143、どうして?
洞窟の中はそれほど広い道ではなかった。
しかし、毎日のようにランとリンが通っているだけあって、道は整えられていて、壁にも灯りが灯されていた。
これならば、余計な気を使わずに進んでいける。
道をよく知っている護衛の1人が先頭となって進み、僕たちは後に続いた。
「少し進めば広い空間があります。そこに祠があります」
とリンが教えてくれた。
リンの言うとおり、少し進むと開けた空間が見えてきた。
奥にも灯りはあるようだ。
様子を確認するため、先に護衛の1人と僕が開けた空間に入った。
シュッ
中に入った途端に何か風を切る音が聞こえた気がした。
僕は咄嗟に月刀で受け身を取る。
キンッ
と斬撃が月刀に当たり、斬撃はかき消えた。
「ぐわぁぁぁ」
と隣にいた護衛は斬撃を防ぐ事ができず、首が半分ほど斬られて血を吹き出しながら倒れた。
「えっ!?」
僕は何が起きたのかわからずに立ち竦んでいると、
「ひとり外してしまいましたの」
と女性の声が聞こえた。
どこかで聞いた事がある声だと思いながら、ハッと我にかえり後ろにいる人たちに言った。
「敵だ!敵がいる」
僕の声を聞いて、他の護衛が前に出てくる。
ミトとリムはランとリンを守るようだ。
護衛の2人が僕の横に並んだ。
「ラン、リン。逃げて!」
と僕が言うと、
「できません。竜を鎮めないと、竜の封印が解けてしまいます。時間の猶予はありません」
とランが凛として言った。
ランもリンも危険を顧みずに自分の使命をまっとうしようとしている。
僕も自分のやるべき事をやらないと。
僕がやる事は、ランとリンを守りながら、敵を無力化する事だ。
「ミト、リム!ランとリンを頼んだ」
「かしこまりました」
「任せるのよ」
と2人から力強い返答が返ってきた。
僕は後ろは2人に任せて、前の敵に集中した。
すると、前方から2つの影が飛び出してきた。
影は僕ともう一人の護衛を狙ってきている。
僕は月刀で敵の攻撃を防いだ。
キンッ
月刀と敵の刃物がぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
敵の武器はクナイのような短い刃物だ。
さっきもこれを投げつけてきたに違いない。
「ぎゃあぁぁ」
と護衛の人は攻撃を防ぐ事ができずに、首を斬られて倒れた。
さっきもそうだが、相手の攻撃は急所を確実に狙ってきている。
一撃で無力化する事に長けているのだ。
月刀を押してくる力が弱まったかと思うと、攻撃を仕掛け敵は後ろに飛んで引いた。
護衛を倒した方の敵も後ろに飛ぶ。
「また防がれてしまったの」
「攻撃が甘いのよ。もっと鋭い攻撃でないと倒せないのよ」
と敵が話している。
どちらも女性の声だし、やはりどこかで聞いた声だった。
静止した敵を見ると、それはサトルを迎えにきたディオネとテティスだった。
2人は前に会った時とは異なり、クノイチのような服装をしていた。
ディオネは紫、テティスは深い赤の装束のような物を着ている。
「ディオネさん。テティスさん。どうして?なんでこんなところに?」
「これはこれは勇様。先日は大変お世話になりましたのよ」
とディオネは言った。
「私たちは任務で竜の封印を解きにきたの」
とテティスは言った。
「どうしてそんな事を、、、?」
「それはね。僕たちが黒の組織の一員で、封印を解く事を命じられたからだよ」
と後ろの方からゆっくりと歩いてくる人物が言った。
近づくにつれて姿がはっきりと見えてくる。
「サトル!!」
それはペタの街で出会ったサトルだった。
「勇お兄ちゃん久しぶりだね」
「サトル!」
「サトルー」
「サトルさん!」
後方にいるリムとミトも僕と同時に声を上げた。
「どうして?黒の組織って本当なのか?」
僕は改めてサトルに話しかける。
「うん。本当だよ。僕は黒陽9将、序列6位。土の称号を持っている。今回は竜の封印を解くためにここまできたんだ」
「ちなみにディオネお姉ちゃんとテティスお姉ちゃんは僕の側近なんだ。あと7人いるけどね」
とサトルが言うと、ディオネとテティスが深くお辞儀をした。
僕が頭の整理がつかずに何も答えられないでいると、護衛の最後の一人が逃げ出した。
「黒の組織となんて命がいくつあっても足りねぇ!」
しかし、テティスが何かを投げると、護衛は声を上げて倒れた。
サトルはそんな事には、全く興味がないかのように言った。
「勇お兄ちゃん。僕は竜の封印を解く事が目的だ。邪魔しないで帰ってくれれば攻撃はしないよ」
「でもサトル!竜の封印を解いたら多くの人が被害に遭ってしまう」
「大丈夫だよ。僕たちが倒すから。どのみちこの封印は限界なんだ。放っておいてもそう長くは持たない。だから今封印を解いて、僕たちが倒すんだ。この緑竜を」
「今なんて?緑竜?」
「そうだよ。ここに眠っているのは、三大厄災の緑竜だよ」
「そんな。。。サトル!お前は三大厄災の強さを知っているのか!?」
「そうなのよ。めちゃくちゃ強いのよ」
と僕の言葉にリムが被せる。
「さぁ。戦った事がないからね」
とサトルはあっけらかんと言った。
「僕たちは何人も寄ってたかって、それでも本当にギリギリで赤虎を倒したんだぞ」
「知っているよ。勇お兄ちゃんも強いけど、僕たちの方がもっと強いんだ。勇お兄ちゃんが勝てたのならば、僕たちでも勝てるよ」
「僕だけじゃない。ウィンや翁くん、姫乃先輩、四宮さん。みんな僕より強い人が集まってやっと倒したんだぞ」
「ウィンお姉ちゃんは凄いって聞いているけど、他のお兄ちゃんお姉ちゃんは大した事ないでしょ」
「サトル、、、お前、、、」
サトルの楽観視ぶりに言葉を失う。
赤虎は僕たちが力を合わせても倒せたのが奇跡に近い。
それと同じくらいの力を持っているだろう緑竜をサトルたちだけで倒せるとは思えなかった。
サトルたちが倒すのを失敗すれば、緑竜が世に放たれてしまう。
そうなったらどれだけの被害が出るのか想像もできない。
やはりこのまま封印を解かせるわけにはいかない。
「サトル。封印を解かせるわけにはいかない。お前の言うとおりにこのまま帰るわけにはいかない」
「そっか。じゃあ残念だけど勇お兄ちゃんと戦うしかないかな」
とサトルが言うと、ディオネとテティスが攻撃の体勢をとった。
しかし、サトルは右手を横に伸ばして、ディオネとテティスを止める。
「ディオネお姉ちゃん、テティスお姉ちゃん。勇お兄ちゃんと僕が戦うよ」
「でも、それでは竜との戦いが、、、」
とディオネが言い終わらないうちに
「僕が苦戦すると思ってるの?」
とサトルが言ってディオネを睨みつけた。
「いいえ。わかりましたのよ」
とディオネとテティスは下がった。
ディオネとテティスが下がるのを見届けると、サトルはこちらを向いて言った。
「勇お兄ちゃんお待たせ」
「サトルさん!考え直してください!」
とミトが言ったが、サトルは気にも止めずに僕に向かってゆっくりと歩き出した。
僕は月刀を構えているが、どうしたいのかわからなかった。
サトルは人間だ。それも子供だ。さらに短い間とはいえ、一緒に生活をした。
そんなサトルを斬ることができるのか?
しかし、サトルはウラヌスやピテル、海 桜と同じ黒の組織の幹部だ。
相当な実力を持っているのだろう。
こんな中途半端な気持ちで勝てる相手ではないはずだ。
ゴゴゴゴゴゴゴ
その時、かなり大きめの地震が起きた。
洞窟の天井から破片がパラパラと落ちてくる。
「さっき祠に祀ってある神具を壊したから、もう復活は近そうだね」
と天井を見ながらサトルが言った。
「「そんなっ」」
後ろに控えているランとリンが声を上げる。
祀ってある神具を壊した?
封印はどうなるの?
「ランさん!神具が壊れても封印が解かれないようにはできるのですか!?」
「わかりませんが、リンと2人なら抑えされるかもしれません」
「ただ、急がないと、、、時間がたった分、難しくなります」
ランとリンが答えた。
「でもそう簡単には通れないよ!」
とサトルが言う。
サトルに攻撃をしていいものかの整理もつかず、時間もない。
僕はどうすればいいのか、頭の中はパニックだ。
「じゃあいっくよー」
僕の気持ちをよそに、サトルが無邪気に言った。




