13、飛神
真壁の襲撃から逃れた僕たちは、夜通しで街に向かった。
姫乃先輩は足を怪我しているため、かなり負担をかけたと思う。
しかし、真壁に追いつかれるリスクを考えると留まるわけにはいかなかった。
明け方近くになり、僕たちはようやくベルンの街に帰還することができた。
すぐさま施設に戻り僕たちは泥のように眠った。
夕方になり僕は目が覚めた。
姫乃先輩は大丈夫かなと思って、姫乃先輩の部屋へ向かう。
トントントン
扉をノックするが、返事がない。
まだ眠っているのだろうか。
芽衣の部屋にも行ってみるがノックをしても返事はなかった。
芽衣もストロングウルフ戦で負傷している。
まぁ今日はゆっくり寝かせてあげようと思い僕は1人で食堂に向かった。
僕は1人で夕食を取っている。
1人でいるといろいろなことを考えてしまう。
今は真壁との戦いのことを思い出していた。
「なんであの時、姫乃先輩は僕にあんなことを言ったのだろう」
姫乃先輩は僕に告白まがいのことを言った。
真壁の誘いを断るための口実だとしても唐突すぎる気がした。
また、姫乃先輩は僕にイメージだとアドバイスをした。
確かにそのアドバイスのおかげで僕は姫乃先輩を助けることができた。でもなんでそんなことを。。。いくら考えても僕にはわからなかった。
「まぁ考えてもわからないことはしょうがないかな。」
と言うと食べ終わった食器を片付ける。
「それよりもこの力をものにしないとなっ」
明日からは修練場で特訓だと心に誓い、今日は寝ることにした。
翌日、僕は朝からスキルの修練場に来ていた。
姫乃先輩のところへ朝行って、ドアをノックしたところ、姫乃先輩は顔を出した。
足の怪我のせいか、顔は少しやつれているように見える。今日は大事をとって部屋で休息をするそうだ。
芽衣は僕と一緒に修練場に来ていた。まだ疲れが取れておらず眠そうだが、僕にヤジを飛ばす方が疲れが取れると言っている。。。
早速僕は先日の感覚を忘れないように、あの瞬間移動を試してみた。
「イメージ。イメージ」
僕は目的地を定め、そこに移動するイメージを思い描く。
するとこの前のように足元が金色に光り出した。
そして脚を蹴る。
シュン。僕は目的地まで移動していた。
「おーー。」
と芽衣が拍手をしてくれる。
「勇っちすごいじゃん!」
芽衣は褒めてくれるが、
「だめだよ。発動するのにこんなに時間がかかるんじゃ戦闘では使えないよ」
と僕は言った。
「芽衣は魔法を発動する時どうやって速く発動させているんだ?」
僕は芽衣に聞いた。
「そうだねぇ。魔法も基本的には頭でイメージをして発動しているんだよねー。素早くイメージするために使う魔法の名前を言っているかな」
「なるほど。名前を呼ぶことで素早くイメージを固めるのか」
「ダメ元で名前をつけてみれば?」
と芽衣は言った。
「んー」
僕はスキルの名前を考えている。
30分ほど考えた末に僕はこのスキルに「飛神」と名付けた。
飛ぶように進むから「飛進」だが、僕の厨二病精神に則り「進」を「神」に変えている。
芽衣は
「キャハハ!神だってぇ」
と爆笑していた。
名前も決まり改めて修練に戻る。
目的地を定めて、「飛神!」と発声する。
すると足元が金色に光りだした。僕はそのまま脚を蹴ると一瞬で目的地に移動できた。
さっきよりも格段に発動までの時間が短縮された。
芽衣様々だと思った。
僕はこの数日を飛神の修練に費やした。
姫乃先輩も修練場に顔を出してくれるようになった。
まだ足の怪我が完治していないため、糸スキルの能力向上に努めている。
飛神の発動までの時間は最初の頃に比べると格段に速くなった。
とは言っても、飛神は発動するにはかなりの体力を使うため、そう何度も使用することできない。
やり過ぎると動けなくなってしまうため、2回使用したら休憩や刀の素振りなどをして体力が戻ったら、また2回使用するを繰り返した。
修練のかいもあり、3回は連続で使用しても余力が持てるようになった。
また、あまりの速さで最初は気がついたら目的地にいる状態であったが、修練を積むにつれ少しずつ高速の中を意識できるようになってきた。
最近では始動前に決めている簡単な行動については、高速移動時にできるようになってきた(目標物を斬る、掴む、殴るなど)
しかし、一度に2つの行動はなかなか成功しなかった。。。
修練を繰り返しているうちに飛神についていろいろわかってきた。
▪️飛神は高速でただ移動することができるだけである。
瞬間移動ではないため、障害物があればぶつかってしまい、通り抜けることはできない。
ましてや高速移動で障害物にぶつかった時の衝撃はとんでもなく、布団で試しても僕は衝撃で気を失ってしまった。
▪️進行方向は直進のみである。あまりの速さにほぼ自分でも認識できないため、曲がることなんて今のところ不可能なのである。
▪️一回の飛神での移動距離は最長でも50m程度。ただし修練をする事で少しずつ距離は伸びているので、今後も伸びる可能性はある。
▪️発動時には足場は重要。ジャンプしながらの発動はもちろん、もろい足場だと地面が力に耐えきれず壊れてしまい発動できなかった。
▪️後ろや横に飛ぶことも可能。ただし後ろに飛ぶとバランスを保てず転がって行ってしまった。
▪️斜め上に飛神で飛ぶことは可能だった。真上も一応可能ではあったが、そのまま落下し危うく死ぬところだった。姫乃先輩が糸で助けてくれなかったら死んでいたかもしれない。
なかなか癖が多く扱いにくいスキルなのかもしれない。
それでも、ようやく僕にスキルが備わった。扱いにくい点を差し引いても今までよりは戦闘の幅は広がるであろう。
姫乃先輩や芽衣を守るため、今度は真壁に負けないため、そして元の地球に戻るため僕は少しでも強くならないといけない。




