108、目的
「「「「500枚!!」」」」
法外な金額だ。
そんな大金を用意できるわけがない。
「そんな無茶苦茶ですよ」
と僕が言うと、
「私も命を張って情報を集めているのです。その情報をあなたたちに教える事はリスクが高い。仮にあなた達が黒の組織の人間であれば、情報の内容によっては私を消すでしょうから」
「僕たちは黒の組織ではないです!」
「それはわかっています。失礼ですが、昨日はあなた方を一日中見させていただきました。今日の約束に遅れたのもあなた方の様子を見たり、周りに怪しい人物がいないか確認していたからです。ですから例えばの話です」
「でもあなた方から、情報が流出する可能性もあります。それほど気を使わなければいけない内容だと理解してください」
「あっ」
「あっ」
「あっなのよ」
と僕以外の3人が何かに気付いたようだ。
「服装や雰囲気が全然違うからすぐには気が付かなかったけれど、昨日食堂で殴られていた人?」
と姫乃先輩が聞いた。
「気づかれましたか。お恥ずかしい。仕事を手伝えと言って、しつこい人がいましてね。キッパリお断りしたらあの様です」
「でも殴られた後、何ともないような感じでしたね」
「殴られる時に少し後ろに飛びましたので、派手に見えてもそんなに痛くなかったのですよ。あれで気が済めば安い物ですよ」
と昨日の一部始終を話してくれた。
ミトはかなり用心深いし、用意周到だ。
この交渉も一筋縄では行かないだろうと思った。
「話は戻しますけど、僕たちはそんな大金払えません」
と改めて僕は言うと、
「では諦めていただくしかありませんね」
とミトはキッパリと言った。
確かにリスクはある話だし、無理矢理聞き出すわけにもいかない。
黒の組織の情報は諦めるしかないかなと思った。
「ん?そこのお嬢さんは少し変わった匂いがしますね。あっ私鼻が効くんです」
とリムを見て言った。
「リムは月の大精霊なのよ。そんじょそこらの人間と一緒にしないでほしいのよ」
「精霊?あなた方は精霊を従えているのですか?」
「ふぬ!従ってなんかいないのよ。リムがお世話してやっているのよ」
「まぁ。マスコットみたいなものです」
と僕が言うと、
「ふんぬーーー!」
とリムは鼻から息を出していた。
「そうですか。精霊を。。。」
ミトは何か考え込んでいる。
「精霊まで連れたあなた方の本当の目的は何ですか?」
と聞かれたので、
「元の世界に帰、、、」
「世界を救うのよ」
僕が答えた時に、リムが被せてきた。
「世界ですか。。。」
あー。ミトが引いてるよ。
「いやいや。それはリムが言っているだけで、、、」
「何を言っているのよ。約束したのよ」
「約束ですか。。。」
さらにミトは引いているように見える。
「約束ってのは僕とリムの間で、、、そんな大々的には、、、僕も成り行きで、、、」
と僕が煮え切らない言葉をつらつら並べていると、
「何を言っているのよ!勇はリムと世界を救うと約束したのよ!それ以上でも以下でもないのよ!」
このリムの言葉に姫乃先輩も確かにね。と頷いていた。
「ほう。それで勇さんにはその力があると?」
とミトはあくまでも冷静に言った。
「勇は弱っちくて頼りないのよ。でも月刀に選ばれた人間なのよ。リムがキッチリ育てるのよ」
と何故か僕を前面に押すリム。
「月刀とは?」
「古代に月の神が使った刀なのよ。月をも真っ二つにする力を秘めているのよ」
リムさん。
僕はそんな事知らなかったんですけどー。
すごい刀だと言う事はわかっていたのですが、そこまでとは。。。
と心の中で思った。
「なるほど。リムさんのおっしゃりたい事はわかりました」
ミトは続けた。
「私は黒の組織の情報を得ていく中で、このAEが危ないという結論に至っています。私はこの世界が好きです。守りたいと思っている。ただ、私には力がない。世界を救いたいと思っているのに力がないのです」
「皆さんには力があるのかもしれない。今はなくても将来、世界を救えるような力を得る事ができるかもしれない」
「どうでしょう?しばらくの間、これからの旅に私を連れて行ってくれませんか?私は力も体力も無いので、足手纏いになる事間違いなしです。でもきっと役に立ちますよ」
足手纏いになるのに役にたつ。
意味のわからない言葉ではあるが、ミトの言葉には妙な説得力があった。
「ただし、私がダメだと思ったらすぐにいなくなりますよ。時には敵に売るかもしれません」
とミトは付け加えた。
「はん。上等なのよ。勇の力を思い知るがいいのよ」
とリムは勝手に話を進めてしまった。
「ではそう言う事で、しばらくはよろしくお願いします」
とミトは言った。
僕たちは宿に戻った。
ミトが黒の組織の話をするには、冒険者ギルドは誰が聞いているかわからないので危険すぎるとのことだった。
ミトの話では黒の組織は柱の開放を目指しているそうだ。
これはウィンも知っていた情報だったが、続きがあった。
アシリアには青柱と呼ばれる柱がある。
今黒の組織は青柱の開放の準備を進めている。
そして、幹部が少なくとも2人は来ていると言う事だった。
それと、先日ギルドに柱の場所を聞きにきた2人組がいたそうだ。
少し様子を見ていたそうだが、黒の組織とは関係なさそうだが、わからなかったようだ。
ミトは全ての柱の開放がされるとこの世界が崩壊すると考えていた。
ウィンもその点については、情報を持っていて、全ての柱が開放されると、元の地球とAEが融合してしまうという事らしい。
柱の開放が世界の崩壊に繋がっている事は間違いなさそうで、ミトはそれを防ぐために情報を集めていたらしい。
「黒の組織ってどんな組織なの?」
姫乃先輩は聞いた。
「正式な組織名は黒陽。神と呼ばれる者がトップで、黒陽9将と呼ばれる幹部がいるそうです。9将がそれぞれ部隊を持っているそうですが。単独で動くものもいるし部隊構成は異なるみたいで詳しい事はわかりません」
「僕、黒陽9将の1人と戦ったよ」
とウィンは言った。
「えっ?そうなの?」
と僕が聞くと、
「うん。あんなに強い奴は初めてだったから、負けちゃった。でも次は負けないよ!」
「黒陽9将と戦って生きている事が不思議なのですが、、、」
とミトは唖然としている。
「芽衣もその中にいるのか、、、」
「でもなんで柱の開放に時間がかかっているのかな?そんなすごい力があれば、一気に全部開放しちゃえばいいのに」
と僕が言うと、
「なんでも柱には開放可能な時期、周期があるようです」
「この近くにある青柱が、その周期が近いって事か。いつ頃かはわかるの?」
「私の集めた情報では、もういつ来てもおかしくないくらい近いみたいです」
「それじゃあ急がないと!」
「えぇ。すぐにでも出発しましょう」
と姫乃先輩は言った。




