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鉱物採集  作者: 蒼玉
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第2章 動き出す運命 3.襲撃

大地との特訓をはじめて2ヶ月。

明日からは、夏休みだ。


「んんっ!」

校門を出ると大地が大きく伸びをした。


「明日からは少しのんびりできるね」


僕が言うと、大地は僕の両肩にドンっと手を置くと


「お前は呑気でいいな、夏休みはさらに色んな訓練が待ってるに決まってんだろ!」


「そうだよ! 蒼太っち! 訓練にー、宿題にー、大変そうだね! 頑張ってねぇー」

綾那もからかいの色を濃くした瞳を向け同意する。


僕はがっくりと肩を落とし、綾那の鞄に付けられた浮き輪を付けたウサギのマスコットが揺れるのを、恨めしい気持ちで見つめた。



帰り道、五分ほど歩いたところで、急に大地に腕をつかまれ脇道に引っ張られた。

「蒼太走るぞ!」


「え!? なに?」

呆気にとられる僕に、綾那も張りつめた表情で


「着けられてる」

と続けた。



「撒けそう?」

心配そうな綾那の声。


「あたしが居たのに何で? あたしが居れば、蒼太がCHなのも隠せるし、検索サーチも防げるはずなのに――」


「お前のせいじゃねーよ」

大地が警戒を強める。


「あんた、まだ正式な騎士ナイトじゃないんでしょ? 剣持さんに連絡した方が良いんじゃない?」


「あぁ、そうだな。綾那、頼む! 蒼太、本番だ! 気を抜くなよ!」



尾行者を振り切るために、あちこちの路地に入り、人混みを抜けて走る。僕はもともと運動は苦手だったが、ここ二ヶ月の特訓の成果か、なんとか大地に迷惑をかけずについて行ける。


いや、僕がいるだけで十分二人には迷惑をかけているんだが――



その考えを見抜かれたのか、大地が

「蒼太、お前自分が居なければこんなことになってないとか、迷惑かけてるとか思うなよ。俺らはお前を守りたいからそうしてるんだ」

と、こちらを見る。


「でも……」


「でもじゃねーよ、バーカ。休憩は終わりだ、いいから逃げるぞ」

そう言って、また細い路地に向かって大地が走り出す。


「綾那、もっとレベル上げられるか? 」


「さっきからやってるんだけど……あいつにはなんか、足取りがばれてるっぽいの」綾那は大地に答た。



次の路地に入ろうとしたところで、目の前に背の高い見覚えのある男が立ちはだかった。


「あの時の医者……」

僕は身構えた。


「あいつか! 」

大地が前に出て左手を広げ僕と綾那を守るように身構える。


「前回は失敗したけど、今度は一緒に来て貰うよ」

偽医者が、獲物はもう仕留めたと言わんばかりに口元を歪めニヤつく。

そして、大地など眼中にないという風情で僕に向かって歩をすすめた。



大地は、ゆっくりと後ずさりしながら、偽医者の隙を探す。


邪魔な虫でも払うように、大地を払いのけようと振り上げた偽医者の脇腹に、大地の蹴りが飛ぶ。


すかさず綾那も偽医者の足を払おうとするが、軽くかわされた。また、大地が拳を固め、偽医者のこめかみを狙う。



ドゴッ――


偽医者の頭上高くから、黒髪に所々に赤色の房が印象的な女が飛び降りてきた。


中世風に歯車と羽根が特徴的な装飾の衣服姿だ、ショートパンツからはスラリとした脚が伸びている。


飛び降りてきた女が、偽医者の上に着地する直前、不思議なことに偽医者が何かに押しつぶされるように、地面に押しつけられ動けなくなった。


「あらー? あんたまだ不完全なのね」

僕を値踏みするような目で腕組みした。


「折角、結晶化が早く進むように刺激を与えてあげたのに、足りなかったのかしら」


「な……何を言っているんだ」

僕は答えた。


「だからー、あんたの両親、折角アタシが殺してあげたのに、あんた全然ダメね。フフフッ」


「殺した……事故じゃなかったのか?!」


僕の頭の中を両親の顔、警察、楽しかった思い出、事故の知らせ、子供のころ幼稚園の帰り繋いだ手のぬくもり……


沸々とわいてくる憎悪と嫌悪感。


「僕のせいで、僕のせいで、父さんと母さんは殺された……お前に……」


「だから、そうだって言ってるじゃない。あーんたがあんまりトロいから、アタシが刺激を与えてあげたのよ」




大地の声がする。


僕に何か言っているみたいだ。けど、理解できない――


「僕のせいだ……僕の……僕の……全部!僕の……」呼吸が速くなる。


「僕がいなければ……」胸が苦しい。


赤と白と黒、視界が激しく点滅して何も見えない……


「嫌だ……嘘だ!嘘だ!!嘘だーーーっ!!!」頭がガンガンする――



お……け……、落ち着け!

しっかりした落ち着いた声が聞こえてきた。


「君は悪くないさ! しっかりしろ!」

駆けつけた剣持さんだった。


採集者(ハンター)は一人じゃなかったのか?」

僕の腕を抱えながら、状況を確認する。


「この前の偽医者が尾行してきて、その後、交戦中にこの女が――、多分こいつ磁鉄鉱のCHです」

大地が答える。


「磁力と重力操作か、お前たち気をつけろ」

剣持さんが言う。


手には何か拳銃のようなものをもっている。


あれは何だろう?


見慣れない武器が目に入り、僕の頭は、徐々に考えることを取り戻してきた。



「あら、良く分かったわね」

女は笑みを浮かべ、さらに続けた。


「正解。でも、ちょっとだけ惜しいわね。その中でも、アタシは特別強いみたーい。だから、そこの坊やをよこしなさーい」


「よこせと言われて、ハイそうですかって渡せるかよー」

大地が答える。


「しょうがないわねぇ。じゃぁ、少し痛くしてあげるわっ!」

そう言いながら、女が頭上高く上げた右手を振り下ろした。


それと同時に僕らの体は地面に勢いよく押しつけられた。

まるで、叩き潰された虫のような、不快な気分だ。


「ふふふ。這いつくばって、ゴキブリみたーい」

女が鼻にかかったような不快な笑い声をたてる。



地面に押し潰された体をなんとか捩り、剣持が持っていた拳銃らしきものの引き金を引く。


雷のような閃光が女の足下に飛んだ。


その瞬間、体がふっと軽くなった。

と、同時に大地が女に向かって飛びかかった。


女はひょいと隣のビルの手すりに飛び乗った。


剣持が電撃の銃を構え、もう一度女に向かって打つ。


今度は、ヒラリと地面に飛び降りてくる。

すかさず、大地が殴りかかるが、女はふわっと軽やかにビル3階あたりまで飛び上がり、起き上がろうとしていた綾那の前に着地した。


「私、あなたみたいな女大っ嫌いなのよねー」

と、綾那の鳩尾めがけて思いっきり蹴りつけた。


綾那は後方に2メートルほど飛ばされた。



「あはっ! もうお終いなの~?動かなくなっちゃったわねぇ」

飛ばされた綾那に女が近づく。


「うあぁぁぁぁ!やめろーっ!!」

叫ぶと同時に、手を伸ばしたが虚しく空を切る。



だらりとしている綾那の髪をつかみ、引きずり起こそうとする女。

手を伸ばそうとする僕の前に剣持さんが割り込み遮る。


「ダメだ!君をあの女に近づける訳にはいかない。目的は君なんだ」


「でも、綾那が!」


――僕は弱い。


僕は……綾那だけでなく、自分すら守れないなんて――


「大丈夫だ!必ず助ける」

力強い剣持さんの声。


僕は助けられてばかりだ……




「手の掛かる小僧だな」

駆けつけてきた大燈 標(だいとうしるし)が言う。


剣持から応援要請を受けて駆けつけてきたCH対策局の局員だ。


大柄で屈強な体躯がものすごい威圧感と存在感を与えている。

剣持の直属の上司にあたり局の精鋭達を率いる実力も確かな人物である。


「班長すいません」

剣持が答える。



「あ~ぁ。今日はお終いね。また来るわねぇ」

大燈率いる班員が揃ったことで、劣勢と判断した女がビルの屋上へと飛び去っていく。

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