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第1話 今日のショーツは何色?

 父の名を村中むらなか童貞どうていという。

 もちろんペンネームである。


 キャリア二十五年の官能作家なのだ。

 実家の本棚には父の生み出してきた珠玉の作品が並んでいる。


『童貞先生! この前の作品良かったです!』


『ぜひ童貞先生の小説をうちの出版社でも……』


『これ、童貞先生宛のファンレターです』


『童貞先生は官能界の至宝ですね!』


 童貞、童貞、童貞……。

 自分ほど童貞という言葉を見聞きしている十七歳はいないだろう。


『人妻のマエストロ』という顔から火が出るレベルの二つ名を持つ父であるが、いつもは善良な市民であることを記しておく。


 風が吹いている。

 帝明ていめい高校の芝生広場である。


 昼休み。

 もっとも眠い時間帯だ。

 生徒たちの笑い声をBGMにうつらうつらしている。


 足音が一つ近づいてきた。


 女子だな、と思う。

 芝生を踏みしめる音で個人を特定できたりする。


 体重は51.9kg。

 スリーサイズはB90・W58・H83。

 つまり日和ひわ撫子なでしこその人である。


 愛理あいりの視界が暗くなった。

 ちょうど撫子のスカートの中を仰ぎ見る角度となっている。


 あ、ピンク色だ、と思う。

 撫子のショーツは曜日によって色が決まっており、


 月曜日 ⇨ 薄いイエロー

 火曜日 ⇨ ピンク色

 水曜日 ⇨ 淡いブルー

 木曜日 ⇨ モスグリーン

 金曜日 ⇨ ベージュ色

 土曜日 ⇨ 黒系統

 日曜日 ⇨ 白系統


 とローテーションするから曜日を確認するのに重宝している。

 よって本日は火曜日だ。


「やけに可愛い子がいると思ったら撫子ちゃんかよ」

「お邪魔だったかしら」

「まさか」


 風が吹く。

 撫子のスカートと黒髪がふわふわと遊ぶ。


「愛理くんの進捗率は?」

「五十七パーセントだよ。……ていうか撫子ちゃんのホーム画面から確認できるでしょ」


 でっかい乳の向こうにあるアーモンド型の瞳が笑った。


「ここ二週間、苦戦しているわね」

「仕方ねえだろう」

「二人一組で政府から評価される」

「分かっているよ。俺が足を引っ張っているって話だろう」


 愛理は上体を起こした。


「でも撫子ちゃんはいいよな。相手が男子だからよ。入れ食い天国じゃねえか。あっという間に進捗率百パーセントまで持っていったし」


 後頭部に柔らかいものが触れる。

 もちろん撫子のおっぱいだ。


「愛理くん、やればできる男でしょう」

「そんなに政府からの報奨金が欲しいわけ?」

「違うわよ。他校に派遣された性交委員たちに負けたくないの。プライドの問題でしょう」

「ふむ……」


 うっかり『負けてもいいんじゃね?』と言い返そうものなら、おっぱい代を請求されそうなので適当に頷いておく。

 撫子ちゃんは負けず嫌いなのだ。


「じゃあさ、女子目線のアドバイスをくれよ。いや、本当、切実に、真剣に」

「がんばれ♪ がんばれ♪ 愛理くん♪」

「応援歌かよ」

「これじゃ不満?」

「やる気が欲しい。この三ヶ月で俺のメンタルは割とボコボコなんだわ。一生分の罵詈雑言を浴びせられている。歩くわいせつ物と思われている」

「ふ〜ん……」


 撫子の香水の匂いが遠くなった。

 愛理はくるりと反転する。


「もし愛理くんが進捗率百パーセントを達成できたら私のリアル処女をあげるわよ。この条件ならどう? 残り九ヶ月を耐えられそう?」


 撫子は手でハートマークを作ると子宮の位置にピタリと当てた。


「リアル処女は結婚したい男にあげるんじゃ……えっ⁉︎ 俺のお嫁さんになってくれるの⁉︎」

「その時まで愛理くんが私のことを好きだったらね」


 撫子ちゃんは魔性なんだよな〜。

 だからこそ性交委員に選出されたのだが……。


「約束だからな。俺の人生プランに撫子ちゃんとのハネムーンを追加したから」

「私って、愛理くんが思っているより愛理くんのことが好きよ」

「本当かよ」

「心ない冗談を言うわけない」

「へぇ〜」


 愛理は手を差し出した。

 すると撫子はスカートをつまんで優美なカーテシーを返してくる。


「撫子ちゃんマジ天使」

「どういたしまして」


 予鈴のチャイムが聞こえた時、向こうから男子生徒が全力疾走してきた。


「日和さん! 病欠によるキャンセルが一件出たって本当ですか⁉︎ だったら俺がVRセックスの指導を受けたいっす! まだ一回しかレクチャーしてもらっていません!」


 息をゼェゼェ荒らげて鼻を膨らませる。

 もちろん撫子は快くOKした。

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