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VS正義の味方

 コツン、コツンと、氷を叩く音が近づいてきて――やがて足音の主が姿を現した。

 金色に輝く髪を靡かせて、黒いドレスを身に纏ったルーシア・トワイライト・ロードが、全身にバチバチと電気を走らせて現れた。


「ルーシア」


 僕が彼女の名前を呼ぶと、ルーシアは僕を一瞥してすぐにグレイを睨む。

 グレイは突然現れたルーシアに困惑しつつも、「君はさっきの」と言って立ち上がる。


「よくこの場所が分かったね」

「そこにいるドラゴンの大きさを考えれば、目撃情報なんていくらでも湧いたわ」

「なるほど。でも、居場所が分かったところで簡単に立ち寄れる場所じゃないはずだけどね。なにせ外は極寒の猛吹雪……今日は嵐だけど、どのみちそう易々ここまでは来れない」


「天候を操れる私には関係のない話だわ」

「天候を……? そんなことができるのは魔王か、その娘の黄昏皇女くらいしか……」

「そんなことより」


 と、ルーシアは額に青筋を立てて、僕に人差し指を向けた。


「よくもまあ、この私の目の前で、私を吹っ飛ばした挙句、それ持っていってくれたわね? お前、万死に値するわよ?」

「おい、僕をそれ呼ばわりか」


「?」

「首を傾げるな。自分の発言を省みて疑問に思え」

「クロ。ちょっとうるさいから黙っていないさい」


「そうだよ。ちょっと黙ってて」

「なんで今視線をバチバチさせているのに、僕をいじる時は息が合うんですか?」


 僕は悲しくなりつつ、言われた通り口を閉ざすことに。

 グレイとルーシアはお互い歩み寄り、腕を伸ばせば届く距離感まで近寄る。


「君、彼と一緒にいた女の子だよね? ということは君も闇の組織の一人なのかな?」

「闇の組織? お前はなにを言っているのかしら?」

「ふーん? やっぱり、そうなるんだね」


 二人はさらに距離を縮めて肉迫して睨み合う。


「まあ、なんにせよ。戦ってボコボコにしてから吐かせればいいよね」

「あら、お前……もしかして、この私に勝つつもりなのかしら? それは愚かな考えね」


「それはやってみないと分からないんじゃあないかな。それに、初めからそうするつもりだったんでしょ? 君はとても怒っているようだからね」

「なら、私をさらに怒らせるような発言はしないことね」


 と、その直後。

 尋常ではない突風が巻き起こり、僕は危うく吹き飛ばされかけたところを、なんとか身を屈めて耐え凌いだ。

 風が止み、何事だと思って顔をあげると、ルーシアがグレイの腹部に放った拳を、グレイが手のひらで受け止めていた。


「へえ、口だけじゃないみたいね。本気ではなかったとはいえ、一度私を吹き飛ばしただけはあるわ」

「君もやっぱり強いね。ちゃんと防いだはずなのに手が痺れているよ」


 言って、グレイはルーシアの拳を受け止めた手でルーシアの拳を握って封じ、空いている方の手で拳を作り、ルーシアの顔面に向かって放つ。

 ルーシアもまた、それを空いている手のひらで受け止める。

 すると、再び爆風が生まれて僕は必死になって地面にへばりつく。


 それから二人の戦闘は激しさを増し、もはや僕には早すぎて見えない。

 僕が常軌を逸脱した戦いの余波で死にかけていると、近くにいたウェールズが僕を守るように前脚を目の前に置いてくれた。

 巨大な前脚が壁となって、戦闘の余波を防いでくれるおかげで僕は地面にへばりつく必要がなくなった。


 僕はウェールズの顔を見上げて、


「ありがとう。助かったよ」


 お礼を述べると、ウェールズはわずかに首を動かして首肯した。


『ウェールズは気にするなと言ってるデースよ』


 と、ここで同じくウェールズの体に守られていた聖槍が声をかけてきた。


「お前、ウェールズの言葉が分かるのか?」

『まあ、聖槍デースからね!』

「それは聖槍、関係あるのか……?」


 聖槍と僕が呑気な会話をしている間も、グレイとルーシアの戦闘は続いており、ウェールズの前脚から覗くように二人の戦いを眺める。

 氷に囲まれた広い空間に稲光が走り、ルーシアとグレイが中央で衝突。


 その後、すぐに二人の姿が掻き消えたかと思えば、ルーシアが宙に躍り出て、地面に立っているグレイに向かって極太の電撃を放つ。

 電撃が地面に落ちると尋常ではない爆発が起こり、氷で覆われた地面が砕けてクレーターが生まれる。


 しかし、生まれたクレーターにグレイの姿はなく、どこへ行ったのかと探してみると、氷の壁を猛スピードで駆けるグレイを見つけた。

 それでもやはり、すぐに僕の視界から姿を消してしまい、気がつけばグレイとルーシアが再び中央で激突していた。


 その間、終始衝撃波と爆風が広い空間内を駆け巡り、空間内を覆っている氷に亀裂が走り、所々氷が砕けていた。

 天井の氷に至っては、衝撃で砕けたものが落下してきており、ウェールズが僕の頭上に翼を広げていなければぺちゃんこになっていただろう。


『これはすごい戦いデースね』

「そうなのか?」

『見れば分かるデースよ?』


「そりゃあすごいんだろうなとは思うけれど、ほとんど二人がなにをしているのか分からないからな」

『なるほど、ちみは素人童貞なのデースね?』


「それ意味違うから」

『でも、素人の割には落ち着いているデースね? こんな常人離れした戦闘を一般人が見たら卒倒しそうなものデスけど』

「見慣れているからな」


『見慣れている……? このレベルの戦いなんて、そうそう見られないと思うデスけど……』

「僕はよく見るけど。あいつ、よく喧嘩するから」


 魔王と。

 僕は二人の戦いを眺めながら、「はあ……」と深いため息を吐いた。


『どうしたデースか? ため息なんて吐いて』

「いや、どうして人って暴力でなんでも解決しようとするのかなぁと思って」

『急に虚な目をしてなにを言い出すデスか……? ちょっと怖いデスよ?』


「僕は常々思っているのだけれど、どうして口がついているのに話し合いで解決できないのだろう」

『それは力でしか解決できないこともあるからデースよ』

「僕もそう思う」


 魔王だって平和な世の中を作るために武力を使っている。

 僕も旧人間国を攻略するために、チャリオッツさんやシロの力を借りた。

 実際、武力を抑止力として今の世界は比較的に平和を保っている。


 武力――暴力、そういうものは一定数必要であることは理解している。

 けれど、僕は基本的に暴力が嫌いだ。

 だが、その必要性も十分理解しているからこそ根っから否定をするつもりはない。


 必要な場面では暴力も必要だと思う。

 しかし、どうだろう。今ははたしてそれが必要なのか。

 僕は違うと思う。


 元々、グレイの勘違いから始まった戦いだ。

 百パーセント、グレイに非があると思うわけだけれど、だからと言って二人がここで戦う必要はまったくない。


 ルーシアがここに来た以上、グレイの誤解を解くことができるのだから。

 それなら、今ここで僕がすべきことは――この無駄すぎる二人の戦いを止めることだ。


 まあ、無理なんですけどね。

 あれだけ興奮していると、ルーシアに僕の声は届かないし、そもそもあの中に割って入ったら間違いなく死ぬ。


「なんか簡単に二人の戦いを止める方法ねえかなぁ」


 と、なんの気なしに呟くと。


『二人の戦いを止めたいのデースか?』

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― 新着の感想 ―
[良い点] こりゃあれだ 川原で顔ぼこぼこにして並んでの転ぶやつw 強敵と書いて友とよむ ってやつ?w [一言] つ プリン
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