137、イカ討伐
翌朝、僕たちは再びサトルのお姉ちゃん探しに出かけた。
今日の引率は僕と姫乃先輩、翁くん、四宮さんだ。
ミトは朝からどこかへ出掛けてしまった。
ウィンとリムは昨夜食べ過ぎたために、お腹を壊して宿で寝ている。
ウィンは苦しそうにしながら、
「後は頼んだ。。。」
と下手くそな演技をしながら、僕たちに何かを託したらしい。
魔法を使えば一瞬で治るだろうに。
おそらく面倒くさくなったのだろう。
新たな気持ちでサトルのお姉ちゃんを探すわけだが、有力な情報があるわけではない。
「とりあえず今日も冒険者ギルドに行ってみっか」
と翁くんが言った。
冒険者ギルドは1番情報が集まりやすい場所だ。
昨日はダメだったかもしれないけど、今日は新しい情報を得られるかもしれない。
僕たちに異論はなく、まずは冒険者ギルドに向かう事にした。
冒険者ギルドの扉を開けると、中の雰囲気は昨日と同様でそれほど活気があるわけではない。
僕たちは真っ直ぐ受付に行って話を聞いた。
「あら。昨日の方ですか。申し訳ございませんが、まだそれらしい方は見えておりません」
と受付嬢は言った。
予想はしていたけど、また空振りだったか。
「仕方がないね。次はどこを探してみようか」
と姫乃先輩が言うと、
「昨日行っていないところに行ってみようよ」
と四宮さんが言った。
「杏奈が言う事はもっともよね。行っていない所といったら、、、」
と姫乃先輩が思考を巡らせてから言った。
「湖に行ってみる?」
「おっ。いいな!イカ討伐といこうぜ」
と翁くんが違う意味で同意した。
イカ討伐。。。
たしかAランクの依頼だった。
ちょっと怖い。
いや、かなり怖い。
できればやりたくない。
いや、何としてでもやりたくない。
ここは捜索が目的だと言う事を、明確に伝えようと思っていると、
「イカ!イカー!」
と何故か討伐に乗り気のサトル。
「翁くん」
と四宮さんが口を挟む。
さすが四宮さんだ。ちゃんと翁くんを嗜めてくれると思いきや、
「あくまでもサトルのお姉ちゃんを探すのが目的だから、イカ討伐はついでだよ」
と四宮さんが翁くんに言った。
ついでにやるんかーい!と心の中で四宮さんにツッコミを入れた。
イカを討伐する事で話は進み、僕たちは湖に向かって進む。
「イーカ!イーカ!」
とサトルはルンルンだ。
怖くないのか?子供だからわからないのか?
言い出しっぺの翁くんはもちろん、四宮さんや姫乃先輩までも平然としている。
怯えているのは僕だけ?
「姫乃先輩はイカの魔獣は怖くないのですか?」
と聞いてみると、
「うーん。まぁ何とかなるんじゃないかな」
と答えた。
姫乃先輩も軽く考えているようだ。
唯一味方になってくれそうな姫乃先輩もこんな感じだったので、僕は諦めてみんなの後に着いて行った。
1時間も歩かないうちに大きな湖が見えてきた。
「おぉでっけぇ」
と翁くんはテンションを上げて言った。
翁くんが言うとおり、湖は想像以上に大きく反対側の陸地は見えない。
前情報が無ければ海だと勘違いをしていただろう。
湖の近くまで行くと船着場があり、たくさんの船が停まっていた。
湖の周りにはお店が並んでおり、人気のあるスポットだったことが伺える。
しかし、湖を見ても船が出ている様子はなかったし、人は全くおらず閑散としている。
おそらくイカの魔獣のせいだろう。
僕たちはしばらく湖の周りを歩いてみた。
しばらく歩いてみても、やはり誰一人いない。
「やっぱりここにもサトルのお姉ちゃんは来ていないかな」
と僕は言うと、
「そんなことよりイカだろ」
と翁くんは言った。
いやいや。イカよりお姉ちゃんだろ?
完全に当初の目的を忘れている。
当のサトルも
「イーカ!イーカ!」
と言いながら翁くんと並んで歩いていた。。。
それを姫乃先輩と四宮さんが微笑ましい顔で見ている。
僕の考えが間違っているのだろうか。。。
僕だけ置いてけぼり感が強い。
さらに湖の周りを歩き続けていると、ふと湖の水面に渦が発生した。
ゴゴゴゴゴゴゴ
と音を立てながら、渦はどんどん広がっていく。
大きな渦の中心に影が見えた。
「くるぞっ」
と翁くんは言うと、すぐに戦闘体勢をとった。
水の中から何かが、物凄いスピードで飛び出してきた。
僕は咄嗟に回避すると、それは大きな音を立てて地面を破壊した。
着地を決めて確認すると、それはイカの足だった。
水面から突き出ている部分だけでも20mはあるだろう。
イカの足は再び僕を目掛けて振り下ろされる。
僕は何とか回避に成功するが、イカの足が叩きつけられた地面は大きな音を立てて破壊された。
かなりの威力だ。まともに受けたらただじゃ済まないだろう。
足だけであの大きさのイカだ。。。
でか過ぎだろ!
あの大きさのイカを「イカの魔獣」と言う表現だけで伝えるのはいかがなものか。
ある意味詐欺じゃないか?
せめて「大王イカ」とか言ってくれていればこんな依頼絶対に受けなかったのに。
などと余計な事を考えながら、イカの足をかわし続ける。
「イグニッション」
と隣にいた翁くんがスキルを発動した。
翁くんの体から金色の光が発せられる。
「おぉぉぉ。かっくいー」
とサトルが翁くんを見て、目を輝かせた。
「引き摺り出してやる」
と翁くんは言うと、動きが止まった隙をついてイカの足を掴んだ。
そのまま大きくジャンプをすると、一本背負のような体勢でイカを引っ張った。
「うぉぉぉぉぉ」
と声を出しながら、イカを引っ張る翁くん。
姫乃先輩もイカの足に糸を巻きつけて翁くんの補助をする。
姫乃先輩の糸は僕でも軽々持ち上げる力はある。
翁くんの助けにはなるはずだ。
「グラビティ」
四宮さんが重力のスキルを使った。
徐々に水面からイカの本体が浮かび上がってくる。
僕には翁くんを手伝う術がない。。。
ここでも僕は疎外感を味わった。
ゴォォォォォ
音を立てながらイカが浮かび上がってくる。
「でかい!」
イカの体はまだ半分も浮かび上がっていないが、軽く30mはあった。
大王イカどころじゃない。
伝説とかに出てくるクラーケンじゃないか。
こんなやつ倒せるのか?
イカは水上に引きづり出されて、怒ったのか暴れ出した。
イカは10本の足を相手も見ずにめちゃくちゃに打ち付けてくる。
何とかかわし続けるが、地面には破壊の跡がどんどん増えて行った。
サトルは大丈夫か?
サトルを守ってあげないとと思ってサトルを見ると、軽い身のこなしで楽々とイカの攻撃をかわしていた。
「えっ?」
サトルにそんな動きができるとは思っていなかったので僕は驚いた。
さらに
「じゃあそろそろいっくよー」
とサトルが言った後、
「アーム!こぉーーーーーい!」
と両手を上げて叫んだ。
すると上空に穴が現れて、そこから何かが飛び出してきた。
飛び出してきたものは、一直線にサトルの元に飛んでいき、サトルの腕に装着された。
よく見るとそれは鎧のような物の腕の部分だった。
それは黄金に輝いている。
「えっ?」
全員がサトルの行動に驚いて動きを止める。
サトルはそんな僕たちに構いもせずに、イカに向かって飛び上がった。
「ブレイブパーンチ!」
と言う掛け声と共にイカに向かって、パンチを繰り出す。
イカは攻撃に回していた足を、防御で固めた。
ドゴーーーーン
しかし、サトルのパンチの威力は物凄く、イカの足を瞬時に吹き飛ばして、その先にあった巨大なイカの本体をも一瞬にして吹き飛ばした。
僕「えっ?」
姫乃先輩「ええっ?」
翁くん「はぁ?」
四宮さん「なに?」
全員「えーーーーーーっ!?」
タッ
と華麗に着地を決めるサトル。
僕たちは唖然としていた。
「サッ、、、サトル!お前すげぇじゃねぇか!」
と先に話し始めたのは翁くんだった。
「そんなことないよ。翁お兄ちゃんのパワーももの凄かったよ」
「姫乃お姉ちゃんの糸も便利なスキルだね!」
「杏奈お姉ちゃんのスキルって重力?すごいねー!」
とサトルはひとりひとりに声を掛けた。
そして僕の番。
「勇お兄ちゃんは。。。。ナイス回避」
と言って親指を立てた。
グザッ
僕は心に大きなダメージを受けた。




