141、地震
僕たち3人はランとリンの家に案内された。
ランとリンの家は大きな敷地の中に建っていた。
それは元の地球にある神社に似ていて、この街の人がお参りをしている本堂のような建物があった。
「だんだん信仰は薄れてきておりますが、それでも毎日お参りをしに来てくださる方もいらっしゃるのです」
とランは言った。
僕たちはその横を抜けて、本堂の裏にある建物に向かった。
その建物も他の一般の家とは比べ物にならない位に大きい。
「どうぞ中へ」
と案内されて中に入ると、天高は5m以上もあり、壁や天井には細やかな彫り物がある。
玄関の両脇には竜の彫刻などもあり、それは豪華な家だった。
和風の家ではあるものの靴を脱がずに入って行くところは、元の地球との文化の違いなのだろう。
奥へ入って行っても、隙間なく天井や壁の彫り物は続いている。
一体どれだけの人がどれだけの年月を費やして作った家なのだろうか。
「無駄に立派でしょう?」
僕の心を見透かしたようにランが言った。
「この家は何百年も前に建てられたそうです。この間、補修を繰り返して今に至るのですが。。。」
とリンが言った後にランが続けた。
「補修だけなら必要な事だと思うのですが、専属の彫師がいまして、今でも常に彫師が天井や壁を彫り続けているのです」
「私たち2人だけしか住んでいないのに。。。」
無意味な事をと続けるようにリンはボソッと言った。
「ランたちは2人で住んでいるの?」
「はい。他に身の回りの世話をしてくれる人は何人かおりますが」
「失礼かもしれないけど、お父さんやお母さんは?」
「父はもともといません。巫女は結婚はしていけない慣わしなので、選ばれた男性と子作りだけするのです」
とランは答えた後にリンが続けて言う。
「母はすでに他界してます。巫女は短命なのです。生命力を捧げる事によって、竜を封じているので。。。」
「そうなんだ。。。」
想像していた以上に巫女というのは難しい立場だった。
さっき恋愛は権利だなどと言ってしまったが、そんな軽い言葉で済む話ではない。
僕がかける言葉を無くして俯いていると、
「お優しいのですね」
とランが言った。
「私たちの事を心配してくれてありがとうございます」
とリンも言った。
「私たちの境遇は自分たちが1番わかっております。先程勇様が恋愛は権利だとおっしゃってくださいました」
「当然難しい事だと分かっています。でも」
「「私たちはその言葉に救われました」」
「結果がどうなるかは分かりませんが、精一杯権利を主張してみようと思います」
と最後はランがフフフと笑いながら言った。
その笑顔に僕はドキッとしながらも、ランとリンの気遣いに感謝した。
奥の部屋に入るとテーブルと椅子があり、僕たちは薦められた席についた。
僕が真ん中で両脇にリムとミトが座った。
テーブルや椅子も上品なものであったが、純和風の家にはやはり違和感があった。
僕たちが座るのを確認して、向かい側にランとリンが座る。
料理が運ばれてくると、
「オホホホホ。肉なのよぉ」
とリムが喜びの声を上げたので、行儀が悪いと嗜めておいた。
並べられた料理は魚や野菜を中心にした料理が多かったが、薄い肉をお湯に通して食べる料理もあった。
お肉は軽く塩をまぶして食べるのだが、程よく脂が落ちてとても美味しかった。
ポ○酢が欲しいな。と思いながら食べていると、リムが自分の分のお肉を食べ尽くして、コソーッと僕のお肉に箸を伸ばした。
「あっリム!それは僕の!」
と言った時には、リムはお肉をお湯に通して、すぐさま口に運んだ。
「勇は食べないみたいだからリムが食べてあげたのよ」
などと悪びれもなく言うリム。
僕が楽しみに取っておいた肉なのに。。。
と悔しがっていると、
「まだありますので大丈夫ですよ」
とランがフフフと笑いながら言ってくれた。
その後もリムがお肉をおかわりしながら、楽しい食事が続いた。
「こんなに楽しい食事は初めてです」
とリンが言うと、
「そうですね」
とランも同意した。
「また一緒に食事をしましょう。今度は僕の仲間たちも一緒に」
と僕が言うと、
「是非お願いします」
「あー今から楽しみね」
とランとリンが言った。
食事も終盤に差し掛かった時、
ゴゴゴゴゴゴゴ
と、僕たちがこの街に来てから1番大きく感じる地震が起きた。
「きゃああ」
「きぃゃぁぁぁなのよ!」
と座っているリンが叫び、リムが椅子から転げ落ちた。
僕でも立っていることができないくらいの揺れだ。
「大丈夫ですか!?みんなテーブルの下に隠れて!」
と指示をすると、みんなでテーブルの下に避難した。
地震はまだ続いており、立っていた彫刻が倒れたり、壁から装飾が落ちてくる。
まもなく地震が治まると、僕たちはテーブルの下から出て、
「頻繁にこんな大きな地震が起きるのですか?」
「いえ。最近では地震が頻繁に起きているのは確かですが、こんなに大きな地震は初めてです」
とランが答えると、
「竜の封印が心配です。急いで竜の祠に向かいましょう」
「そうですね。急ぎましょう」
とランとリンがやり取りをした後に、
「勇様。私たちは急いで竜の祠に向かわなくてはなりません。せっかくお越しいただいたのに大変心苦しいのですが、ここで失礼させてください。お好きな時にお帰りになっていただいてかまいませんので」
とランが申し訳なさそうに言った。
「ランさんとリンさんだけで向かうの?」
と心配になったので聞いてみると、
「いえ、すぐに行ける人を募って向かおうと思います。ただ大地震の直後なので、どれほどいるかはわかりませんが。。。」
とリンが答えた。
僕はミトをチラッと見た。
するとミトは何も言わずに頷いてくれた。
「僕たちも同行しますよ」
「えっ?」
とランは驚いた表情をした後に続けた。
「でも、そこまでご迷惑をかけることはできません」
「どのみち僕たちは黄柱に向かうのですから方向は同じですし、、、それにせっかく友達になれたランさんとリンさんを放っておくことはできないですよ。だから同行させてください」
「友達。。。」
と言うランの頬に涙が流れた。
「この家に生まれてから、友達と呼んでもらえる事があるなんて思っても見ませんでした」
「本当にお願いしてもいいのですか?」
とリンが改めて聞いてくる。
「もちろん」
と僕は答えた。




