第3章 僕の知らなかった世界 1.学び
この世界には、その身に鉱物を宿す者達がいる。
この者達はその身に宿す鉱物によって、様々な能力が与えられた。
大抵は女性。
幼少期に発現しはじめ、成長とともに能力も安定してくる。その能力は、宿した鉱物により、異なる。
大地のお母さんのように、病気や怪我の治療に有効な能力から、あのスチームパンク女のような戦闘に有利な攻撃系の異能力などがある。
そして、綾那の場合は、黒水晶で負のエネルギーの妨害に長けている。ようは何か良からぬ攻撃を仕掛けようとしている思念を惑わすことができるのだ。
そのような常識離れした能力が知れ渡れば、悪用を考えつく輩が出てくるのは当然のこと。
そのため、この様な能力をもつ者達がいることは、公には伏せられている。しかし、それでも、この能力者達を我が物にしようとする者達が存在する。それが、通称収集家。彼らからの依頼で暗躍しているのが採集家である。
暇な時は局内の図書室にこもり、CHに関する本を読みあさった。
本当に今まで僕が知らなかったことばかりで、まだまだ勉強しないといけない事ばかりだ。
格闘術もしかり……
「もっと腰を入れろ! 腰を!」
「はい!」
と、言った側から投げ飛ばされる。
「身体に一本芯を通すんだよ、そうすればもっと踏ん張りもきくし、動きも良くなる」
いつもそうやって注意されている。
「はぁ」
僕にはまだ、この意味が分からなくて、なかなか上達しない。
訓練後にため息をついていると、綾那が声を掛けてきた。
「蒼太っち明日早く起きれる?」
「え?」
「瞑想を教えてあげるよ」
「めいそう?」
「おーい! 起きろー! 朝だよー!」
「起きろってば! もぅ!」
ドサッ。
おもいっきりタオルケットを引っ張られ、ベッドから転がり落ちた。
おかげで寝起きが悪い僕も目が覚めた。
「イテテテテ……」
落っこちた時に打ち付けた腰をさすりながらもそもそそと起き上がると、目の前には綾那が僕から奪ったタオルケットを持ったまま腕組みして、仁王立ちしている。
「おはよう……ございます……」
「おはようじゃないわよ! 瞑想するって言ったでしょ!」
「ごめん……」
「早く着替えてきて!」
タオルケットをベッドに放り、部屋から出て行く綾那の背に声を掛けた。
「ごめん……直ぐ行く」
バタバタと着替えを済ませ自分の部屋を出て行くと、もう一度謝った。
「ごめん。目覚まし止めてまた寝ちゃったみたい」
大きくため息をついて、綾那が床に座禅を組んで座った。
「もういいから、始めよ。座禅できる? 無理なだあぐらでも良いけど」
「うん、こう?」
「そう、そうしたら腰や肩が丸まらないようにしっかり骨盤を立てて、その上に背骨と頭が真っ直ぐに乗っかるようにして」
「うん」
「そう、胸張りすぎないで」
言われたように直すと、変な力が抜けて姿勢を正していても、楽になった。
「そんな感じ。そしたら、目を閉じてゆっくり鼻から息を吸って、一旦止めたら今度は口からゆっくり吐き出して……あ、口は大きく開けないで、そうそう」
「良い感じ、そうしたら、その呼吸を七回繰り返すの。その時にお尻の下の大地から空に向けて、身体の中を金色の光が通り抜けていくようにイメージするの」
言われた通りに金色の光が身体を通り抜けていくイメージをしながら、深呼吸をしていると、不思議とリラックスして身体中に力が満たされる気がする。
「一遍にやっても、アレだから今日はここまでね。一週間はコレを毎日やってみて」
綾那に言われた通りこの一週間は毎朝瞑想をした。
不思議なことに始めてみると、身体の調子も良くなった気がする。
「うん。良くなってきたみたい。じゃ、今日からはこっちもやってみよーか?」
「金色の光が通り抜けてくイメージって言ったじゃない? そのまま続けてると、他の色と言うか光と言うか……、身体のなかを通り抜けて行くときに混じってこない?」
「少しずつでいいから、自分の身体の中から出てくる色を感じられるように集中してみて」
「うん。やってみる」
特に何も感じない……
そのことを綾那に伝えると
「うーん……まだ、難しいかな? でも、コレを追加して毎日続けてみて、ただ今みたいに分からなくて集中できなくなるようならそこで止めていいから」
「分かったやってみる」
色か……
どういう意味なんだろ……
身体の中から……もしかして、自分の鉱物を感じろってことか?だとすると、これは今まで以上に真剣に取り組まないといけない。
僕はまだ自分の鉱物の能力が使えない、それどころかどんなものなのかも分かっていない。あの日病院で見た、青い結晶……
もう一度調べてみよう。
今は、自分にできることをやるしかないか……。
綾那に教えてもらった瞑想を、これを続けてみるしかないな。
「あああああああああああああああーーっ!」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
マジで……ヤバい……
どうしよう……
夏休みもあと一週間だと言うのに、宿題全くやってなかった……
「何!? どうしたの?」
大声を聞きつけ部屋を覗きに来た綾那は、涙目の僕を見て心配げな顔をする。
「どうしよう……夏休みの宿題……全然やってなかった……」
がっくりと項垂れた綾那は
「蒼太っち……こんな夜中に大声出さないで……」
「あんたはもー! 本当に……明日から真剣にやりなよ!」
顔を上げた、いや顔を見なくても分かる……その輪郭からもやもやと立ち上がる怒気にも似た怒りと、呆れた感情が目に見えるようだった。
言うまでもなく、大地まで巻き込んで学校までの一週間は部屋から出しもらうこともできず、勉強漬けだったことは言うまでもない。