129、【番外編】AEのクリスマス①
僕たちがこのAEに強制的に転移されて、ひと月ほど経った。
僕たちはお世話になっているベルンの街の転移者保護施設の修練場で修練を行う毎日だ。
未だにスキルも見つからず、魔法も使えない僕は、自分で決めた刀という武器の使い方を学んでいる。
魔法は諦めたが、スキルは見つかっていないだけだと信じて、いろいろ試している最中だ。
今日も僕は刀の練習の後で、スキルの発見のために奮闘していた。
僕は遠くにある物を爆発させる事はできないかと、離れたところにリンゴを置いて念じている。
「爆発!」
「はぜろ!」
「波!」
「ボン!」
色々な掛け声を試してみるが、一向にリンゴが爆発する気配は無かった。
「ねぇ勇っちー。そんな無駄な事はやめて遊びにいこうよー」
隣でガヤに徹している芽衣が言う。
「無駄かどうかはわからないだろ」
と強がっていると、修練を終えた姫乃先輩がこっちに向かって歩いてきた。
「勇くん。頑張っているね」
と何もできない僕に対して嘲る様子は一切なく姫乃先輩は言った。
「姫乃先輩!」
と僕が答えると、
「チェッ。2人きりになりたかったのに」
と芽衣が舌打ちをした。
「毎日頑張りすぎても効率は上がらないと思うよ」
と近くまで来た姫乃先輩は言った。
「そうだよ勇っち。遊びに行こうよー」
「そうね。たまには遊びに行くのもいいかもね」
と芽衣の提案に姫乃先輩も乗り気だ。
美女2人のお誘いを断るほどの堅い意志が僕にあるわけもなく、僕たちは街に遊びに行くことになった。
僕たちは街に出ると、まずはショッピングだ。
僕たちに余分な物を買う資力があるわけがなく、もっぱらウィンドウショッピングとなった。
それでも美女2人が服や帽子、鞄を選ぶ様子を見ているのは僕にとっても幸せな時間だった。
3人で甘い物を食べながら休憩。
元の世界ではこれをデートと呼ぶのだろうか。
しかも美女2人!!
僕は幸せの絶頂にいた。
よく分からないのに頼んだケーキっぽい物も美味しかった。
「勇っち。それ美味しそうだから少し頂戴」
と芽衣が言うと、僕の返事も待たずに自分のスプーンで僕のケーキを少しすくい食べた。
「あっ私もっ」
と姫乃先輩も自分のスプーンでケーキの端っこを掬い上げて口に運ぶ。
これは。。。
姫乃先輩と芽衣が口にしたスプーンが僕のケーキに触れた。
僕がこのケーキを食べれば、間接間接キッスでは!?
などと考えていると、、、
「貰っただけじゃ悪いから私のもあげるよ」
と芽衣が言って、自分のプリンみたいな物をすくって僕に差し出してきた。
「はい。あーん」
姫乃先輩も
「私のもどうぞ」
と言って、自分のゼリーみたいな物を救って差し出す。
「あーん」
あれっ?
ここは天国ですか?
これは間接間接キッスどころではない。
曲がりもない間接キッスだ。
いいのか?いいのか?
僕はこんなに幸せでいいのか?
などと考えながらもドキドキしっぱなしだ。
「はい。あーん」
と言う甘い声に導かれながら、
「あーん」
と言って口を開けた。
少しずつスプーンに近づいていく。
もう少しでスプーンが僕の口に、、、
ドカーーン
と近くで物凄い音がした。
姫乃先輩と芽衣がスプーンを引っ込めて、慌てて立ち上がり周りの様子を確認する。
天国から一転、トラブルの予感。
僕は口を開けたまま、心の中で涙した。
音がした方を確認すると、ソリのような物が住戸に激突していた。
運転していた男の人が倒れている。
ソリを引いていた動物は無事みたいだ。
「大変!助けないと」
と姫乃先輩は言って走り出した。
僕も悲しみを乗り越えて走り出す。
「大丈夫ですか!」
と僕たちは倒れている人に駆け寄った。
「あぁぁ」
と苦しそうな返事が返ってきた。
意識はあるようなので、僕はとりあえずホッとした。
しかし、足の痛みが酷いのか、足を抑えながら苦しんでいる。
「早く病院に連れて行かなきゃ」
と姫乃先輩が言った。
「でもどうやって?芽衣たちの力じゃ運べないよ」
「僕が担いでいくしかないかな」
と言うと、
「これならいけるかな」
と姫乃先輩は言って、指から糸を出した。
糸は何かの形になっていっているのだろうが僕には何かわからない。
「んー。難しいな」
と言いながらも続ける姫乃先輩。
そして、糸で作られた何かが完成した。
「不恰好だけど、タンカを作ってみたよ」
言われてみれば確かに人が横たわれるスペースに持ち手が四つ付いていた。
ところどころに隙間があり、不恰好ではあるが使用には問題なさそうだ。
「これで病院まで運びましょう」
僕たちは男の人をタンカに乗せた。
できるだけ揺らさないようにはしたものの、男の人は痛みで呻き声をあげた。
「病院に運ぶから、それまで頑張って」
と姫乃先輩が声をかける。
僕たちは持ち手を持って、タンカを持ち上げた。
僕が前で、姫乃先輩と芽衣は後ろを持っている。
なるべく揺らさないようにしながら、僕たちは病院に急いだ。
病院に着くと、病院の人に声をかけて男の人を病院の中に運んでもらった。
僕たちがやれる事はやることができた。
ホッとしていると、病院の人が近づいてきて、病院の人に治療が終わるまで待っていてほしいと言われたので、僕たちはしばらく待つ事になった。
まだ治療にはしばらく時間がかかるということだったので、僕は1人で病院の近くをフラフラしていた。
すると珍しいお店があったのでそこに入って時間を潰した。
僕が病院に戻り、少し待つと病院の人が治療が終わったと伝えにきてくれた。
足を骨折していたが、他には大きな怪我はないそうだ。
ただ、骨折のため暫くは入院が必要なようだ。
僕たちは命に別状がないことにホッとして、男の人の病室に行った。
病室に入ると男の人はベッドの上で上半身を起こした状態でいた。
ひどく沈んだ感じだ。
大怪我をしてしまったのだから当然だろう。
「大変でしたね」
と姫乃先輩が声をかけると、
「おぉ。あんた達かい。病院まで運んでくれてありがとうな。おかげで助かったよ」
「いえ。大したことはしていません。暫く入院みたいですね」
と姫乃先輩が言うと、男の人はさらに沈んだ感じで、
「おぅ」
と一言だけ答えた。
「どうかしましたか?」
姫乃先輩も不思議に思ったみたいだ。
確かに大怪我をして落ち込むのはわかるが、何かそれだけではない気がした。
少しの間、間を置いてから男の人は言った。
「今日は何日か知っているかい」
「今日は12月24日ですかね」
と僕が答えると、
「そうなんだ。今日は街を上げて、子供達にプレゼントを配る日なんだよ」
なるほどこのAEではクリスマスという概念はないものの、この日は子供達にプレゼントを配っているみたいだ。
元の地球と似た感じだなと思った。
「それで俺は今年プレゼントを配る係りなんだ。あの鹿車にもプレゼントが乗っていたんだよ」
なんとこのAEではサンタはトナカイではなく、鹿に乗ってプレゼントを配るらしい。
「このままじゃ俺の担当する地域の子供達にプレゼントが届かなくなってしまう。子供達はこの日をとても楽しみにしているのに。。。」
と男の人はますます肩を落とした。
僕たちは顔を見合わせた。
男の人を歩けるようにするには回復魔法が必要だが、そんなことができる人は知らない。
「ぼっ僕たちが代わりに配りましょうか!?」




