〜堕落〜
20××年、神奈川県横須賀市、吉倉町…
梅雨が明けたというのに土砂降りの雨の中、一人の初老の男が傘を肩にかけて地図を広げながら歩道を歩いている。
「汐入横須賀探偵事務所は…この交差点を曲がって…あそこか」
人影もあまりない細い道から続く坂を、男は一人駆け上がっていく。
この近辺に詳しい人であれば、この道を通る人の目的はただ一つ。
それは…
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「ったく…今日も雨かよ…」
俺はカーテンを開けるとまるで太陽そのものが宇宙から消え去ったかのような空が広がっていた。
「この天気じゃあ依頼は来ねぇだろうな…いや、元々ねぇか。あー光熱費すら払えねぇぞこのままじゃ」
この部屋には仕事兼ネットサーフィン用のパソコンと冷蔵庫に俺のベッド兼来客用のソファしかない。
今日も誰も来なそうだし酒飲みながらレースゲームでもやるか…
昼間から飲む酒は最高なんだよな!しかもここ地価安いくせにギリギリ海見えるから景色も悪くない!よっしゃそうと決まればマリ〇で飲酒運転するか!
こんな昼間からゲームしてる俺の名前は、知野 直也。依頼のこない探偵事務所の探偵兼所長だ。と言っても、この事務所には俺だけしかいない…元々は会社員になる予定だったんだけど実は…あ、やべそろそろレース始まる。はやくビール持ってこないと
そう思って冷蔵庫にダッシュしたときだった
Buuuuuuuuuuuuuu…
俺のスマートフォンが振動した。
「ん?珍しく電話だな…」
充電し忘れてバッテリー残り10%のスマートフォンを手に取る。
「もしもしこちら汐入横須賀探偵事務所です」
「あ、もしもし直也?あなたたまには電話よこしなさいよ!それに正月くらい帰ってきなさいなーお父さん心配してんのよー」
「…うっわ」
母親からだった
……話が長かったから適当なところでぶつ切りした。
めんどくさかった。
あぁ…でもなんか仕事しないでマリ○やってるのもおかしいよな。
でもなー仕事もこねぇしな…
依頼の一つでもきたら誠心誠意真心込めてお仕事させて頂くというのに…本当にそこらの事務所より俺やる気ありますよ?…多分。
Buuuuuuuuuuuu…
また、電話だ
こうやってね、やる気になった時って意外と神様はいいタイミングでチャンスをくれるものなんですよ。
どんなご依頼かな?
こんな雨の日だし浮気調査かな?
「もしもし、こちら汐入横須賀探偵事務所です!」
「あと言い忘れたけど家でとれたレタスあんたんとこに送っといたからね!」
……
「いらねーよババア!」
ぶつ切りした。
さすがに言い過ぎだったな…
二度とも依頼の電話かと思ってたのでちょっとイラっときてしまった。
「ちゃんと仕事しなきゃな…心配してくれている親にも申し訳ねぇしな…」
本当に申し訳ない。
そう思いながら冷蔵庫にダッシュする
仕事がねぇんだからしょーがないよなー
Buuuuuuuuuuuu…
また、電話だ。
今度はいったいどんなことを言い忘れたのだろうか。
「うるせぇないちいち!こっちは仕事してんだから何度も何度もかけてこられると迷惑なのくらい察しろババア!」
電話を切ろうとしたときだった
「あ、あのーすいません、どっちかというとジジイ…?ですけども依頼してもよろしいでしょうか…?」
「えっ:」
し、しまったぁあああああああああああああああああああああああ…!!!!!
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「あ、はい5時ですねー!空いてますよ、はい、それでは、あっ、ありがとうございますー!」
や、やったー!依頼だぁー!二週間ぶりの依頼だぁー!
俺は久しぶりの依頼に心躍らせる
機嫌も良くなってきたし説明しよう!汐入横須賀探偵事務所とは、コナ〇とか金田〇みたいな複雑なトリックを暴いて真犯人をみつける…!
なんて大それたことはせず、浮気、不倫疑惑がある当人の身辺調査から親族の素行調査、行方不明人の行方調査などなど…
まぁ、大して他の探偵事務所と仕事内容は変わらない。
だからだろうか、大して他と差別化もしていない上に人口流出の止まらない地方都市の山の上にある限界集落のさらに奥にある探偵事務所なんてよっぽど人はよりつかない…!
不動産屋に騙されたんだ…!地価が馬鹿安いくせに市内の中心部にも歩いて行ける距離なんて…!誰でも買っちまうよ…!確認しとかなかったのが馬鹿だった…!
しかも歩いていける距離だって…!大嘘…!圧倒的大嘘…!なんと最寄駅から徒歩30分…!
伊能忠敬くらいしか歩いて行けねぇよ…!
まぁ、しかし…
本当に金が底をついてきたら知り合いの探偵に頼み込んで
運転手として短期で雇ってもらえるから最悪探偵なんかやめて短期の仕事で食いつなげないこともない。
まぁ、とりま、五時までゲームするか!