14、ピクニック
真壁の襲撃から一月ほど経ち、僕の飛神もだいぶ実戦で使えるようになってきた。
ここ最近は飛神の特訓やギルドの依頼をこなして、合間を見て元の地球に帰るための情報収集を行なっていた。
元の地球に帰る方法については、ギルドや保護施設などを中心に聞いて回っていたが、全く情報は得られていない。
ストロングウルフ討伐の時以降は、真壁も姿を見せることはなかった。
ある日突然芽衣が提案してきた。
「ねぇねぇ気晴らしに3人でお出かけしない?街の人にいいスポットを聞いたんだぁ。情報収集やギルドの依頼を受けるのも大切だと思うけど、たまには息抜きしないとねぇ」
芽衣はそう言いながらお願いのポーズをとる。
「確かにたまには息抜きも必要だよなぁ。元の世界に戻るための情報も全く入ってこないし、あまり頑張り過ぎると疲れちゃうもんなぁ。姫乃先輩はどうですか?」
優柔不断な僕は決めることができず姫乃先輩に決定権を譲った。
「いいんじゃないかな。こちらの世界に来てから、のんびりする時間を取ったこともないし、せっかくだから私もこの世界のことをもっと知りたいしね。」
「よし決まりぃ。本日はお休みデーだぁ!じゃあ15分後に出発するので各自速攻で準備をするよーに!本日のアテンダントはこの芽衣が務めさせていただきまーす」
おかしなテンションの芽衣は置いておいて、それぞれ自室に戻り準備をした。
僕は軽装の洋服に着替えた。
護身用に刀を持って、あとはやや多めにお金を持った。
部屋を出て、玄関に行くと既に芽衣が待っていた。
「勇っち!おそーい!」
と約束の時間には余裕があるにもかかわらず、芽衣は挨拶かのように文句を言ってくる。
さらに
「勇っち。どうこの服装?」
芽衣は水色のワンピースに大きいバックを持っていた。
もともと容姿がよい芽衣だが、一段と可愛く見えた。
「にっ似合っているよ。」
「似合っているかどうかじゃなくて、可愛いかどうかを聞いてるのー」
と芽衣が不満そうに言う。
「かっ可愛いよ。芽衣」
と僕が言うと。
「へへぇ。ありがとう」
と満足そうに鼻歌を歌っている。
そうこうしている間に
「おまたせー」
と姫乃先輩が準備を終えて戻ってきた。
僕は姫乃先輩を見た途端に衝撃が走り固まってしまった。
姫乃先輩は真っ白のワンピースに麦わら帽子を被っていた。
もともと極めて高い美貌をもつ姫乃先輩が、真っ白なワンピースって反則だよ。
まともに見ることもできないよ。
なんだよこれ夢か?実在するのか?
「どぉかな?」
姫乃先輩が問いかけてくる。
「エンジェル。。。」
「えっ?」
姫乃先輩がキョトンとする。
「はっ?」
僕は現実世界に戻ってきて自分の発言の気持ち悪さに気づく。
「ちゃっちゃうんです。その。あの。すごく綺麗です。似合ってます、、、なんかすみません」
僕は下を向きながら言った。
「勇くん謝らなくてもいいよ。ありがとう。」
姫乃先輩は頬をほんのり赤く染めながら、笑顔で言った。
「はぁぁ。勇っちーそれはさすがの芽衣もどんびきだよぉ」
芽衣がゲンナリした顔でつっこんできた。
そんなこんなで、僕たちは芽衣の言うおすすめスポットを目指して出発した。
外へ出ると雲ひとつない快晴だった。
天気もいいし、美女2人とこれからお出かけ。
これはデートと言っても過言ではないのではないだろうか。
こんなに幸せな状況なのに僕は慣れない状況に緊張しまくりだった。
僕たちは街を出るため、城門に向かっていると声をかけられた。
「あのぉすみません」
僕は声の方を向くと茶色がかったロングヘアーの可愛い女の子がいた。
「僕。冒険者ギルドに行かなくてはいけないのですが。この街は初めてで。道を教えていただけますか?」
と聞いてきた。
僕?男だったのか。綺麗な男の子だなぁと思いながら丁寧に道を教えてあげた。
「ありがとうございます。助かりました」
そう言うと両手で僕の手を握ってきた。
僕はドキッして赤くなった。
男の子なのにいかんいかん。
と思いながらも
「どういたしまして。気をつけてくださいね」
と言った。
男の子は冒険者ギルドの方にスタスタと歩いていったが、途中で人とぶつかり転んでいた。
「大丈夫かなぁ」
と呟いて僕たちは城門に向かった。
僕たちはたわいもない話をしながら、目的地に向かった。
途中で綺麗な花があれば3人で「かわいい花だね」と感想をいいあい、川があれば泳いでいる魚を眺めるなど、目的地を目指しのんびり歩いていた。
しばらくすると、芽衣が手を繋いできた。
「えっ?」
僕は驚いて芽衣を見るすると、
「いいじゃん」
と笑いながら芽衣は言う。
すると反対の手を姫乃先輩が繋いできた。
「えっ?」
今度は姫乃先輩を見る。
「こほん。いい天気だね」
と顔を赤くしながら姫乃先輩は言う。
「いい天気ですね、、、」
と返すのが精一杯の僕。
僕たちは3人で手を繋ぎながら歩いていく。
心の中では手汗をかかないようにと神様にお願いしていた。
2時間ほど歩くと目的地に到着した。
そこは丘の上にある砦の跡地だった。
周りには高い山もなく360°見渡すことができた。
「ほぇー。すごいなぁ」
僕は率直な感想を言った。
姫乃先輩も
「すごい光景だね。この世界もずっと遠いところまで続いているのがわかるね。」
「でしょでしょ!いいところでしょ!」
芽衣が得意顔で続ける。
「あっちからは芽衣達がいる街も見下ろせるんだよー」
「ほんとだ!こうしてみるとあの街って結構大きいんだな。そういえば、バタバタしていて街を見て回ることもなかったな。今度みんなで街を見て回ろうか。」
と僕が言うと
「そうだね。そうしよう」
と姫乃先輩も同意してくれた。
「そうだね。」
と芽衣も同意してくれたが、芽衣の顔に一瞬陰がかかったように見えたのは気のせいだろうか。
「それよりお昼にしよう!実はね芽衣お弁当を作ってきたんだ!」そう言った芽衣はいつもどおりの芽衣だった。
僕たちは砦の跡地を少し離れて、開けたところにシートを敷いて座った。
「じゃーん」
と言って芽衣がお弁当を並べた。
お弁当はサンドイッチがメインで、唐揚げや卵焼きなどのおかずも用意してあった。
元は一つの世界だったらからなのだろうか、この地球の食べ物は元いた地球とさほど変わらない。
芽衣が作ってくれたお弁当はどれもおいしかった。
実は修練場で密かに料理の修練を積んでいたらしい。
僕たちはお弁当を食べながら元の世界にいたころの話をした。
学校での思い出、ゲームの話、テレビの話、もう遠い過去のように感じてしまう。
でもなんとか戻る方法を見つけて、また昔の生活を取り戻すんだと心に誓う。
この世界に来てこんなにものんびりできたのは初めてだった。
たまにはこういうのもいいなぁ。
お弁当を食べ終えて持ってきた水筒のお茶を飲みながら一息ついた。
僕は改めて芽衣に
「今日はありがとう。ここに来れて本当に良かった。」
と言った。
「私からもありがとう。本当に楽しかったよ」
姫乃先輩も言った。
「てへへ。」
芽衣は満足そうに頬を人差し指でかいていた。
「そろそろ帰ろうか」
と芽衣が言った。
「そうだね。あまり遅くならないほうがいいね」
と姫乃先輩が言って、敷いていたシートを片付け始めた。
片付けが終わり、帰りはお弁当箱やシートは僕が持つことにして僕は先頭を歩き始めた。
ここからまた2時間かけて町に戻る。
夕方までには帰れるかなと僕は思った。その時だった。
バタンと後ろから何かが倒れる音がした。
後ろを振り返ると芽衣がうつぶせで地面に倒れており、すぐそばに人影があった。
そこには真壁が海賊刀を持って立っていた。
「フヒヒ。久しぶりだなぁ。約束通り殺しに来てやったぜぇ」
Merry Xmas




