第2章 動き出す運命 1.荷物の行方
翌朝、本当に綾那は学校に付いてきた。
というか、クラスも同じだし席は僕の真後ろって……。
一体どうなってるんだ?
今朝のニュースでも昨日のことは何も報道されてなかった。
ネットのニュースも検索してみたが、何も情報はなかった。気を失ってたから分からなかったけど、警察には見つからなかったのだろうか?
かと言って、綾那に聞いても何も教えてくれそうにないよな。
と、言うか聞けるような状況じゃないか。
綾那の周りにはクラス中の生徒が集まって、質問攻めにしている。
あれだけの容姿だもの、目立たないわけないよな。
綾那の取り巻きも一通り落ち着き家に帰ると、男が待っていた。
「やぁ、おかえり」
声で昨日の男だと分かった。
やっぱり、昨日の出来事は全て本当に起きた事なんだ。
綾那もずっと側にいるのだし、分かっていたことだけど、改めてそう思った。
「さて、この部屋では警備にも支障を来す恐れがあるし、二人にはちょっと手狭だろう? こちらで部屋を用意したので、そちらに移ってもらおう」
僕に選択の権利がないのは、すぐに分かった。
なぜなら、部屋の中はすでに空っぽで、僕の少ない持ち物は、全てどこかに運び出されていたからだ。
「今日からここが君たちの家だ」
つれてこられたのは、CH管理局と言う初めて聞く名の国家機関だった。
「さて、君には色々勉強してもらうことがあるからね。覚悟しておいてくれよ」
と、いたずらっぽい笑みを見せた男は、剣持 崇智と名乗った。
「じゃぁ、早速だけど峰山くんには護身術を習得してもらわないといけないね。自分の身は自分で守れるようにならないとね」
そう言って、建物の中にある道場に連れて行かれた。
そこで待っていたのは、僕の良く知る人物だった。
「よう、蒼太! 今日から俺が先生だ!」
僕が、目を丸くしてあっけにとられていると、歩み寄ってきた親友の一ノ瀬 大地が僕の肩に腕を回し、おかしそうに笑った。
「なんでお前がここにいるんだよ!」
「悪いな。俺はお前の監視役だったんだよ。兆候を感知してな。高校入学の時からずっと異変がないか見てたんだよ」
「騙してたのかっ?!」
僕は、裏切られた苛立ちをあらわにしたが、大地はこともなげに答えた。
「お前とダチなのは変わりないさ。確かに最初は監視役だったが、お前は良い奴だからな」
人懐こい笑顔を向けられると、怒るのもバカらしくなった。
「ところで、なぜ僕はこんなことをしなくちゃいけないんですか?」
向き直って剣持に尋ねた。
ずっと何が何だか分からないままだし、引っ越しに戦う訓練なんて――
剣持は真剣な顔になり話しはじめた
「持つものが、次々に不幸な死に方を遂げる宝石や、反対に戦に大勝し次々と持ち主に戦果をあげさせた宝石の話を聞いたことはないかい?
実は、これらの逸話の残る宝石は、人が宿したものなんだ。
大抵は、少女たちが幼い頃に結晶化させ始める。
君のように少年が、結晶化させるのは歴史上でも、かなり稀有なことなんだよ。
だから、収集家たちは、君が欲しくてたまらないのさ」
ヒトが鉱物を――
剣持の話を聞いても、分からないことだらけだけど、僕の体から鉱物がでてきたのも事実だ――
「そして、綾那もCHの一人だ。彼女はモリオンのCH、彼女が側に居れば、君に外部からの干渉は防げるはずだ」
「CH? ……って、何ですか?」僕は首をかしげた。
「CH、クリスタルハートの略だ。君と同じ鉱物を宿す者だ。CHは少なからず鉱物の影響を受ける。そして、その力を増幅することができるんだ。まぁ、詳しいことは追々勉強してもらうよ」
と剣持が続けた。
返事をする間もなく、僕の体は浮き上がった。
次の瞬間には道場の畳の上に転がり天井を見ていた。
幸いにも、激痛は免れた――
が、あちこちが痛い。
「ひ……ひどい……じゃ、ないか……」
「ワハハハ! どんな時でも対抗できるようにならないとな!」
と大地はニヤリとすると、僕の手を掴み引き起こしてくれた。
「これから毎日特訓だ!」