120、水の羽衣
「水の羽衣」
ウィンが魔法を唱えた。
すると僕たちひとりひとりに水の膜が覆った。
「何だこれ?」
翁くんが言うと、
「炎の防御手段だよ。短時間なら炎から身を守れる。物理には効果ないから、攻撃は避けなきゃダメだよ。それに水の膜は補充されるけど僕の魔力が減るから程々にね」
「ウィンちゃん!すごいよ。動きやすいし」
と姫乃先輩が言うと、
「へへへ」
と顔を赤めた。
でもこれで赤虎に近づける。
攻撃開始だ。
「そんなもので我輩の炎が防げるものか」
と言いながら、赤虎は僕に飛び掛かってくる。
僕は赤虎の攻撃をかわした。
熱くない!
今までは近づいただけでも熱気にやられそうだったが、水の羽衣の効果で熱さを感じない。
いける!
僕は月刀を振るった。
しかし、赤虎はジャンプしてそれをかわして、距離をとった。
「その魔法。全く意味がないわけでは無さそうだな」
と赤虎が言うと、
「あったり前でしょ!僕の特性だよ!」
とウィンは指を差しながら言った。
僕は翁くんの目を見た。
翁くんは僕の目を見返して頷く。
僕と翁くんは左右に分かれて走り出す。
翁くんは剣を抜く。
僕は走りながら月刀に力を流した。
月刀が青白い光を纏う。
「アイスドリル」
四宮さんが牽制で魔法を放つが、これは赤虎の炎で消滅した。
その間に翁くんと僕は距離を詰める。
まずは翁くんがジャンプして、上段から剣を振り下ろす。
赤虎はバックステップでかわした。
僕は赤虎の着地を狙って、月刀を横一閃に振り切った。
ガキィン
赤虎は月刀を爪で受けた。
爪の強度は高く、月刀を一度は受け止める。
しかし、ジリジリと月刀が爪に食い込んでいって。
スパッと爪を2本切り落とした。
「ほう。厄介な刀だな。我輩の爪は鉄よりも硬いはずなのだがな」
と赤虎は冷静に言う。
僕はそれに構わず、月刀を上段から振り下ろした。
赤虎はいつの間にか生え揃った爪で今度は月刀を受け流した。
軌道を逸らされた月刀は空を斬り、地面の雪に突き刺さる。
今度は赤虎が僕に爪を振おうとするが、翁くんが斬りかかった。
赤虎は振るおうとした爪を止めて、翁くんの剣を防ぐ。
翁くんは連続で縦・横おりまぜて剣を振る。
しかし、赤虎は前足の爪で翁くんの攻撃を防いでいた。
その隙に僕は刀を、赤虎の後ろ足に向けて突いた。
しかし、赤虎は前足一本を軸に後ろ足を浮かせて、僕の突きをかわした。
もう一本の前足でしっかりと翁くんの剣も防いでいる。
赤虎はそのまま後ろ足で、僕を蹴り付けてくる。
僕は蹴りを月刀で受け止めるが、後方に吹っ飛ばされた。
さらに赤虎は、ぐるっと回転しながら尻尾を振るった。
予想外の攻撃に翁くんは反応できずに左腕に尻尾の攻撃を受ける。
翁くんは右に大きく吹っ飛んだ。
何とか翁くんは起き上がるが、水の羽衣の水量が減っている。
腕も折れているのか上がらないようだ。
しかし、すぐに水の水量が補充された。
そして、ウィンが翁くんに回復魔法をかける。
翁くんの腕が、動くようになった。
「サンキュ」
と翁くんはウィンに言った。
「やっぱり使わなきゃダメだな。もうあんまり余力がねぇんだがな」
と翁くんは言うと、
「イグニッション」
翁くんの体から金色の光が放出された。
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俺はイグニッションを使った。
体に力が溢れてくる。
できるならイグニッションは勝負どころまで使いたくなかった。
俺はイグニッション フルバーストをさっきの虎に放っている。
あれはごそっとエネルギーを持っていかれる。
それに全力ではないものの、練習で何度か使用している。
俺のエネルギーの残りは多くないのだ。
しかし、あの赤虎が相手となると、イグニッション無しでは話にならない。
このままでは、勇の足を引っ張りかねない。
そんなカッコ悪いのはごめんだった。
俺は赤虎との距離を再度詰めて斬りかかる。
赤虎は魔獣にも関わらず、体術もかなりのものだった。
技術的にも身体能力も相手の方が上手。
手数で勝負だ。
「うりゃぁぁぁぁ」
俺はさっきと同じように何度も斬りかかる。
赤虎はそれを見事に捌く。
しかし、パワーもスピードもさっきまでとは段違いに上だ。
赤虎もそれほど余裕は無いはずだ。
チラッと横目で勇を見る。
勇は隙を見つけようと赤虎を睨んでいる。
それでいい。
勇は自分の役割を理解している。
俺の剣では赤虎に大きなダメージを与える事は難しい。
しかし、勇の月刀なら。。。
俺は止まらずに剣を振る。
赤虎の意識をこっちに集中させるんだ。
赤虎は防御だけだと防ぎきれないと思ったのか、合間合間に攻撃を混ぜてくる。
爪で突きや払いをしてくる。
この攻撃も鋭いためかわすのも容易ではない。
頬を掠めたりと、俺の方も細かい傷が増えていく。
しかし、ウィンの水の羽衣のおかげで、炎のダメージはかなり抑えられていた。
俺は横に刀を振るった。
赤虎は爪で防御をするが、俺はさらに一回転して同じ方向に剣を振るった。
俺の剣が赤虎の顔を掠めて、鼻先に傷をつける。
「グォォォ。よくも我輩の顔に傷を!」
と赤虎が怒りをあらわにする。
「今だ!!」
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翁くんから声がかかった。
翁くんが奮戦している中、僕はそれに混じらずにすきわ隙を伺っていた。
それを翁くんは理解してくれていたみたいだ。
翁くんの剣が鼻先を掠めて、赤虎は意識を翁くんに集中した。
僕にもわかった。
今だ!
僕は足に力を流して、地面を蹴った。
「飛神」
周りの景色がスローモーションのように感じる。
僕は光と同化したような感覚の中、月刀を振るった。
僕は赤虎から数m先で剣を振り切った体勢で停止した。
少し遅れて、赤虎の首から大量の血液が噴き出した。




