119、壱
虎の頭が左右に分かれて、大量の血液が噴き出す。
そのまま虎は力尽きた。
「やった。やったぁ」
と僕はガッツポーズをとった。
僕が戦っている最中にも他の虎は倒れていっていた。
僕が虎を倒して、残り1体。
その虎が倒れるところを遠目で見ることができた。
倒れた虎は腹に風穴が空いていた。
あんなことできるのはウィンかな?
これで街に入ってきた4体の虎は倒すことができたはずだ。
僕はホッとして息を吐いた。
ふと虎が開けた壁の穴を見た。
街の外に何かがいる。
それほど大きくはない。
普通の猫くらいの大きさだろうか。
それはちょこんとお座りをしている。
距離がありよく見えないが、僕はなんとなく見られている気がした。
僕は気になって街の外に出て、確かめに行った。
リムもいつの間にか近くに来ていて、一緒に向かった。
それは本当に猫のようで、ちょこんと座っていた。
可愛い猫だな。
と思って近づいていくと、猫は目を閉じてじっと座っている。
僕は猫の頭を撫でようと手を伸ばした。
その時、
「おまえが我輩の分身を倒したのか?」
「えっ?なんて?つーか猫が喋った?」
「おまえが我輩の分身を倒したのかと聞いたのだ」
と言いながら、猫は目を開けた。
その途端に猫から禍々しい気配が溢れてくる。
そして、猫の目の中にある瞳には壱の紋様があった。
「いっ、壱って、、まさか、、、」
恐らく分身というのは虎だろう。
しかし、さっき倒した虎とは明らかに違う。
体は小さくても、この猫の方が何倍も危険だ。
「おまえには死を持って償ってもらおう」
と言うと、禍々しい気配がより一層強くなった。
「リム、下がっていてくれ」
「わかったのよ。無理するんじゃないのよ」
と言って、リムは下がっていった。
「イサミン!」
とウィンが駆けつけてくれた。
ウィンがいるのは心強い。
「戻れ。我輩の分身たちよ」
と言うと、四つの大きなエネルギーが猫のところに集まっていって、猫の中に吸い込まれていった。
すると、猫は大量のエネルギーを纏いながら、体が大きくなっていった。
と言っても、さっき戦った虎ほど大きくなったわけではない。
動物園などで見る虎の2倍ほどの大きさだ。
それでもエネルギーの総量は桁違いだった。
異変を感じて姫乃先輩や翁くん、四宮さんも集まってきた。
瞬時に状況を把握して、戦闘体制をとる。
ウィンがみんなの怪我を回復魔法で治してくれた。
回復魔法が使えることは本当にありがたい。
僕たちの戦う準備は整った。
「お前たちか。我輩の分身を倒したのは。4体共に倒される事など初めてだな」
「喋るのか!?こいつ」
と翁くんは驚いていた。
「我輩は赤虎。お前たちの間では三大魔獣に数えられている」
「青鰐と同じ三大魔獣。。。」
僕たちは青鰐と戦った経験があるが、敗退している。
青鰐と同じくらいの力はあると考えた方がいいだろう。
逃げた方がいいんじゃないかと頭によぎるが、それすらもさせてもらえないだろう。
「我輩の炎に焼かれ死ぬがいい」
と言うと、赤虎が炎に包まれた。
炎を纏っている状態なのだろうか。
「氷針」
ウィンがフライング気味に魔法を放った。
氷の針が赤虎に向かって飛んでいく。
しかし、氷の針は赤虎に届くことはなく、炎に触れた途端に蒸発した。
「あの炎やばいよ。気をつけて」
とウィンはみんなに言った。
赤虎は前足に力を入れた。
と思った瞬間に目の前から消えた。
「イサミン!上!」
とウィンに言われて上を見る。
すると飛び上がった、赤虎が僕を目掛けて右手を振るう所だった。
あまりの速さに見失っていたようだ。
「そんなよけられ、、、」
と言い終わらないうちに何かに引っ張られて強引に移動させられた。
見ると僕の体に糸が巻き付いている。
姫乃先輩だ!
赤虎はターゲットを失い、すでに誰もいない場所に着地した。
「勇くん!気をつけて。あの炎は触れるだけでも命取りになるよ」
姫乃先輩は悲痛な顔をしながら言った。
「おらぁぁぁ」
と翁くんが大きな木の枝を赤虎に向かって投げた。
枝は赤虎の炎で瞬時に消炭になってしまう。
「本当にあの炎はやべぇな」
赤虎が飛び掛かってくるのを僕は必死にかわす。
攻撃どころではない。避けるだけで精一杯だ。
「グラビティ」
四宮さんがスキルを発動する。
一瞬動きを止めることはできたが、すぐに弾かれてしまった。
赤虎が尻尾を振るう。
何とか後ろに飛んでかわすが、熱気が伝わってきて顔がヒリヒリした。
「氷塊」
ウィンはとてつもなく大きな氷の塊を出した。
そのまま赤虎を押しつぶすように落とす。
赤虎は一瞬氷塊を見たが、気にも止めず避けるそぶりもしない。
氷塊はそのまま赤虎に直撃した。
しかし、これでも炎で瞬時に蒸発してしまい、赤虎本体には届かなかった。
「厄介だなぁ」
とウィンはぼやく。
赤虎の纏っている炎は攻守共に非常に優れている。
攻めては触れるだけで相手を消炭にする。
守っては本体に当たる前に攻撃を消滅させる。
そう考えている間にも赤虎は攻撃を仕掛けてくる。
攻撃のスピードも速い。
いつまでかわし続けることができるのか。。。
月刀は大丈夫だよな。。。
溶けたりしないよな。。。
などと思ってみるが、そもそも攻撃する余裕すら無かった。
このままじゃやられる。
と思っていると、
「ウィンちゃん。みんなの防御任せれるかな?」
と姫乃先輩が言った。
「えっ。。。」
姫乃先輩の無茶振りに、一瞬ウィンが驚く。
「魔法創造士だもんね」
と姫乃先輩は言いながらとびきりの笑顔を見せた。
「まっ、、、任せてよ姫姉。ぼっ僕は魔法創造士だからね」
と顔を引き攣らせながら言った。
「でも少し待っててね。今から準備するから。。。」
「うん。よろしくね。それまでは持ち堪えるから」
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姫姉からの無茶振りが来た。
あれだけの火力を持つ赤虎の炎からみんなを守らなくてはならない。
でも僕に期待してくれているのがわかる。
ここで力になれなくて何が助けるだ!
僕は腹を決めて、魔法の創造に入った。
まずは脳内でイメージを固める。
幸いにも星との戦いで、相手の火力を防ぐ魔法を構築した経験がある。
要はその応用だ。
三重にした水の守りと、蒸発させられても補給する機能、それをみんなに動きの障害にならないように。
僕は脳内で魔法をイメージをして、その魔法を構築していく。
今も赤虎は絶賛攻撃中で、みんなはギリギリでかわしている。
いつ攻撃を受けてもおかしくない状況だ。
赤虎の炎であれば一瞬で命を削り取るだろう。
僕の魔法でも死者をよみがえさせる事はできない。
でも姫姉が糸でうまくフォローをして、ギリギリ赤虎の攻撃をかわしている。
早く。早く。早く。早く。早く。早く。
脳内で魔法を構築できた。
あとは魔力に乗せて発動させるだけだ。
かなりの魔力を消費するが、仕方がない。
僕は両腕を天に翳した。
両方の手のひらに魔力が集まる。
「水の羽衣」




