出してくる。
ガッキーーーン
と音を立ながら鎧は一直線にサトルの元に飛んでいき、サトルに装着された。
サトルは黄金の鎧を全身に纏う。
生身の部分は無く、全て鎧に覆われた状態だ。
「前にも言ったよね。ヒーロー戦隊に憧れていたって」
「ヒーロー物と言えばロボットだよね。」
「僕は土からあらゆる金属を生み出すスキルを持っているんだけど、流石にロボットを作り出す能力はできなかったかったから、自分で鎧を纏ってロボットになる事にしたんだ」
「黄金の鎧。かっくいーよね」
とサトルは無邪気に言った。
ゴゴゴゴ
と先ほどよりは小さい地震が起きた。
「じゃあいくよー。本気を出さないと、勇お兄ちゃんすぐに死んじゃうよ」
と言って、サトルは重心を落とした。
くる!!
僕は月刀を構えた。
気持ちの整理は付いていないが、サトルの言うとおり手を抜いて勝てる相手ではない。
それに時間もない。
「なるようになれだ」
サトルは地面を蹴って僕に向かってくる。
速い!!
鎧の力だろう。尋常じゃない速さだ。
おそらくはイグニッションを使っている翁くんよりも速い。
サトルは速さを維持したまま拳を突き出してきた。
イカを一撃で倒したようにこの拳も相当な威力だろう。
僕はタイミングを合わせて月刀でサトルの拳を受け流した。
拳を受け流されて、僕の横を通り過ぎるサトル。
しかし、サトルはすぐに地面に足をつけて勢いを殺し、方向転換をした。
そのまま僕の顔面を目掛けて蹴りを放つ。
今度は受け流す事はできそうになく、月刀で蹴りを受け止めた。
ギィィィン
と金属がぶつかる音が響く。
「おっもっ」
サトルの蹴りは想像以上に重かった。
僕は威力を殺し切る事はできずに後方に吹っ飛ばされた。
何とか着地を決めて、再度構える。
まともに食らったらひとたまりもない。
「勇お兄ちゃん。僕の動きが見えているね。予想外だったよ」
とサトルは言った。
「ギリギリな」
と僕は返す。
僕は翁くんにイグニッション状態で戦ってもらう修行も行っていた。
動きで勝る事はできないが、何とか目で追って反応するくらいはできるようになった。
そのおかげでサトルの動きにも反応する事ができているのだ。
「これならどうかな」
とサトルは言いながら再度僕に向かってくる。
向かってきながら拳を引いて溜める。
さっきは拳を突き出してきていたので、威力は抑えられていた。
でも今度は違う。
拳を振り抜く威力も上乗せされるはずだ。
予想通りサトルは僕の目の前までくると、引いていた拳を突き出した。
僕は拳を受けるために月刀を構える。
そして、月刀と拳がぶつかる瞬間に自ら後ろに飛んだ。
大きな金属音が鳴り響くと同時に、僕の体が後方に飛ぶ。
サトルとしては、手応えが全くなかっただろう。
僕は無事に着地して、次の攻撃に備えて構えた。
しかし、サトルからの追撃はない。
サトルは僕の方を向いて、
「勇お兄ちゃんすごいね!あんなに簡単にかわされたことは今までないよ」
とサトルは僕と遊んでいるかのように無邪気に言った。
この命のやり取りをしている時でも、サトルにとっては遊んでいるのと変わらないのかもしれない。
幼い時からこのAEに転移してしまい、生きていくための力を身につけなければいけなかった。
精神が成長する前に力だけがどんどん成長してしまったのかもしれない。
「サトル!お前は戦う事の意味を理解しているのか?命のやり取りなんだぞ」
「知ってるよ。強い方が生き残るって事でしょ。それに僕は強いから奪われることはないしね」
サトルは当然のように言った。
「相手の命を奪うって事だぞ!その重さをわかっているのか!?」
「ふんっ。ここはそういう世界でしょ。そういう風に教えてもらったもん」
「どんな世界だって命の重さは一緒だ!」
「そんなの僕には関係ないよ!」
とサトルは一方的に会話を打ち切って、僕に向かって突進してきた。
今度は勢いを付けて、大きな一撃を放つのではなく、連続して拳を繰り出してきた。
それでもまともに受ければ大ダメージだ。
僕は月刀で放たれる拳を捌く。
サトルは鎧のおかげでパワーやスピードは突出しているが、技の力量は高くはない。
僕はサトルの拳を捌きながら、隙を見つけて月刀で斬りかかった。
キィィィン
金属音が鳴り響く。
僕の攻撃はサトルの腕に阻まれた。
力を流し込んではいないが、月刀はそれでも相当な切れ味を誇る。
しかし、サトルの腕の鎧は傷ひとつ付いていないようだ。
「やっぱり防御力も高いか」
想定はしていたので、驚きはない。
しかし、普通に攻撃しただけでは有効打にならない事が確定した。
このまま戦い続けても、いつまでサトルの攻撃をかわし続けることができるかわからない。
月刀の力を使うしかない。
「勇お兄ちゃんはなかなか強いね。でもまだまだこれからだよ」
とサトルは言いながら、再び距離を詰めてくる。
さっきと同じ拳の連打。
僕は月刀で捌く。
一合、二合、三合と刀と拳がぶつかり合う。
攻撃を仕掛ける隙を探していると、サトルは重心を落とした。
そして、下から僕の顔を目掛けて蹴り上げる。
僕は月刀で防御するが、威力を殺しきれず上空へ飛ばされた。
「しまった!」
上空でバランスを崩す。
「上空ならかわせないでしょ」
とサトルは笑みを浮かべながら、重心を落として僕に向かって拳を突き出しながらジャンプした。
サトルの言うとおり、この状態で攻撃を回避する事は無理だ。
僕はかわすことは諦めて、月刀を上段に振りかぶり月刀に力を流し込む。
月刀は徐々に青白い光を纏っていく。
僕は向かってくるサトルの拳に合わせて月刀を振り下ろした。
ガッキィィィン
僕の月刀とサトルがぶつかり合い、火花が飛び散る。
力は均衡していて、お互いが押し合い空中で一瞬静止した。
押し合うが、お互いに押し切れず反動で2人とも弾かれた。
何とか僕は地面に着地してサトルを見た。
サトルも問題なく着地をしていた。
力を流し込んだ月刀でも弾かれてしまった。
これが通じないとなると、僕に打つ手立てはあるのだろうか。
ゴゴゴゴゴゴゴ
かなり大きめの地震が起きた。
緑竜の復活までの猶予はあまり無いのかもしれない。




