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113 お前にエリゼ・グランデは相応しくない

フルーリエ視点



「私……その女が一番嫌がることをしに来たんですよぉ。

 フルーリエ・ミササギがエリゼなんとかを救い出してあげる」



 目の前の女は露骨に不機嫌を見せた。


 浮かべていた顎を引き、前髪の隙間から私を覗くようにして睨みつける。


 その瞳に光は宿っていない。

 完全なる殺意と潰れる程に重い愛情。



「あっそ、だったら死んでよ。

 わたしとエリゼちゃんの人生を邪魔するなら、死んじゃえ」



 苛立ちを隠せない女は、もはや先程までの彼女とは別人だ。


 エリゼなんとかを抱きしめたアヤイロは、少女と頬を合わせながら小さく言の葉を囁く。



「深愛結界『愛羅撫慧璃舌(あいらぶえりぜ)』」



 詠唱の刹那。


 世界が脈動し始める。


 瞬く間も無く視界は水色や桃色といったパステルカラーに染まった。


 奥行きも高さも強引にねじ曲げられて、空間が拡張していく。


 物理法則を無視して彩りは広がり続ける。


 そして、額縁に飾られた油絵がいくつも出現した。


 その全てに痛めつけられている少女が描かれている。



「……結界持ちですか」



 アヤイロが展開したそれは、結界に類する術式の中でも特殊なものだった。


 腕の良い魔術師なら誰でも使うことのできる人払いや守護用の汎用結界とは異なるもので、その個人にだけ使用が許された特異能力と称してもいい。



「仮想魔杖展開。

 標的をフルーリエ・ミササギに固定。

 術式は魔導図書館を参照。

 別時間軸の詠唱拝借を許可。

 魔力導線は……わたしとエリゼちゃん。

 あはっ! 殺してあげる、殺してあげる!!

 わたしとエリゼちゃんの魔力を混ぜ合わせた術式で殺してあげる!!」



 魔力で構成された可愛らしいデザインの杖が、私を取り囲むようにして何十本も召喚された。


 各々の先端部分に魔力が集中し始め、多種多様の術式を放つ準備が整えられていく。


 自ら手を下さずとも、自動的に対象を攻撃してくれる杖の下僕という訳ですか。


 この結界、些か強過ぎる。


 だけど、こんな強力な術式なら何らかの制約が課せられているはず。

 ……そうであってくれますように。


 少しの不安を感じながら、私は腰の左右に携えた剣の柄を握り込んだ。


 そして。


 二(ふり)を抜刀する。


 ナルルカ先輩から受け継いだ『天嚙(あまが)み』を右手に、『()()け』を左手に。


 幾ばくもの杖に囲まれながら、私は詠唱を開始した。



「太空を這う誉よ。祈る者に天恵を、俯く者に無償の愛を。疾れ、奏電雷光(そうでんらいこう)



 紫電が全身を覆う。


 外で披露したそれとは比べ物にならない程の魔力を消費して、稲妻を起こす。


 それは、速さだけを追求した究極の加速術式。


 騎士団に代々伝わる別に秘伝でもないありきたりな魔術。


 ただ速度を上げるだけ。

 たったそれだけで私は無類の剣士になれる。


 先輩方から教わった歴史の積み重ねをこの身に感じながら、改めて言おう。



「じゃ、あざとさ勝負始めましょうかぁ。死んだ方が負けってことで」



 発言と同時に、私を囲む杖の群れが魔術を解き放った。


 火炎放射のような分かりやすいものから、次元を屈折させる高度なものまで、あらゆる術式が襲いかかる。


 私はただ力強く踏み込み、思い切り跳躍した。


 結局、想像を絶する程の魔術が放たれたとしても、当たらなければ問題は無い。


 自動で放たれる数多の術式よりも早く動き、瞬時にアヤイロとの距離を詰めた。


 そして、右手に構えている『天嚙(あまが)み』をアヤイロの腹目掛けて薙ぎ払う。


 だけど、横一直線の剣撃は華麗にかわされてしまった。


 結界の効力が身体強化に繋がっているんだろう。


 だったら、当たるまで攻撃を連打すれば良い。


 剣撃の勢いをそのまま利用し、体を回転させながら脚を振り上げた。


 体勢を崩したアヤイロに追い討ちをかけるよう、こめかみを狙って。

 超速の蹴りを入れかけた所で……。


 魔の化身と呼べるこいつは、脚の軌道上に人質であるエリゼなんとかを仕掛けて盾代わりに利用した。


 既の所で勢い良く蹴り上げた脚を急停止させる。


 非情で合理的思考の狂人を相手にするのは、本当にやりにくい。



「危ないなあ、騎士が罪無き少女に傷を負わせちゃったら大問題だよ」


「そう思うならさっさとその女を返してくれませんかぁ。

 それに想い人を盾にするなんて、愛が足りてない……ああ、あなたそういう人でしたね。

 好きな女の辛い顔が何より大好物な生粋のサディスト」



 時間稼ぎはこれぐらいで十分かな。


 後方から超速で押し寄せる術式の大群はこぞって私を狙っている。

 それらを極限まで誘き寄せ、アヤイロの脇をすり抜けるように走った。


 半ば突っ込むような形でその場を離脱した私の後ろで、炸裂音が響いた。


 振り返ると、たった一瞬前まで立っていた空間が有象無象の魔術によって焼き払われているのが見える。


 やがて、魔術によって生じた爆炎や時空の歪みが解消される。


 そして、そこには先程と変わらぬ姿で立っているアヤイロ・エレジーショートがいた。


 流石に自分で自分の術に引っ掛かるなんてヘマはしませんか……。


 絶え間無く次々と襲い来る杖の自動攻撃を避けるように走り、次の手を考える。



 これ以上渋るのは良くないか。


 あんまり手札は見せたくなかったんですけど。



 左手で強く握り締められた『()()け』の刀身に軽く唇を当てた。


 たったそれだけの行為で、この欲しがりな剣の力を最大限引き出すことができる。


 空間に浮かぶ数多の杖が放つ術式を、薄ら光を放ち始めた剣で斬る。


 走り続けながら、何度も何度も斬り伏せていく。


 そして、斬撃を受けた術式は主人であるアヤイロへと一直線に猛進した。


 重力を歪ませる魔術、目眩と吐き気を起こす魔術、鋭い風刃の魔術、それらが一斉に歯向かう。


 それでもなお、彼女は立っている。


 連続の爆撃を受けたにも関わらず、無傷を誇っている悪女は気怠げに呟く。



「その剣、うざいんだけど」



 キスを受けた『()()け』に斬られたものは、その身が朽ち果てるまで従属させられる。


 例え、魔術であったとしても。


 ただ、その能力も今だけは無意味な様子。


 この女、自分は被害を受けないように術式の中に安全装置を組んでいるらしい。



 魔術師としての腕は別格みたいですね。



 接近戦に持ち込めばエリゼを盾にして攻撃を阻まられる。


 その間に空間を浮遊する幾百もの杖に魔術で狙撃されるため、アヤイロから強制的に離されてしまう。


 そしてまた接近する。


 その繰り返しだった。


 ただ、それでも着々と私の勝利へ近づいているはずだ。


 これだけバカスカ魔術を放っていれば、結界を維持できる分の魔力が切れるのも時間の問題。


 消極的な解決法だけど、人命を思うならこれが最善策でもあるか。



「後二ヶ月は結界を維持できるよ。わたしとエリゼちゃんの力を舐めないで欲しいな」



 心の考察がお得意な女は、私に戦略の失敗を言い渡した。


 ……魔力お化けめ。



「重たそうなネックレスが外れないのは、薬による調教の成果ですかぁ?」



 どれだけ派手な動きをしてもアヤイロから離れないエリゼ……。

 その顔は意識が定かで無い様子で催眠状態とも取れる。


 そんな彼女を良いように扱えるのは、アヤイロという女がエリゼなんとかの心を完全に掌握しているからだろう。


 さっさと目を覚まして自ら離れて欲しいんですけどね。



「薬じゃなくて、絶望に耐えたご褒美だよ。

 怯え苦しむ顔を見せてもらう代わりにわたしがしてあげられるのは、甘い『お菓子』をあげるぐらいだから」



 狂人の思考回路は読めないし理解する気もない。


 人質を救うことだけに集中しろ。


 ……。


 でも、体内を巡回する血液は今にも沸騰しそうで冷静を抱いてくれそうにはない。


 結界が召喚した杖とは別に自前の杖で術式を展開するアヤイロに対して、剣撃と肉体による打撃を織り交ぜた攻撃を繰り返す。



「それにしても……エリゼちゃんと戦い方が似てるんだね」


「はぁ? 誰と誰が似てるですって?」


「エリゼちゃんとあなたがだよ、騎士様」


「気色悪いこと言わないでもらえますかぁ?

 手が滑って、殺しちゃうかもしれんからぁ!!」



 二刀を連続で斬りつけるが、その切っ先が相手に届くことはなかった。


 剣の行く末には必ずエリゼを置き、それを徹底している。


 これでは無力も同然だな。



「そっか、憧れてる人がおんなじなんだ。

 だから、あなたも聖騎士ミュエルの真似事をしている。

 技術が足りない部分を力で無理矢理補って、それが様になってるのもエリゼちゃんと似てるかもね。

 ……あの腑抜けのどこに惹かれるんだか」



 心底馬鹿にするように口調でそう言った。



「へぇ、先輩の強さを知らないんですねぇ。

 ……何も知らない癖に先輩を侮辱するなよ、下衆が」



 私はこれから全力でこいつを殺す。

 極限まで殺す。


 魔力切れを狙うのはもうやめだ。


 全部力で解決してやる。


 再度攻撃を繰り返して、相手の隙を探り始める。


 何度目かの斬撃を足元に放つと、アヤイロはその軌道上へ向けエリゼを地面スレスレまで降ろした。


 次の一発で終わらせてあげる。



「あなたの計算ミスを指摘するなら、騎士団の能力とネジのぶっ飛び具合を見くびっていたこと。

 それと、私とエリゼなんとかの関係性を熟知していなかったことです」


「エリゼちゃんと、あなたの関係? 特に繋がりは感じられないけど?」



 心を読むのが得意な癖に、私が抱いている感情も理解できていなかったのか。


 それはきっと、騎士が秩序に生きる善人であると思い込んでいるから。


 違うんですよ。


 私は、もっと人間的な人間なのだから。



「私、その女が大嫌いなんですよぉ」


「何となくは分かってたけど、それが何? ……は? まさか、お前!?」



 アヤイロは、瞼を大きく開け慌てて盾にしていたエリゼを引っ込めようとするが、もう遅い。


 嫌いだから、その気になれば気兼ね無くぶっ飛ばせる。


 先輩の側に居られるんですから、これぐらい我慢してもらわないと釣り合いませんよ



「ごめんあそばせぇっ! 先輩たぶらかし女っ!!」



 謝罪と妬みを込めて朦朧少女の肩に踵を落とした。


 ぐしゃりと、骨の潰れる感触が直に伝わってくる。


 勢い良くアヤイロの首を離れて地べたに落ちたボロボロの少女を、躊躇せずに蹴り飛ばした。


 床を転がり抜けて大きな音が鳴る。


 最初からこうしておけば良かったんだ。

 躊躇わずに蹴り飛ばしていれば、もっと楽に事を運べていたはず。


 それにしても、痛めつけても罪悪感が湧いてこないのは随分と気持ちの良いものですね。



 ……ま、まぁ、少しだけ胸がちくりとしたような気もしますけど。


 ……ごめんなさい。



 少女がアヤイロから離脱したと同時に、パリンと、何かが割れる音がした。


 そに音が四方八方から聞こえてくる。


 パステルカラーの世界にひびが入り始め、数秒の後に視界を覆う彩りが砕け散った。


 景色は再び生活感の無いインテリアへと戻る。


 あぁ、そう言うことだったんですか。


 制約はあの女に触れていること、か。


 私を狙っていた杖の群れと同時に、アヤイロが手にしていた片腕サイズの可愛らしい杖も消え失せた。


 目の前の女は脅威も人質も持たない残りカスだ。



「もしかしてぇ、勝ちの目無くなっちゃいましたぁ?」


「ふふっ、あはははは!」


「別にウケ狙いのことは言ってないんですけど?

 もう十分でしょ、大人しくお縄についてください」



 紅潮した顔を両手で覆いながら、アヤイロは感情を爆発させた。



「わたし、とっくの昔に勝ってるんだよね。

 だって……エリゼちゃんもう太陽じゃなくなってるから。

 煌めきはすっかりくすんじゃって、明るさも錆びちゃった。

 だから、アヤイロ・エレジーショートの夢は既に成就してるんだよ。

 ここから先はボーナスステージなんだ。

 辿り着くのが二年は遅かったね、無能な騎士様」



 悪女は狂気に満ちた微笑みを憑依させお腹を抱える。


 楽しそうに涙まで流して、ケタケタと大きく笑う。


 ……。


 私に言わせる気か、こいつは。



「……あの女は、まだ太陽ですけどぉ?」


「は? なに言ってんの?

 馬鹿な女に怯える真っ暗なエリゼちゃんが眩しいわけないでしょ?」


「私に不快な言わせないでくださいよ。

 あの女は、その……ミュエル・ドットハグラの太陽ですよ。

 あー! キモいキモイキモい!!

 変なこと言わさんといてよ! 背中かゆなるわぁ!!」



 私の言葉を聞いたアヤイロは、何かを深く思考した後に再び狂気を垂れ流し始めた。



「あーそういうこと。

 そっか、そっちはそうなんだ。

 ふふ、ははっははははは!

 メイドにとっては太陽だとしても、エリゼちゃんの方はどうかな?

 後一押しで、きっと月じゃなくなるよ。

 理解と自覚さえ与えられれば、エリゼちゃんに見えていた太陽は消滅する。

 あなたもそうなんじゃないかな?

 今のミュエル・ドットハグラは、聖騎士ミュエルじゃない。

 ただの腑抜け、抜け殻、弱者。

 もうエリゼちゃんの夢じゃないんだよ。

 それと向き合ったとき、エリゼちゃんはもっと絶望するだろうなぁ。

 ねぇ、その歪んだ顔見るまでは見逃してくれないかなぁ」



 最初から最後までずっとこの調子だったな。


 エリゼ、エリゼ、エリゼ。


 とんでもない愛の熱量で、何をどう諭しても弾かれてしまう。



「お前、口論強すぎなんですよ。ムカつくから全部暴力でお返ししますね」



 ナルルカ先輩から受け継いだ右手の『天嚙(あまが)み』をアヤイロの太ももに突き刺す。


 人の脚を切断したんだから、これぐらいどうってことないですよね。



「いったぁっ……騎士が民に手を上げて良いと思ってるの?」


「騎士が民に刃を向けないって、本気で信じてるんですかぁ?

 私もお前も同じ人という獣。

 感情次第で同胞を殺せる愚かな種族。

 騎士を見上げすぎなんですよぉ、どいつもこいつも。

 本当はもっと暴力的で、野蛮な女が騎士を名乗れるんですから」


「あはっ、それはあの聖騎士ミュエルのことかな?

 今はもうどこにもいないその女を、お前はずっと追いかけてる。

 後ろを見てみろよ、その影を追ってるのはもうお前だけだぜ?

 あのエリゼちゃんですら、理想を諦めて現実を受け入れ始めてるんだから。

 あははははは!!」



 ……こいつを言い負かすのは至難の技だな。


 心を読む魔眼も持っていないのに、どうして人の弱点をこう狙い撃ちできるのか。



「とにかく、これで終わりです。

 遠くへ逃げられる前に捕らることができたのは幸いでした。

 どうでもう逃げられないんですから、無駄な抵抗は遠慮してくださいよ」



 アヤイロは、倉庫の天井を見上げながら感情を吐露する。


 ノスタルジーに浸るその姿は、まるでいたいけな少女だ。



「嬉しかったなぁ、エリゼちゃんと再会できて。

 どこ探しても見つからなかったから、ほんとに死んだと思ってたんだ。

 もう絶対に逃したくなかった。

 だからかな、ちょっと急ぎすぎちゃった。

 それとも、見つけてあげるのが遅すぎたのかもね。

 ……最後に会えて良かった」


「案外あっさり諦めるんですね。

 もう少し暴れられると思ってたんですけど」


「もう何もできないからね」



 アヤイロはそう言って、両腕を前に差し出す。


 腰のベルトに提げていた手錠を取り外して、アヤイロの手を取る。


 その瞬間だった。


 こちらに伸ばしたその腕から魔力が漂い始める。


 衣服の袖に隠されていた杖の先端が光り輝き、私を狙うように術式が展開され始めていた。



「ばーか。簡単につかま……はっ?

 あ、あああああああああああ!! いっつぅっ……!!」



 魔術が放たれるより先に、私は杖ごと腕を強く掴み捻りながら折り畳んだ。


 肘から手にかけてを、真っ二つに。


 手品のような罠にはもう二度と引っ掛かりませんよ。



「関節が増えた気分はどうですかぁ?」


「ちっ……お前もエリゼちゃんに似てお人好しだと思ったんだけど」


「お人好しとは真逆の人間ですよ、私は」



 対象者の魔力を封印する手錠を掛け無力化させる。


 予定よりも手こずってしまったな。


 早くエリゼなんとかを連れ出して治療しないと。



「……ねぇ、エリゼちゃんを寄越してくれないかな。

 わたし、いちごは最後まで残しておくタイプなんだ。

 だから……まだエリゼちゃんとキスをしていないの。

 ね、良いでしょ。最後の情けってやつでさ」



 はぁ……まったく。


 こういうのは先輩の役目なんじゃないですかぁ?


 どうして私がこの女の擁護をしなくてはいけないんだ。


 勘違いしている女に面と向かって告げてやる。



「お前にエリゼ・グランデは相応しくない」



 キョトンとした顔を晒したと思いきや、口角を持ち上げて大袈裟に笑い出した。



「あははっ!! どうとでも言えよ他人。

 わたしとエリゼちゃんの間には、二人にしか理解できない惑星級の愛があるんだから。

 ふん、別にどうでもいいや、キスぐらい。

 これから起こることに比べれば、そんなの全然大したことないから」



 先程吐いていた、エリゼなんとかが先輩に失望するみたいな話か。


 その言葉が強がりの妄言なのか、現実に起こるうるであろう予測なのかは分からない。


 けど、私は信じられない。

 先輩がこの先もずっと弱いままだなんて。



「……良く分かんないですけど、きっとあなたの想像通りにはならないと思いますよ。

 先輩が誰かを失望させるなんて、絶対にありえませんから」


「妄言だね。理想ばかりを追い求めてる愚者の言葉らしい。

 でもね、あのメイドがエリゼちゃんにとどめを刺すんだ。

 わたしがその役目を全うしたかったけど、もう彼女に任せるよ。

 憧れだった女に裏切られるなんて絶望、わたしには真似できないからね」


「本当に先輩を何も分かっていないんですね。

 あなたの言う通り今は腑抜けですけど、ミュエル・ドットハグラは必ずエリゼ・グランデを幸せに導くはずです」



 これ以上の無駄口は必要無い。


 独り言を続ける下衆を背に、私は歩き出す。


 床に転がっている満身創痍の少女の元に。


 体重をまるで感じないその体を両手でそっと抱える。


 視界に入るだけでムカついてしまう顔は、酷くうなされていた。


 太陽と魔性を混ぜた様な女。

 そんな魅惑な言葉を思い浮かべる。


 エリゼ・グランデ。


 お前は自覚してないんだろうな。

 良くも悪くも、人を狂わせてしまう魅力があることを。


 倉庫の出入り口を跨いで、光が差している外の世界へと踏み出した。


フルーリエは興奮すると訛りが出ちゃう子です。


ブクマや評価を入れてくれたり、いいねをくれる方々には感謝しかないです。

誤字脱字の報告も凄く助かっています。

ありがとうございます!

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