101、おタマさん
ハッと気づくと僕の目の前には村の入口がある。
見た事がある村だ。
そうだここはコミト村だ。
今まで安倍晴明と戦っていたのに、結界に閉じ込められていたはずなのに。。。
リムが助けてくれたのか。。。
と考えていると、、、
「リムちゃん!!」
と姫乃先輩の慌てた声がした。
声の方を向くと、横たわるリムに姫乃先輩が声をかけている。
僕も慌ててリムのところに行く。
「リム!大丈夫か!?」
リムからの返事はなく、リムの目は閉じたままだ。
よくリムを見ると、全身が薄くなっている。
横たわっているリムが薄くなっているため、下の地面が見えていた。
「リムちゃん。無理をして私たちを逃がしてくれたのね」
と姫乃先輩は言う。
おそらくは魔力がほとんどない状態で、魔力を使用してしまったためだろう。
それに3人を長距離ワープさせるなんて、魔力量もかなり大きかったはずだ。
リムはこれ以上使うと存在が消えてしまうみたいなことを言っていた。
僕たちのために。。。
そう思いリムを見た。
リムは静かに横になっていた。
「とりあえず宿のベッドに寝かせましょう」
と言って、僕はリムを持ち上げた。
「軽い。。。」
持ち上げたリムは異常なほどに軽かった。
リム。。。
僕は涙を堪えて、宿に向かって歩きだした。
どうすればリムを助ける事ができるのか見当もつかなかった。
僕たちは宿行って、リムをベッドに寝かせた。
リムはピクリとも動かない。
こうしていれば回復するのだろうか。
それともこのまま消えてしまう事もあるのだろうか。
僕にはわからなかった。
「どうすれば。。。」
僕がボソッと言うと、
「ダメかもしれないけれど、食堂に行ってみましょう」
と姫乃先輩は言った。
「食堂、、、そうか!酔っ払い!」
この村にこの前来た時には食堂に酔っ払いの女性がいた。
酔っ払いがどれだけ力になってくれるかはわからないが、他に頼れる人がいない。
それに酔っ払いは一度だけ力を貸してくれるとも言っていた。
行ってみる価値はある。
「食堂に行ってみましょう」
と僕は言って、リムを1人にしてしまう事は不安だったが、2人で食堂に向かった。
食堂に到着して、中に入る。
中は酒瓶が散らばっていて、この前来た時よりも荒れている様子だった。
しかし、人のいる気配は無かった。
「いませんね」
「もう何処かに言ってしまったみたいね」
と僕たちは愕然として、食堂を出た。
どうすればリムを助ける事ができるのか、その事ばかりを考えながら、宿に向かっていた。
その時、
「ありゃあ。人がおりんす。珍しい事もありんすね」
と後ろから声が聞こえた。
振り向くと、着物を着た美女が立っていた。
「こんなところで何をしているんでありんすか?」
美女は問いかけてくる。
僕たちは警戒した。
誰もいなかったはずなのにいきなり後ろに人が現れたように感じた。
それに村の人は安倍晴明に食べられてしまったはずだ。
この人はどこからきたのだろう。
「そんなに警戒せんでも、取って食ったりはいたしんせん」
と美女は怪しい笑みを浮かべる。
そんな笑みも吸い込まれそうなほどに美しかった。
「友達が倒れてしまって動けなくなってしまって、どうしたらいいのかわからないので、助けてくれる人を探していました」
「それは大変でありんすね。よければわっちが見てやりんしょう」
と美女は言った。
「お姉さんのお名前は?」
「わっちでっか?そうでありんすねぇ。おタマとでも呼んでくれればようござんす」
「おタマさんですか」
とても怪しい雰囲気の女性だ。
リムのところに連れて行っていいものか判断できない。
しかし、他に頼れる人がいない事も事実だ。
僕は姫乃先輩を見た。
すると、姫乃先輩も覚悟を決めたとでも言うように頷いた。
「おタマさん。ご好意ありがとうございます。ではお願いしてもいいですか?」
「ようござりんす。お友達のところに連れていっておくんなんし」
と再び怪しい笑みを浮かべた。
宿へ到着し、おタマさんと一緒にリムのところに行った。
「これは、、、」
おタマさんは一瞬驚いた様子を見せた。
「お友達は精霊でありんしたか。」
とおタマさんはリムが精霊である事を即座に理解していた。
「精霊の力を使いすぎたみたいでありんすね」
「精霊の力は精霊からでないと、分け与える事はできんせん。それも相性もありんすので、どんな精霊でもいいわけでもありんせん」
「精霊って簡単に見つかるものですか?」
「奇跡でも起きないと無理でありんすね」
とバッサリ否定された。
「他には方法はないですか?」
「そうでありんすね。精霊の力が込められた精霊石があれば、それから精霊の力を補給できるでありんす」
精霊石。。。
リムもそんな事を言っていたかもしれない。
でも簡単に見つかる物ではないとも言っていた。
「精霊石ってどこにあるかご存知ですか?」
「わっちは知りんせん」
「そうですか。。。」
と落胆する。
「でも探す事はできるかもしれないでありんす」
「えっ?」
「少し待っておくんなし」
と言うと、おタマさんは右手を上に上げた。
右手から力が広がっていっているのを感じる。
いつの間にかおタマさんに尻尾が生えていた。
普段は隠しているのだろうか。
5分ほどそうしていると、おタマさんから発せられていた力が途絶えた。
「わかったでありんす。おまいさん達は運がいいでありんすね」
「どういう事ですか?」
「わっちが探してみたところ、この村から東に行ったところの洞窟に精霊石が眠っているようでありんす」
「それじゃあ」
「そうでありんす。その洞窟こら精霊石を取ってきて、この娘に与えれば、回復する可能性が高いでありんす」
どん詰まり立った中に希望の光が見えた。
僕と姫乃先輩の目に希望の光が宿った。
「おタマさん。ありがとうございます」
とお礼を言うと、
「いいでありんすよ。わっちは気分屋でありんすから、今回助けたのもわっちの気まぐれでありんす。気にする事はありんせん。次に会った時には取って食ってしまうかもしれんせん」
とおタマさんは怪しく笑った。
「えっ?」
僕はゾクっとして聞き直すと、
「冗談でありんす。お友達が助かるといいでありんすね」
と言った。
「はい。それじゃあ早速行ってきます」
と言うと、
「待ちんなし」
とおタマさんから待ったが入った。
「ここから洞窟に向かうと、数日はかかるでありんす。戻ってくるのにも数日。おそらくこの娘はもたないでありんす」
「それじゃあ。。。」
産まれた希望が一瞬で絶望に変わった。
せっかく方法が見つかったのに時間が足りないなんて。。。
僕と姫乃先輩が沈黙していると、
「さぁびすと言うやつでありんす。わっちが洞窟まで送ってやりんす」
と言って、右手を挙げた。
「えっ?」
驚いている間に僕と姫乃先輩、リムの体が光出した。
リムが安倍晴明から逃がしてくれた時の光に似ている。
おタマさんを見ると、いつの間にか尻尾が2本になっていた。
不思議に思いながらおタマさんの顔を見ると、おタマさんと目があって、おタマさんは艶やかな笑みを見せた。
次の瞬間に目の前が真っ暗になり、気がつくと僕たちは見たことがない洞窟の前にいた。




