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開戦

 夕食の買い出しを済ませた後、家に帰るとルーシアが僕のベッドの上でうつ伏せになっていた。


「……なにしてるんだ?」

「!」


 声をかけるとルーシアが、がばっと慌てたようすで起き上がった。


「……」

「……」


 しばしの沈黙が続き、お互いに目を合わせたまま動かない。

 やがてルーシアは何も言わずにゆっくりと定位置にあったボロ椅子に座り、澄ました顔でこう言った。


「あら、おかえりなさい」

「うん、ただいま」

「今日は早かったのね」

「今日は午前中でバイトが終わりだったからな」


「ふーん、そうなの。それならそうと言ってくれればいいのに」

「悪かったな。で、なにしてたの?」

「……今日の夕飯はなにかしら?」

「なにしてたんだ?」


「……」

「……」


 再びの沈黙。

 長い長い沈黙が続き、ルーシアが震える唇で僕の質問に答える。


「寝てたのよ」

「それダウトだから。お前、寝ないだろ」


 正確には眠れないという方が正しいが。


「私だって眠る時があるのよ? 知らなかった?」

「嘘をついても無駄だぞ。お前と十年以上も一緒にいるんだぞ」

「……」


 さすがに今回は分が悪いことを察したみたいで、ルーシアが珍しく悔しそうな表情で押し黙った。


「もう一度だけ聞くけど、なにしてたわけ? 別に怒らないから教えてくれよ」

「……クロの匂いを嗅いでいただけだけれど? それがなにか?」

「開き直った」


「うるさいわね! 別にいいじゃない!」

「悪いとは言ってないけれど。ただ、ルーシアが実は僕がいない間、そんなことしてると思ったらほっこりして」

「!」

「ちょっ……暴力反対! 暴力反対! 胸ぐらを掴むのはやめてくれ! 首が締まる!」


 閑話休題。

 僕は恥ずかしがってご機嫌斜めになってしまったルーシアの機嫌を取るために、自らお茶を出した。

 ルーシアはいつもの如く僕の出したお茶を飲むと、


「まずい」


 と言った。

 僕はニヤリと笑って、


「なんて言うけど、いつも全部飲んでくれるよな」

「そ、それは……クロが出したものを残すわけには……いかないし……」

「嬉しいことを言ってくれる」

「むう……なんだか、今日のクロは意地悪なのだわ」


「たまにはいいだろ? いつもは僕が虐げられているんだから」

「別に虐げてはいないでしょう?」

「そんなことより今日の夕食なんだけど」

「ねえ、待って。虐げてはないでしょう? ねえ?」


 それから僕たちは早めに夕食を済ませた。

 食後にお茶を出すも、やっぱりまずいと言われる。

 しかし、結局全部飲んでくれるのだからルーシアは可愛い。


「なに? 私の顔をじっと見て」

「ちょっと顔をよく見ておこうかと、しばらく見れなくなるかもしれないから」

「……どういうことかしら」


 ルーシアは手にしていた湯呑みをテーブルに置く。

 僕はルーシアの対面に腰を下ろした。


「僕、ガスコインさんと戦うことにしたんだ」

「っ……理由を聞いてもいいかしら?」

「言わなくても分かるだろ? 僕は魔王を目指しているんだ。お前に止められたとしても、僕はそのためにできることをしなきゃならない」


「言ったはずよ。今回の相手はクロが少し頑張っただけじゃ、どうにもならないわ」

「じゃあ、とても頑張ろうかな」

「ふざけないで」


 ルーシアがキッと鋭い視線を僕に向けてくる。


「ふざけてない」

「本気なの? 相手は三強なのよ? しかも、私はお前に協力できない。非力なお前じゃ――」

「本気だとも」


 彼女がなにか言う前に僕は言った。

 しばらくルーシアからの視線に晒されていたが、やがて彼女は呆れたため息を吐いた。


「はあ……お前は今さらこの程度の脅しに屈するような男じゃないわよね」

「当たり前だ。お前と十年以上も一緒にいるんだぜ? 僕は脅された程度じゃ自分の意見は変えないよ」

「なら、私のために自分を曲げなさいよ」

「やだ」


 即答するとルーシアは笑った。


「酷い男ね。恋人のお願いが聞けないの?」

「むしろ恋人だから聞けない。最愛の人が好きになってくれた自分を曲げるなんてことは、例えその最愛の人の願いでも聞けない」

「どうあってもガスコインと戦うのね」


 彼女から発せられた最後の問いに首肯すると、彼女は肩の力を抜くが如くボロ椅子の背もたれに背中を預けた。


「なら、私がなにをしたところでお前を止めることはできないのでしょうね」

「ごめん」

「謝らなくてもいいわ。私はお前のそういう頑固なところも含めて愛しているのだから。むしろ、それでこそクロなのよ」


「だろ?」

「ふふ……でもね、やっぱり私はお前が心配だわ。お前はしぶとく生き残ることはできるかもしれないけれど、きっと死ぬ時はあっさり死ぬわ」

「だろうな」


 ルーシアは寂しそうに顔を伏せる。


「ねえ、クロ。絶対にまたここへ戻って来るのよ? 死ぬだけなら別にいいの。復活魔法で復活できるもの。でも、そのまま永遠に帰って来ない――なんてことはやめて」

「分かってる。お前を十七で未亡人にはさせないよ。まあ、まだ結婚してないけど……それはともかく。お前はここで安心して待ってろよ。帰ってきたら華々しい武勇伝を聞かせてやるからさ」


「今、とてつもなく不安になってきたのだわ」

「彼氏への信頼ゼロなんですね。ええ、分かってましたとも」

「そんなことないわよ。信頼しているわよ? 死んで帰ってくるって」

「僕の弱さの方を信じているんだな? お前この野郎」

「うふふ」

「……」


 僕は必ずここへ帰ってくる。

 だから、それまで少しの間だけどお前とはお別れだ。

 次に会えるのはいつになるかな。


 一週間かな。一ヶ月かな。

 でも、次に会った時に少しでも僕がたくましくなっていたら嬉しいな。

 これはいずれ魔族国の女王になるルーシアと肩を並べられる男になるための試練。


 生きて帰って、胸を張って彼女の隣に立とう。

 そう心に誓った。



 ガスコイン・メイデンの宣戦布告からわずか一週間。

 魔王軍と反魔族国勢力による本格的な戦闘が開始。


 魔王軍の幹部ディオネス・メイデン、並びにゼディス・リノワール率いる魔王軍十万人と、ガスコイン・メイデン率いる一万の兵が、この一週間で三度激突。


 一度目は北西から侵攻してきた反魔族国勢力と魔王軍が北西平野にて激突。

 結果、魔王軍が敗走。


 二度目は北西平野を突き破った反魔族国勢力による北西砦での防衛戦。

 結果は魔王軍の敗走で終わる。


 続けて三度目は魔王軍による北西砦奪還戦。

 結果は魔王軍の敗走で決着。


 現在は北西砦を中心に魔王軍と反魔族国勢力の小競り合いが続いており、膠着状態となっている。

小説家になろう勝手にランキングに登録してみましたわ(゜∀。)アヒャヒャ

よかったらよろしくお願いします✌(◔౪◔ )✌


以下、作者の独り語り。


最近やっと尊敬する暁先生のこのすば最新刊を読んだわけですが、べちゃべちゃに面白かったので、ファンタジーラブコメが好きって人で読んだことなかったらぜひ読んでみてください。


思えば、このすばみたいな楽しい雰囲気の作品が書きたいと思って書き始めたのが今作なんですよね……。

途中、リアルで鬱病になって筆折ったり、ちょっと違う作品書いてみたくなって別作品に浮気したけど、結局おまむすが書いてて一番面白いんですよね。


だから、僕の精神状態がリアルに破壊されなければこの物語は完結までいくと思います。

できれば書籍とかもバチ売れしてくれればべちゃべちゃに嬉しいんですけどね。

コロナで割と不透明なところあるんで不安なところが正直です。


ともあれ、正式にいろいろ情報とか出せるようになったらどんどん宣伝していくんで、煩わしく思うこともあると思いますが、どうぞおまむすをこれからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遂に最終章ってところでしょうか。楽しみです! お疲れ様です!このすばが目標だったんですか。……いいなぁ。お金なくて買えないんだよなぁ。 読んでないので美責任なことは言えないですが、おまむす滅…
[良い点] 確信かよw まあそうなるとは思うけどw 魔王軍三連敗でだいじょぶか? [気になる点] 計画的敗走? 敵の戦力を削ぐつもりかな? [一言] 気が進まない時もあるさ 亻だもの お気のすむまま…
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