第8話 最大のご褒美は……
佳純に限らず受身の女性は少なくない。
男性にペースを握らせたいタイプだ。
一見すると扱いが楽そう。
しかし真逆だと思っている。
主張が少ないからだ。
思っていることの一割か二割しか言葉にしてくれなかったら、表情や仕草から気持ちを読み取るという独特のテクニックが要求されてしまう。
一番楽なのは初姫のような女の子。
感情表現がストレートで表裏がない。
どうしてほしいかガンガン要求してくる。
それはそれでエネルギーを消費するのだが……。
腕の見せどころだな、と愛理は思う。
複雑なパズルを一個一個バラしていくように佳純の性癖を暴いていく。
「佳純さん、色っぽいですよ」
「嘘だよ……私なんて色気の欠片もないよ……」
佳純は顔の半分を隠してしまう。
言葉よりも効果的なメッセージがある。
女性の体を愛してあげるのだ。
首筋でも手首でもいい。
触れるだけで『あなたのことが好きです』というメッセージに早変わりする。
普通の女性ならそう解釈する。
手を恋人つなぎしてみた。
メタバース空間なので体温はニセモノ。
でも胸の高鳴りは紛うことなき本物である。
佳純の手のひらが熱くなる。
体の準備が完了している証拠だ。
「本当に愛理くんと……やるんだね」
「これから佳純さんのVR処女をもらいます。リアル処女は大切な日まで取っておいてください」
「はい……分かりました……お願いします……」
すっかり従順になっている。
不覚にも愛らしいと思ってしまう。
ダメだ。
愛理は国家プロジェクトでやっている。
楽しむなんて言語道断だろう。
追求すべきはクオリティの高さ。
相手を幸せにすることに集中する。
性交委員に共通する素質があるとしたら……。
百パーセント相手のために尽くせる人。
その一点だけ。
「ねえ、愛理くんって……」
「どうしました?」
「性交委員をやっていて……その……行為を楽しむこともあるのかな」
「なぜ気になるのですか?」
「それは……」
佳純が体をよじる。
「私だけ恩恵を受けるのは申し訳ないなって。私が愛理くんに与えられるものは何一つないのかなって。ごめん……ちょっと傲慢だよね……」
「いえ」
切なそうな顔に触れてみる。
「ぜひ二回目も申し込んでください」
「二回目?」
「二週目です。女子全員とやったら二回目を募集します。また二人きりになりたいです。というか、佳純さんが申し込んでくれなかったら泣きます」
「そういう言い方をされると嬉しいな」
佳純がくしゃっと笑う。
「私ね、今日という日は一生忘れないと思う。結婚して子供ができても、一生忘れないと思う。だから感謝しています」
そのセリフは最大のご褒美だった。