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インテグレイション オブ ワールド  作者: アサム
第四章 出会
104/190

104、守るんだ

姫乃先輩は痺れている僕を洞窟の壁に寄り掛からせてから、

「勇くんは少し休んでいで」

と言って前に出て行った。

前方にはまだ鱗粉が舞っている。


「電撃」

姫乃先輩は広範囲の魔法を唱える。

姫乃先輩の掌から電撃が発声して、鱗粉を焼き払った。

全てとまではいかないものの、近くにある鱗粉については焼き払うことに成功したみたいだ。


蝶は再び鱗粉を出すが、これも電撃で焼き払う。


「勇くん!私の攻撃ではこの敵は倒せない。時間を稼ぐから、回復に専念して」

と姫乃先輩は言った。


確かに姫乃先輩の得意とする糸ではエネルギー体には相性が悪い。

魔法も倒すほどの威力は無い。

僕が動けるようになって、月刀でとどめを指す。

これしか無いと思う。


蝶は、鱗粉は効果が無いと思ったのか、風の斬撃を放った。

「電撃」

姫乃先輩は電撃を放って、斬撃をかき消そうとするが、広範囲の魔法なだけに威力が足らず、斬撃が突き抜けてきた。


「うっ」

咄嗟に回避したものの、数カ所斬撃が掠めて出血する。

蝶は立て続けに斬撃を放つ。

姫乃先輩は火球で斬撃を打ち消すが、捌ききれない。

回避と火球を織り交ぜて、なんとか致命傷を避けている状況だ。


早く。

早く動けるようになってくれ。

と僕は心の中で叫んだ。

指先が多少は動くようになってきたが、まだまともに動ける状態ではない。

僕は歯がゆい思いをしながら、回復を待った。


姫乃先輩は必死に蝶の攻撃を防いでくれている。

蝶は斬撃に強風も織り交ぜてきていた。


姫乃先輩が斬撃をなんとか回避した時に、蝶は強風を発生させた。

姫乃先輩は糸で帆を作り、風を受け流そうとしたが、全てを受け流すことはできずに、強風に飲まれ再び壁に打ち付けられた。


「姫乃先輩!」

声が出せるまでは回復してきた僕は、姫乃先輩に声を掛ける。

地面に落下する姫乃先輩。

しかし、今度は意識を失わずに着地した。

壁に打ち付けられる際に糸でクッションのような物を作り、衝撃を緩和したようだ。


それでもノーダメージとはいかない。

着地後に痛みから片膝を地面に付く、しかし蝶は攻撃を止めてはくれない。

続け様に放った斬撃が姫乃先輩を襲った。


「火球」

火の玉で正面からくる斬撃をかき消す。

左右から飛んでくる斬撃には間に合わず、両腕に糸を巻きつけてガードする。

しかし、斬撃は糸を切り裂いて、腕の肉まで到達する。


「ぐぐっ」

姫乃先輩は両腕から血を流し、苦悶の表情を浮かべた。

それでも立ち上がり次の攻撃に備える。


「姫乃先輩!」

たまらず声をかける。


「大丈夫。大丈夫だから」

と蝶を睨んだ。


蝶は再び斬撃を放つ。

姫乃先輩は火球を放とうと腕を上げようとした。

「うっ」

しかし、先ほどの斬撃で負傷した右腕に痛みが走り、腕が上がらない。

咄嗟に糸を出して、洞窟の壁の突き出しているところに糸を絡めて自分自身を引っ張った。


シュパッ

何とか致命傷は避けられたものの、反応が遅れた分かわしきれず、ふくらはぎに斬撃を掠めた。

糸で引っ張った勢いで、壁に衝突し崩れおちる。


何度も壁に激突して、腕や足に傷を負っている。

もう今までみたいに斬撃をかわし続けることはできないだろう。

それでも姫乃先輩はすぐに立ち上がった。

そして、傷を負った右足を引き摺りながら蝶に向かっていく。


蝶は強風を放った。

姫乃先輩には強風を防ぐ手立てがない。

そのまま強風に飲まれて、後方に飛ばされる。


「ぐはっ」

後方の壁に激突して胃液を吐いた。

そのまま、落下して地面に落ちた。


「姫乃先輩!」

僕には叫ぶことしかできない。


しかし、姫乃先輩はすぐさま起き上がり、蝶に向かっていく。

「・・・・・・るんだ」


「えっ?」

蝶に向かっていく姫乃先輩が何か言った。

しかし、僕にはよく聞きとれなかった。


「勇くんが動けるようになるまで守るんだ」

今度ははっきりと聞こえた。

意識が朦朧としているのかもしれない。

それでも僕を守るために前に進む。


「姫乃先輩!」

僕はもう一度叫んだ。

今の姫乃先輩には聞こえていないのかもしれない。


早く動けるようにならないと。

僕は月刀を持つ手に力を入れた。

握力は大分戻ってきている。

次に足に力を入れた。

まだ足は痺れたままで思うように動かない。

立てればいい。立つんだ。立て立て立て立て。

手を地について何とか立ちあがろうともがく。


そうこうしているうちに、蝶が再び斬撃を放った。

姫乃先輩は糸で壁を作るが、全ての斬撃は防ぐことはできない。

辛うじて致命傷は避けているものの、至る所に傷が増えていく。


早く立たないと。

僕は月刀を地面に突き刺して、何とか立ちあがった。

月刀を地面から引き抜いて、自分の足だけで立つとまだうまく力が入らずによろけた。

それでも何とか転ばずに耐えて、月刀を構える。

斬る必要は無い。

月刀を前に突き出して、突きの態勢を取った。


月刀に力を流す。すぐに月刀は青白い光を纏う。

まだだ。とさらに力を流し込む。

月刀の纏う光が薄緑に変化した。

そうしているうちにも姫乃先輩の傷口は増えていく。


僕は急いで腹に蓄えていた力を足に送る。

蹴るだけでいい。足よ動いてくれ。

月刀の先を蝶に向ける。羽根だとまた修復されてしまう。

本体だ。本体を狙わなければ意味がない。

もう僕たちにこれ以上戦い続ける力は残っていないのだから。


僕が狙いを定めて飛神を発動しようとした時、蝶は僕の動きに気がついた。

反撃する余力のない姫乃先輩を後回しにして、僕の方を向く。


僕は頼りない足腰に力を入れて発生する。

「飛神」


それと同時に蝶は斬撃を放った。

しかし、もう止まれない。斬撃ごと貫くしかない。

僕は腹を決めて、足を蹴った。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇ」

僕は光のように一直線に飛び、斬撃を突き抜け、蝶の本体ど真ん中に風穴を開けた。

今までは飛神を使うと、いつの間にか相手の後方に移動していた。

しかし、今は朧げではあるが、確かに感じた。

自分が光になったかのように飛んだことを。


蝶を突き抜けた僕は、落下しながら横目に蝶を見た。

風穴の開いた蝶は、そのまま消滅して集約していたエネルギーが分散するのが見えた。

蝶を倒した事よりも、光のように飛んだことに興奮を覚えながら地面に落ちた。

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