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再びの激震

 魔族国首都にある魔王城にて、またまた激震が走った。


「どうしてよ! 悩みの種だった旧人間国との戦争を終わらせたのよ! 十分な手柄じゃない! これのどこに問題があるのよ!」

「だから、何度も言わせるなってんだ! これだけで魔王になれるわけねえだろ!」


 広々とした謁見の間にある玉座の前で、今日も今日とてルーシアと魔王が口喧嘩を繰り広げていた。

 僕はルーシアのすぐ隣で口喧嘩をぼけっと見守りながら、周囲に目を配る。


 二人が暴れ出すことを恐れて謁見の間に控えていた人たちは逃げ出してしまい、今はアイリスさんしか残っていない。


「はっはっは。魔王様もお嬢様も相変わらずで困ったものだね、クロくん」

「本当に」

「そういえば、今回は大活躍だったそうじゃないか?」


「やめてくださいよ。僕はたいして活躍してないです」

「長年続いていた旧人間国との戦争を終わらせたことを、活躍したと言わずしてなんと言うのだい?」


 アイリスさんはそう言ってクスクスと笑った。

 先日、僕は魔王になるための実績作りに、魔族国の悩みの種となっていた旧人間国との戦争を終わらせることに成功した。

 と言っても、僕はほとんど何もしてない。


 ルーシアが思いつき、ロータスさんの手引きで旧人間国に潜り込み、偶然居合わせたシロとチャリオッツさんの力を借りて地下水路に囚われていたエルフィーナさんを救出。

 その後はベルベットさんの迅速行動により旧人間国が降伏――と、この通り僕はほとんど何もしてない。


「僕がしたことと言えばマッサージしてただけですよ」


 そう口にすると、アイリスさんが肩を竦めた。


「まあ、実際にクロくんがやったことは多くないのだろうね。だけど、クロくんがきっかけで状況が動き出したのは事実さ。クロくんがお嬢様を動かし、ロータスに手引きさせ、その場にいた者たちの協力を取り次いで事態を収束させた――こういう見方もできるだろう?」

「過大評価はやめてください」


「クロくんは自分を過小評価しすぎだと思うけれど。まあ、どのみちクロくんの功績は変わらない。何かしら褒美が出ると思うよ」

「褒美ですか……」

「クロくんは何か欲しいものがあるかい?」


「お金ですかねー」

「わあー現実的ぃー。もっと何かないのかい?」

「と、言われましても」


「例えば、『アイリスさんと一日デート券』とか」

「いらねえ……」

「あとは『アイリスさんと一日ホテル券』とか」


 僕を絞り殺すつもりなのだろうか。


「遠慮しておきます」

「クロくんも相変わらずつれないのだなー。クロくんになら、このサキュバスである私の全力を以って極上の快楽を――」

「まだ死にたくないのでいいです」


「いいではないか一度くらい。復活魔法を使えば問題ないと思うのだが?」

「その後、ルーシアに殺される未来が見えるのでいいです」


 ルーシアが、「他の女の臭いがするのだわ。浮気したわね?」と言って、僕をギロチンにかける姿が容易に想像つく。

 アイリスさんはようやく諦めたのか、つまらなさそうな顔で口を開く。


「まあ、そうだね。クロくんの言う通り、お嬢様がぶち切れてクロくんを市中引きずり回しの上に、磔にして火炙りにする姿は私も見たくはないしね。諦めるとしよう」

「……僕、そんな凄惨な殺され方しますかね?」

「するだろうね」


「一応、恋人なんですけど。情状酌量の余地とかないんですかね」

「逆に恋人だから容赦をしないタイプだと思うけれどね。お嬢様は」


 アイリスさんの言う通り、恋人の僕だからこそ凄惨に殺す気がする。

 考えれば考えるほど、「ルーシアってサイコパスだなぁ」と内心で呟き、あらためてルーシアと魔王の口喧嘩に耳を傾ける。


「お父様のバーカ! 分からずや! クロが頑張ったんだから、ちょっとくらい認めてあげてもいいじゃない!」

「坊主が頑張ったことは認めてやるが、魔王になれるかどうかは話が別だ! このバカ娘!」


 ルーシアと魔王は睨み合って、すでに一触即発の雰囲気である。


「そういえば、僕ってなんでここにいるんでしったっけ」

「旧人間国との件の報告と褒美の話だろう?」

「ああ、そういえばそうだった……」


 たったそれだけの話で、どうしてルーシアと魔王は喧嘩しているのだろう。

 そんなことを考えていると、魔王とルーシアの喧嘩がひと段落したらしい。


 ルーシアが「ふんっ」と鼻を鳴らして魔王に背を向けた。

 魔王は娘の態度に頭痛がするのか額を手で抑えて頭を振る。


「まったく……はあ。おい坊主、相変わらずうちの娘の教育がなってないようだな?」

「だから僕のせいにするな」

「この俺の可愛い可愛い娘を、こんな不良娘にしたのは誰だ? おおん?」


「僕じゃないと思うんだけど」

「いいや、お前だね! 俺はルーシアをこんな子に育てた覚えはないからな!」

「魔王がルーシアを育てたからこうなったんだと思うけど」


 むしろ、その方が納得できると思うわけだが。


「それより魔王様。そろそろ、本題に入っては?」


 と、アイリスさんの鶴の一声によって魔王は渋々といった表情で本題へ入る。


「坊主。今回の働きは魔族国に莫大な利益を生み出した。それは認める。だが娘にも言ったが、これだけじゃあ魔王にはまだなれねえ」

「まだ手柄が足りないってことか?」


「まあ、そういうことだ。もちろん手柄だけじゃない。信頼も足りてねえ」

「信頼?」


「今回の件で大臣たちも坊主のことを高く評価し始めている。だが、たった一回だけでかい山を当てただけじゃあ信頼できねえんだよ。信頼を失うのは一瞬だが、信頼を得るには実績を積み重ねていく必要がある。分かるな?」

「……魔王になるためには、まだまだ頑張らなくちゃいけないってことか」


「そういうことだ。つっても、さっきも言ったが今回の件で大臣たちも坊主を評価してる。このまま手柄を立て続ければルーシアとの結婚を認めるかもな。まあ、俺は認めないがな!」


 最大の敵が目の前にいた。

 これにはルーシアも激怒し、僕を押しのけて魔王の胸ぐらを掴んだ。


「なんでよ! ちゃんとクロが実績を作れば文句ないでしょう!?」

「文句なんていくらでもあるわ! 可愛い娘を非力で頭も良くない吹けば飛んで行っちまうちっぽけな存在の坊主に預けるなんざ、心配で心配で眠れねえだろ!?」

「酷いことを言う」


「クロが非力で頭が良くないちっぽけな存在だってことは、昔から分かっているわよ。私はその上でクロと結婚したいの」

「ねえ、僕って一応恋人だよね?」


「まあまあ、クロくん。君が非力で頭も良くない貧弱極まりない人間なのは事実なのだし」

「泣いた」


 魔王とルーシアに続いてアイリスさんにさえも非力だなんだの言われて、僕はとても傷ついた。


「ふんっ、まあいい。どのみち坊主は自分でこの荊の道を選んだんだ。あとは魔王になれるか、途中で死ぬかしかねえ」

「え? 魔王になれなかったら僕は死ぬのか?」

「私が殺すわ」


「どうして僕にとって最大の敵は身内にいるのだろう」

「とにかくだ。今はこの国のために働け。お前にはその義務ができた」

「義務?」


 尋ねると、魔王は厳かに頷いた。


「そうだ。お前には今回の件の褒美として爵位が与えられることになった」

「爵位?」

「つまり、この国の貴族になるってこったな。爵位なんざそう簡単に与えられるもんじゃあねえだぜ?」


「そうなのか?」

「ああ。それだけ、お前の働きが高く評価されてるってことだ」

「ふーん」

「あん? あんまり嬉しくなさそうだな?」


 魔王が眉根を寄せて訝しげに尋ねてきたので、僕は肩を竦めてこう答えた。


「僕の目的はルーシアと結婚することだから、爵位をもらってもルーシアと結婚できるわけじゃないだろ? だから、たいして嬉しくない」

「クロ……」

「ふふ、なかなか男前のことを言うようになったね。クロくんは」


「フハハ! そうか。ああ、あと爵位の他にもお金もある。こっちはうちからの報酬で、こっちはお前が助けったっつー森エルフの姫からの謝礼金で――」

「おお! 金袋いっぱいのお金がこんなに!? 本当にもらっていいのか!?」


 と、お金が詰まった金袋に感極まっていると、なにやら三人から冷たい視線を感じた。


「ねえ、クロ。さっきの感動を返して欲しいのだけれど」

「クロくん……それはどうかと思うのだが」


「まあ、坊主はやっぱり坊主だわなぁ」

「あれ? や、やだなぁ。冗談に決まってるじゃないですかぁ」


 なるほど、信頼が崩れるのは一瞬というのはこういうことを言うのだろうと、僕は身を以て知ったのだった。

お久ぶりです。新型コロナでおまむすの刊行時期がずれていますが、ちゃんと書籍化されるっぽくて一安心している青春詭弁です。


 コロナでいろいろ忙しくて本編の執筆ができなかったのですが、ようやくひと段落したのでボチボチ書いていこうと思います。


 ひとまず過去に投稿した分で、設定がガバガバなところとかを直したり、誤字脱字を直したりしました。(最初からやれとか言わないで)


 よかったら読み直してみてください。面白いですよ。(自画自賛)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ベルベットさんとの一日デート券がほしいw この親子はいつもどおりですw [気になる点] 温泉国はいつ行くのかな? [一言] 貴族になる領地をもらうメイドを雇う幼馴染がメイド長 の流れかな…
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