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第2話…とりあえず魔王城に突入してみようか

 「ヒギィィィーッ!」


 勇者パーティーの一人、女忍者(くのいち)アキカゼの絶叫が響いた。


 魔王軍大幹部・触手悪魔(テンタクルスデーモン)の触手が女忍者(くのいち)アキカゼの全身に絡み付き。

 触手から分泌する感覚器官を狂わせる猛毒が含まれた粘液に全身を犯された女忍者(くのいち)アキカゼは悲鳴を上げ痙攣する。


 「魔法矢(マジックアロー)!!」

 

 大賢者イムの攻撃魔法が触手数本を破壊し宙吊りになっていたアキカゼが地面に落ち…


 「エメリはアキカゼの治療を!!」


 触手攻撃を聖剣で捌きながら勇者ルキウスが前に出…


 「大治癒(グレーターヒール)!!」


 聖女エメリはアキカゼに治癒魔法をかけるが…


 「そんな治癒魔法が効かない?!」


 アキカゼは「あへ~」と譫言のような声を上げたまま起き上がる事すら出来ないようだった。


 勇者が一人で前衛に出て剣を振るっている。

 もはや女忍者(くのいち)アキカゼは戦えず。

 もう姫騎士シルヴァンも戦士プギアも居ない。


 勇者と肩を並べて前衛で戦える者は誰もいない。

 

 聖女エメリは鎚矛(メイス)小盾(スモールシールド)を握り締める。

 聖女エメリの武器を使った戦いの技量は決して高くない。

 治癒魔法の使い手である聖女エメリの役割は後衛として魔法で前衛を支援する事であり、武器での戦闘は後衛が奇襲を受けた場合に緊急避難できる程度で良かったからだ。


 「止めろ!そなたの腕前では!!」


 大賢者イムの制止を振り切り聖女エメリは武器を手に駆け出した。


 ==========


 それは大きな(おとこ)であった。

 身長は2メートルを軽く越え、その身体は分厚い筋肉に覆われていた。

 しかし、その(おとこ)の大きさは物理的な物では無かった。

 それは存在の大きさであった。


 頭部には2本の角、赤銅色の鍛え上げられた肉体を持つ偉丈夫。

 肉体的強さだけではなく、魔界最強の闇魔法の使い手でもある。

 魔界最強の(おとこ)


 すなわち魔王。


 「猪鬼王(オークロード)に続き、触手悪魔(テンタクルスデーモン)も倒れたか…」


 魔王ダエーワは魔王城に飾られた大きな肖像画を眺めながら配下からの報告を聞いた。


 「触手悪魔(テンタクルスデーモン)殿が守っていた祠には忌々しい神々が残した闇魔法封じの宝珠が封印されておりました。

 おそらく勇者は宝珠を手に入れた事でしょう」


 魔王軍大幹部・夢魔女王(サキュバスクィーン)が報告を続ける。

 

 夢魔(サキュバス)の名に相応しい美貌に豊かな胸を持ち。

 胸の頂点と鼠径部を申し訳程度に覆った扇情的な鎧。

 そのような姿の夢魔女王(サキュバスクィーン)に一瞥もくれず魔王は肖像画から目を離さない。


 「私は部下を率いて勇者の討伐に向かいます」


 「任せる」


 夢魔女王(サキュバスクィーン)が去った後も魔王ダエーワは長い間、肖像画を眺めていた。

 それは赤ん坊を抱いた、青い肌に羊の物に似た角を側頭部に持つ美女の肖像画。


 「人間共よ…我は汝らを決して許しはせぬ…」


 魔王の身体からドス黒い怒りのオーラが吹き上がった。


 =========


 早朝。


 「アンギャー!!」


 集合住宅の外から何かの鳴き声が響く。

 

 何時ものように商会の護衛に出勤しようと準備していた戦士プギアの家の扉を誰かが叩いた。


 「どちら様で?」


 扉の外に立っていたのは人間でも入りそうな大きな袋を抱えた銀髪で狐耳を持つ獣人ライカンの美少女。


 「竜急行運輸(ドラゴンエクスプレス)で~す!戦士プギアさんで間違いないですね~?お荷物のお届けで~す!」


 狐系獣人(ライカン)の美少女は6本の尻尾を揺らしながら大きな袋を戦士プギアに差し出す。


 「届け物?」


 書かれている差出人の名前を見ると聖女エメリ。

 戦士プギアは、どういう事かと首を捻る。


 「受け取りのサインをお願いしま~す」


 「はあ…」


 サインをすると狐系獣人(ライカン)は一礼して帰ろうとした。


 「ちょっと待ってくれ」


 「はい?何ですか?」


 仕事は果たしたという表情の獣人(ライカン)に戦士プギアは問う。


 「聖女エメリからって…まさか荷物を魔界から運んできたのか?」


 「はい、それが何か?」


 小首を傾げる獣人ライカン

 そして戦士プギアは先ほどから奇妙な鳴き声を上げている存在に、ようやく気づいた。

 それは黒い鱗を持つ(ドラゴン)

 黒竜が鞍を背負っている事から、狐系獣人(ライカン)の言う竜急行運輸(ドラゴンエクスプレス)なる社名は、本当に(ドラゴン)で荷物を運搬する会社らしい。


 「お前に依頼すれば勇者も簡単に魔界に行けたのかよ…」


 「それは出来ませんよ」


 狐系獣人(ライカン)竜急行運輸(ドラゴンエクスプレス)とやらの規約を説明する。


 「荷物は人から人に届けますので、行きたい場所に御家族や御友人が居なければ届けられませんし、武器や危険物は規則で運ぶ事は出来ませんので」


 つまりだ。

 魔界に知り合いが居なければ運べないし、仮に運べても武装なしの丸腰で魔界に到着する事になるという事。

 

 もちろん敵地である魔界に知り合いなど居るわけもないし、敵地に丸腰で行っても命を落とすだけだろう。


 「私たち竜急行運輸(ドラゴンエクスプレス)は、あらゆる戦争に介入しませんし、戦争の手助けもしませんので」


 どうやら中立を標榜する組織であるらしい。

 そして国家や種族が竜急行運輸(ドラゴンエクスプレス)を支配下に置こうとしても、(ドラゴン)という強力無比の魔獣を操る組織が相手では簡単には行かないだろう。


 「ご利用の際は、こちらでご連絡下さい」


 戦士プギアが自社に興味があると思ったらしい狐系獣人(ライカン)は、連絡用らしい角笛を渡して(ドラゴン)に跨がる。


 「行くよノートゥング」


 「アンギャー!」


 そして空へと飛び立って行った。


 「聖女の野郎…どこで、あんな組織の事を知ったんだ?」


 戦士プギアは疑問を小さく呟き、聖女から送られてきた袋を確認する。

 

 袋の中身は…


 「あへ~」


 「女忍者(くのいち)アキカゼ?!」


 かつての仲間であった。

 さらに聖女からの手紙が同封されており『アキカゼが敵の毒に犯されました、王都の施療院に連れて行ってあげて下さい』との事。


 「こんな時だけ頼るな聖女ー!ぬいぐるみを抱かないと寝れないくせにー!」


 戦士プギアの怒声が早朝の集合住宅に響き、後に妻のリラが各家庭に謝罪して回るはめになったのだった。


 ==========


 それは長い道のりであった。


 故郷の村を出てから何人もの仲間と出会い、そして何人もの仲間が倒れていった。


 小鬼(ゴブリン)の群れとの戦いで散った戦士ナルド。

 迷宮(ダンジョン)の罠で負傷しパーティーを抜けた盗賊レーク。

 幼い少年への淫行で官権に逮捕された僧侶ロッシーニ。

 魔王軍幹部・狼鬼長(コボルドチーフ)との戦いで亡くなった騎士ガルドラ。

 腐ったジャガイモを食べて食中毒で命を落とした鉱妖精(ドワーフ)の重戦士ダン。

 魔王軍大幹部・猪鬼王(オークロード)との戦いで再起不能になった森妖精(エルフ)の姫騎士シルヴァン。

 魔王軍大幹部・触手悪魔(テンタクルスデーモン)の毒に犯され施療院に入院した女忍者(くのいち)アキカゼ。

 魔王軍大幹部・夢魔女王(サキュバスクィーン)に体液を絞り尽くされ廃人となった大賢者イム。


 他にも居たような気もするが…

 まあ、いいだろう。


 ともかく勇者ルキウスは長い長い旅の終着点に辿り着いた。

 勇者ルキウスは魔王城玉座の間に繋がる大扉に手をかける。

 もう彼と共に戦う仲間は、隣で震えながら鎚矛(メイス)小盾(スモールシールド)を構える聖女エメリしか居ない。


 たった2人の勇者パーティー。

 それでも戦うしかない。

 魔王を倒し人間界に平和をもたらすために!!


 「魔王ーっ!!」


 「来たか勇者よ…」


 「お前を倒して!全てに決着をつけてやる!!

 いくぞ!魔王!!」


 「来い!勇者!」


 人族最強の勇者、魔族最強の魔王。

 2人の英傑から圧倒的闘気が吹き上がる。


 気合いの声と共に聖剣を構えた勇者が魔王の待ち受ける玉座へと走る。

 そして聖女は、魔王の闇魔法を封じる宝珠を掲げた。


 宝珠より聖なる光が迸る。


 「勇者!これで魔王は闇魔法を使えません!」


 「闇魔法が無ければ僕の勝ちだ!!」


 魔界最強の闇魔法の使い手である魔王。

 その闇魔法を封じれば魔王の力は半減する。

 それは間違っていない。

 

 しかし…


 魔王は武器も持たず、ただ両拳をキツく握りしめた。


 「闇魔法を封じれば我に勝てる?

 舐める勇者よ!!」


 鍛冶神が鍛え上げ、魔を打ち払う力を与えられたという伝説の聖剣。


 ガキッン!!


 まるで金属同士がぶつかるような音が響く。

 聖剣と正面から打ち合い拮抗したのは魔王の右拳であった。


 「バカなっ?!聖剣と互角だと?!」


 「温いぞ勇者よ!!

 我の人族への怒りは!怨みは!その程度の力では打ち砕けぬと知れ!!」


 魔王の左拳が勇者を殴り飛ばした。


 ========


 何十合、打ち合ったのか?

 何時間、戦ったのか?


 勇者と魔王の戦いは続いていた。


 「強すぎます…」


 聖女エメリは魔法を使う魔力を使いきっていた。

 治癒魔法と補助魔法の支援があってすら勇者ルキウスは魔王ダエーワを倒しきれていない。


 いや支援魔法が無ければ、とっくに勇者は倒されていただろう。

 そして、その支援魔法も尽きた。


 聖女エメリは鎚矛(メイス)を強く握りしめる。

 聖女エメリは自分の技量を理解していた。

 並みの戦士にも劣る程度の技量。

 そんな自分が魔王と武器で戦えばどうなるか?

 一撃で絶命する事になるだろう。


 それでも…


 「このままでは勇者は…」


 確実に負ける。


 「私が一瞬でも隙を作れたなら…」


 自分が殺される一瞬。

 その隙に勇者が魔王を倒せるなら…


 もう、それに賭けるしか無かった。


 聖女エメリが決死の覚悟で突撃しようとした瞬間だった。


 その声が響いた。


 「竜急行運輸(ドラゴンエクスプレス)で~す!聖女エメリさんですね~?お荷物受け取りのサインをお願いしま~す!」

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