135、射的
僕たちはペタの街の門まで来た。
門番にサトルのお姉ちゃんの容姿を伝えて、街に入ったかを確認する。
「んー。わからないな。こんな街でも1日に何百人もの出入りがあるからな。いちいち覚えていられないんだ。」
と門番からも有力な情報を得ることができなかった。
仲良くなったリムとサトルが腕を組みながらスキップをしている。
僕の気持ちも知らないで。。。
と思ったが、微笑ましいので許す事にした。
さて、本当に手詰まりになりつつある。
街を出て探すとなると広大すぎるし、行き違いになる可能性もある。
どうしたものか。。。
「食堂で話を聞いてみたらどうかな?」
と姫乃先輩から提案があったので、食堂を探すことにした。
街というくらいなので、食堂も複数件ある。
僕たちは街の中心に向かって歩いて行って、見かけた食堂で聞き込みをした。
数件当たってみても情報はなかった。
次の食堂を探して歩いていると、
「あっ!あれやってみたーい」
とサトルが言った。
見てみると射的のお店だった。
的目掛けておもちゃの鉄砲を売って、当たった的の合計点数によって景品をもらうことができる。
僕は止めようとしたが、
「いいね。やってみようよ」
と姫乃先輩は僕の手を引っ張って、射的のお店に走った。
姫乃先輩に手を握られて、ドギマギしながら着いて行った。
早速みんなで射的を始める。
的は10点、30点、50点、100点の四種類だ。
弾は5発。
子供の頃、元地球のお祭りで、何度かやったことはある。
苦手意識はない。
いける。
姫乃先輩にかっこいいところを見せることができる。
そう思った時、
「ひゃっひゃくてーん」
と店主の声が聞こえた。
横を見ると、姫乃先輩が打ち終わり後に煙の出ていない銃口にフッと息を吹きかけていた。
「私、射撃とあやとりは得意なの」
とすぐに猫型ロボットに助けを求める駄目小学生のような事を言っている。
確かに姫乃先輩はスキルの糸でいろいろな形を作っている。
それに糸鉄砲を使った時も狙いは抜群に良かった。
スキルで何らかの補助をしているものだと思っていたが、狙いは実力だったみたいだ。
姫乃先輩は5発共に100点の的を撃ち抜いて、500点と早々とトップを決めた。
次は僕だ。
「イサミンがんばれーー」
とウィンから暖かい声援をもらう。
僕も100点狙いで行く。
1発目、2発目と僕は外す。
思っていたよりも、狙い通りに撃つのは難しい。。
しかし、3発目は100点の的に当たった。
「やった!」
4発目を外したが、5発目も100点の的に当たり、200点を獲得した。
次はウィンの順番だ。
ウィンの打った弾はおかしな軌道を描いて、100点の的に当たる。
「ふっふーーん」
とウィンは僕と姫乃先輩にドヤ顔をした。
何かやってるな。。。
と思ったが僕にはわからない。
「姫姉。負けないよー」
と言いながら、次の弾を放つ。
これもクネクネと曲がりながら、100点の的に命中した。
3発目、4発目も100点に当てて、ウィンは400点。
最後の1発もくねくねしながら100点の的に命中、、、するかと思いきや、的に当たる寸前に何かに弾かれて横の壁に命中した。
「あ゛ーーーー!」
とウィンは叫びながら、キッとリムを睨んだ。
リムは明後日の方向を向きながら、吹けない口笛を吹いている。
しかし、リムがやった証拠はなく、そもそもウィンも魔法で何かしらの細工をしていたので、それ以上リムを責める事はできなかった。
ズーン
とウィンは落ち込み後ろの椅子に腰掛けて項垂れている。
次はリムだ。
「お手本を見せてあげるのよ」
と言いながらリムは自分の体よりも長い鉄砲を持つ。
抱えていると言った方が正しいかもしれない。
リムはバンと撃つたびに後ろに吹き飛び転がった。
弾は的を大きく外して天井当たる。
リムは5発中、5発共に天井に当たり、得点は0点となった。
ズーン
とリムは落ち込みウィンと並んで後ろの椅子に腰掛けて項垂れている。
最後にサトルの番が来た。
サトルは1発目から100点を狙って見事に命中した。
「やったぁ」
サトルがガッツポーズをする。
しかし、2発目、3発目は惜しくも当たらず、4発目は100点の的を狙うが、右下の50点の的に当たった。
これでサトルは150点。
100点を当てないと僕を抜かすことはできない。
「頑張れ!サトルくん」
「サトル!勇に負けちゃいけないのよ」
と2人ともサトルの応援に回る。
サトルが狙いを定める。
バン
とサトルが撃った弾は、見事に100点の的に命中した。
「やっ、やったぁ!お兄ちゃんに勝った!」
と飛び上がりながら喜んで、姫乃先輩やリムとハイタッチをした。
その後もサトルのお姉ちゃんを探しつつ、珍しいお店を見つけてはサトルと一緒に楽しんだ。
昼食は近くにあった食堂に入った。
「サトルは何を頼むのよ?」
すっかりサトルと仲良くなったリムが声をかける。
「んー。お肉をこねて焼いたやつにしようかな」
元の地球ではハンバーグと言われている料理に近いものだ。
やっぱり子供にハンバーグは鉄板だという事かな。
リムはぶつ切りのお肉を焼いた料理。
元の世界ではサイコロステーキと言われている。
それを2人は仲良く分け合って食べていた。
「さてと。これからどこを探せばいいのかしら」
と食事を終えた姫乃先輩が言った。
「むごなごもごむご」
ウィンが食べ物を口に含みながら、答えるので全く聞き取れない。
ゴクンと飲み込んでから、改めてウィンが言う。
「まだこの街に来ていないんじゃない?」
「そうかもしれないけど、可能性がありそうなところは探してみましょう」
「まぁ姫姉がそう言うなら、みんなといて楽しいし全然いいけどねー」
食事を終えて、食堂を後にする。
僕たちはまたサトルのお姉ちゃんを探すために街を練り歩いた。
「おーい。勇ー」
捜索を続けて日も落ちてきた頃、翁くんが走って来た。
何かあったのかと思って、翁くんに聞くと、
「豚の群れを見つけたんだ。ひと狩り行こうぜ」
と某有名ゲームのような誘い文句で、僕を半ば強引に連れて行こうとする。
「豚と言ったらあれやろうよ!」
と姫乃先輩はテンションを上げて言う。
鈍い僕でもすぐにピンときた。
あれだ!
「翁くん。ひと狩り行こう!姫乃先輩は準備をお願いできますか」
「任せて!2匹お願いね」
と姫乃先輩はVサインを出してながら言った。
「了解です!」
僕と翁くんは街を出て、翁くんが豚の群れを見たと言うところに向かった。
「なぁ。あれってなんだ?」
と翁くんは聞いてきたが、
「まぁ。後のお楽しみってところかな」
と答えておいた。
「翁くん。なるべく豚は傷を付けないように気絶させてくれない?」
「ん?まぁ少し面倒だが了解した」
しばらく歩いていくと、翁くんの言うとおり豚の群れがいた。
「じゃあ俺と勇で1匹ずつでいいな」
「うん」
僕は月刀を構えて、足に力を入れた。
腹に溜めているエネルギーを足に送る。
「飛神」
僕は光に溶け込んだような感覚になり、一瞬のうちに狙いの豚を通り越した。
振り切った月刀の先には豚が宙を舞っている。
もちろん峰打ちだ。
僕の一撃に他の豚が逃げ出す。
「イグニッション」
と翁くんはスキルを発動させる。
翁くんの体が、金色の光を発した。
翁くんはものすごい速さで豚との距離を詰めて、豚の額を殴った。
殴られた豚は数m先に吹っ飛んでピクリとも動かない。
鮮やかだった。
翁くんに戦い方を教えた師匠は狩りのやり方も教えてくれたそうだ。
リクたちと一緒だと思った。
狩りのやり方とか野営のやり方とかこのAEで生きていくためには、必ず必要になってくる。
戦う事だけでは駄目なのは間違いないのだ。
僕たちにとってリクたちはいい師匠だった。
翁くんたちもいい師匠に巡り会えたのだろう。
僕たちは豚の足を縛り上げた。
あとは持って帰るだけだ。
でも。。。
こんなでかい豚を担いで街まで戻れるのだろうか。
「どうやって持って帰ろうか?」
と翁くんに聞くと、
「任せておけ。イグニッション」
翁くんの体から金色の光が発せられる。
しかし、今までとは違い光は弱い。
「よっ」
と言いながら、両肩それぞれで豚を担いだ。
「これなら持続時間も長いし、楽々運べるだろ」




