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インテグレイション オブ ワールド  作者: アサム
第四章 出会
106/190

106、女の子

「諦めたらそこで試合終了だよ」



と声が聞こえた。


僕は驚いて声のした方を見上げた。

すると僕たちが落ちてきた穴の上に人影が見えた。

魔獣の返り血が左眼に入っていて、見える右眼だけでははっきりとは見えない。


「師匠が言うには有名な先生が言った言葉らしいよ」

と言ってからその人は魔法を唱えた。


「雷針」

多数の電撃の針が降り注ぎ、あれだけいた魔獣を一瞬のうちに殲滅した。


トンッ

その人はジャンプして僕たちの前に降り立った。



「イサミン、姫姉、助けにきたよ」



僕は降りたった人を見た。

その人は以前に街の食堂で一緒に食事をしたウィンだった。


気力も体力も尽きていた。

諦めないと思ってたが、心は折れかかっていた。

こんなところまで助けに来てくれるとは思っても見なかった。

色々な思いが巡り、僕は一瞬停止したが、すぐに喜びが溢れてきた。


「ウィンーーー」

僕は感情が溢れ出して、ウィンに向かって走り出し、思わず抱きついた。


「ウィンーー。ありがとうー」

ウィンの身体は思っていたよりも華奢で、いい匂いがした。

そして、何よりも柔らかかった。


「あわわわわ」

ウィンが驚いているか、戸惑っている。

僕はそんな事には構わずに喜びを表現した。


ゴンッ


と頭に衝撃が走り、目がチカチカした。

振り向くと姫乃先輩がゲンコツを握りながら、鬼の形相をしている。


「いててて。何をするんですか姫乃先輩」

と何故ゲンコツを貰ったのか全くわからない僕は言った。


「何するんですかじゃないでしょ。女の子にいきなり抱きつくなんて」

と姫乃先輩は言った。

ん?女の子?どういうこと?抱きついているのはウィンだよ?


「女の子?だってウィンはおとこ、、、」

と僕が言い終える前にウィンが言った。



「僕は女だよ、、、」



ウィンは頬を膨らませていた。


「えっ?」

ウィンと姫姉の顔を交互に見る。

2人とも怖い顔をしていて、冗談とは思えない。


「えっ?」

再びウィンと姫姉の顔を交互に見る。

ウィンと姫乃先輩は仁王立ちをしながら、依然として怖い顔をしている。

ようやく僕も状況が理解できてきた。

男の子だと思っていたウィンは、実は女の子で、、、

女の子にいきなり僕は抱きついた、、、

僕は血の気がサッと引くのを感じた。

頭の中がグルグルしてきて、訳がわからなくなってきた。


「ちゃっ。ちゃっ。ちゃうんです」


僕は必死に言い訳を考える。


ウィンは男の子だと思っていました!だめだ。女の子に対して失礼すぎる。


女の子だとはわかっていたけど、嬉しいさのあまり抱きついちゃいました!だめだ。ただのセクハラだ。


ハグは母国の挨拶だよ!だめだぁ。どこの国の人だ。


僕の頭はこの場を凌ぎ切るためにグルグルまわる。

飛神で光となった時よりも速く。


「その。あの。ほら。女の子って言うことはわかっていたと言うか。いなかったと言うか。だから抱きついてしまったと言うか。その。あの、、、、」

何か言わないとと思って口から出た言葉はしどろもどろになり、自分でも何を言っているのかわからない。


依然として、2人は怖い顔で僕を見下ろしている。

この場を治める力は僕には無い事を痛感した。

もう僕は最終手段に出るしかない。


「ごめんなさい!」

僕は服装を整え、正座し、額を地面に付けて謝った。

THE・DOGEZAである。

僕は額を地面に付けたまま、沙汰を待った。

さっきまでの戦闘以上に冷や汗が流れている。



「ぷっぷぷぷ」

「あははは」

ウィンが吹き出した。


「ふふふふ」

姫乃先輩も合わせて笑い出す。


僕は許されたみたいなのでホッとしたが、自分の情けなさと気まづさを誤魔化すように頭をかいた。


ウィンは僕たちに回復魔法をかけてくれた。

見る見るうちに傷口が治っていく。

僕たちは改めてウィンにお礼を言った。

ウィンは慣れていないのか、顔を赤らめて照れくさそうにしていた。


傷も治ったので、僕たちは急いで洞窟を出て、リムの元に向かう。

僕たちが洞窟に行っている間に何事もなかったようで、リムは元の場所で静かに眠っていた。

僕はホッとしながらリムに声をかける。


「リム。精霊石を取ってきたよ」

相変わらずリムの反応は無い。

洞窟に入る前よりもリムが薄くなったようにも感じた。

精霊石で回復しないようだと、もう撃つ手がない。

僕は不安を抱えながらも精霊石をリムの胸の上に置いた。


すると、リムと精霊石が仄かに光り出した。

精霊石は光を放ったまま、リムの胸の中に吸い込まれていく。

精霊石がリムの中に入り切った時、一瞬リムの体が強い光を放った。

光が治った後にリムを見ると、透けていたリムが徐々に元に戻っていく。


「リム。。。」

僕はリムの顔を覗き込みながら、リムの名前を呼んだ。


そして、リムはゆっくりと目を開けた。

リムは目の動きだけで、周囲を見渡した後に僕の目を見つめた。


「鬱陶しい顔をそんなに近づけるんじゃないのよ」


相変わらずのツンツンした言葉だった。

でもリムがいつもの調子で声を発してくれた事が嬉しかった。


「リムぅーーー」

「リムちゃん!」


僕は嬉しさのあまり、リムの両脇に手を入れて持ち上げた。

「あわわわわ。何をするのよ」

戸惑うリム。


「リムーーーー」

僕は洞窟の疲れも忘れて、リムを持ち上げたままぐるぐると回った。

「あわわわわわ。やめのるのよーーー」

リムは目を回しながら懇願する。

僕はお構いなしにぐるぐると回り続けた。


ゴチン!

僕の頭にゲンコツが入り、回転が止まる。

「いい加減にしなさい!」

と姫乃先輩からお叱りを受けた。

リムは僕の手の中で、目を回しながらグロッキー状態になっていた。


気を取り直して、僕は言った。

「リム。回復したみたいでよかったよ。安倍晴明の時は僕たちを逃がしてくれてありがとう」


「ずっと、、、お礼が言いたかったんだ」

僕の目から涙が溢れそうになったのを、グッと堪えながら言った。


「ふん。お礼なんていらないのよ。早く安倍晴明も倒せるくらい強くなるのよ」

リムは顔を赤めて、照れくさそうに言った。


「あのぉ。。。僕にその子を紹介してくれるかな?」

ウィンは申し訳なさそうに言った。


「あっ。ごめん。この娘はリム。月の精霊なんだってさ。ほんみょは、、、リ、、リ、、リンクムーンだっけ?」


「どこのページに飛べって言うのよ!!リンドムーンなのよ!」

といつものツッコミが入る。


「リンドムーンのリムさんか。僕はウィン。よろしくね」

とウィンは言った後に、

「あっこれでも女の子だよ」

と僕をジトメで見ながら言ったので、僕は目を逸らした。


「リンドムーンかどこかで聞いた事がある気がするな」

とウィンが言うと、


「リムは有名だから聞いた事があってもおかしくはないのよ」

と腰に手を当てて、ない胸を突き出しながら言った。


「リムちゃんも回復した事だし、コミト村に戻りましょうか」

と姫乃先輩が締めて、僕たちは街に向かって歩き出した。


村までは歩いての移動だ。

ウィン1人であれば、ジャンプの魔法でひとっ飛びだそうだが、僕たちを連れてのジャンプは無理だそうだ。


僕たちは4人で歩いていく。

雪道はだいぶ慣れてきた。

でも食料の確保はなかなか難しかった。

今回はいきなり洞窟に向かったので、携帯食も少ない。

みんなで分け合いながら、少しずつ食べる事にした。


夜は姫乃先輩考案のかまくらで寝た。

ウィンは初めてのかまくらにテンションが上がりまくっていた。


「ウィンはどうやって僕たちのところまで来れたんだ?」

かまくらの中で、暖をとりながらウィンに聞いた。


「大変だったんだよー。村を出てからベルンの街にいって、施設で北に向かった事を聞いたんだ。すぐにラビルの街に行って色々な人に聞いてみたんだけど、イサミンたちの事はみんな知らなかったから、追い抜かしちゃったかなと思って、ベルンの街まで歩いて戻ったんだ」

「ベルンの街からまたラビルの街に行ったら、イサミンたちが洞窟に入ったって聞いたから追いかけた。途中でネコ探しをしたり、変な奴に襲われたりしたから、時間がかかっちゃった。アリシアに入ってからは人がいなくて困っていたんだけど、色っぽいお姉さんにイサミンたちが洞窟に行ったと聞けたから、洞窟に向かったんだ」

ウィンは今までの鬱憤を晴らすかのように一気に話をした。


「ウィンは僕たちを探すためにいろいろ苦労してくれたんだね。ありがとう」

「ウィンちゃんのおかげで命拾いしたわ。本当にありがとう」

姫乃先輩と僕は改めてウィンにお礼を言った。


「これからはどうするの?」

と僕が聞くと、

「よければイサミンたちの旅の手伝いをさせてほしいな。一緒に旅をしてもいいかな?」


「「大歓迎だよ!」」

姫乃先輩と僕はウィンの手を取って、握りながら言った。

ウィンはまた顔を赤めて照れくさそうにしていた。

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