第二回魔王軍幹部決定会議!
ちょっとずつね
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前回のあらすじ。
魔族国の存亡を賭けて行われた第一回魔王軍幹部最強決定会議。
熾烈な争いの中で勝利を勝ち取ったのは魔王軍幹部随一の頭脳と魔法センスを持つ天才魔法使い――ネロ・ロリータであった。
こうして魔族国に束の間の平穏が訪れたのだが、この決定に異を唱えるものが現れた。
それは魔王軍幹部を束ねる智将――アイリス・ハートに加え、魔王軍幹部最強に物理戦闘力を持つ猛将――ディオネス・メイデンの両名である。
かくして、第一回会議から時を待たずして第二回会議は開かれることとなった……。
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「これより魔王軍幹部最強決定会議を始める!」
ドンドンぱふぱふ。
アイリスさんの宣言に合わせて、軽快な効果音が鳴り響く会議室。
円卓を囲っているメンバーを順番に紹介すると、アイリスさん、ネロさん、ゼディスさん、ディオネス、ギルダブ、ベルベットさん、ロータスさんの順に並んでいる。
最後に前回同様、僕が椅子に縄で縛り付けられている。
「またですか」
と、僕が円卓に座る面々に向けて呆れた表情で言うと、アイリスさんが血走った目で口を開く。
「クロくん! これは我々にとっては死活問題なんだ! 大体、前回の裁定はちょっとズルくはないだろうか!」
「ズルですか? 僕、公平にジャッジしたつもりなんですけど……」
「嘘はよくないぞ、クロくん! 魔王軍幹部の最強がネロなわけがないだろう!?」
これには前回優勝者のネロさんが、「なんじゃと!?」と声を荒げた。
「わしが魔王軍幹部最強で文句はないじゃろうが! なんじゃ? クロ坊に選ばれなかったひがみか? 負け犬の遠吠えとはこのことじゃな!」
「なにをー!?」
僕の目の前でネロさんとアイリスさんが醜い争いを始めた。
この人たち本当はすごい人たち……なんだけどなぁ。
「ええっとぉ、それでは話が進まないのでぇ今回もわたくしが司会をやりますねぇ」
ギルダブはあまり興味がないみたいで、率先して司会に名乗りを上げる。
アイリスさんとネロさんはそれで言い争いをやめて、大人しく席に着いた。
「えぇ、それではぁ今回はぁ――魔王軍の中で一番慕われている幹部ということでやっていこうと思いますぅ」
ギルダブが議題を口にしたことを皮切りに、先陣を切って自己アピールを始めたのはアイリスさんである。
「部下たちから慕われている――という意味なら、間違いなく私だろうな! なんたって私は魔王軍の心臓だ。実質、私が幹部全員を束ねている立場なのは言うまでもないし、そんな私が部下たちから慕われるのは当然だろうな!」
「はっ! たわけたことを抜かしおって! 幹部の中で一番慕われているのは間違いなくわしじゃろ! 幹部の中で最も頭が良くて、世の中のためになる便利な魔導具の開発だってしておる!」
「いや〜さすがに幹部の中で一番慕われてないのはネロだから、今回の議題じゃネロが勝てる見込みはないと思うっすよ〜」
ここでネロさんに異を唱えたのは飄々とした態度で椅子に座るロータスさんであった。
「なんじゃと!?」
「ネロは知らないと思うすっけど、部下たちの間で『鬼のネロ』とか、『ネロちゃん』とかって言われてるっすよ」
「なっ……そ、それは本当のことなのかのぉ……?」
「嘘言ってどうするんすか? 魔導具開発部門のところじゃ、ずいぶん部下をこき使ってるみたいっすね? こんなブラックな職場なんて辞めてやるって、よく愚痴ってるっすよ」
「うっ!?」
「あと、他のところからは小さくて可愛いとか、ロリ最高とか」
――これは慕われているとは言えないんじゃないっすかね?
ロータスさんに口撃で、今回の議題でネロさんが勝てる見込みはゼロとなり、あえなく撃沈。
椅子の上で体育座りしているネロさんは小声で、「わしの陰口言っとるやつら全員吊し上げてやるぅ!」とブツブツ言っているのが聞こえてしまった。
怖い……。
ロータスによってやや流れが変わりつつあるが、ここでアイリスさんがロータスさんに仕掛ける。
「ロータスはドMだから絶対に慕われてはいないな」
「あはーん! そんな目で俺を見ないで欲しいっす〜! 気持ちいいからぁ!」
と、恍惚な笑みを浮かべて身を捩るロータスさんに、この場の全員がドン引きしたことで、ロータスさんもあえなく撃沈。
残るはアイリスさん、ディオネス、ベルベットさん、ギルダブ、ゼディスさんとなった。
僕はふと今回も司会をやっているギルダブさんに尋ねた。
「前回は辞退してましたけど、今回はどうするんですかギルダブさん?」
「むぅ、そうですねぇ。わたくしの部下は魔王様やアスタリア様、それとお嬢様に仕えているメイド隊や執事隊なんですよねぇ。彼らにはかなり厳しい教育を施したので、あまり慕われてはないと思うのですよねぇ」
「そうなんですか」
「えぇ、ですから今回も辞退しますよぉ。別に慕われたいと思ったこともないですしねぇ。というか、今回の議題において最強候補が一人いらっしゃいますからぁ」
ギルダブの言う最強候補に僕は心当たりがあり、今度はその人物に視線を向ける。
その人物とは――魔王秘書を務めるゼディスさんのことである。
「あの人、本当はポンコツな癖に部下にはできる女として通ってますからね……」
「彼女は擬態が上手いと言いますかねぇ。まあ、それもひとつの能力なのでしょうねぇ」
当然、ゼディスさんもそれを自分でも理解しているからか、今回は椅子の上でふんぞり帰って偉そうに残った面々を見下していた。
「ふっふっふ〜。どうやら今回の議題、私にかなり有利なようですね! 今回こそ私が優勝してボーナスを――」
「「黙れポンコツ」」
「酷い!」
アイリスさんとディオネスに言われて、軟弱メンタルのゼディスさんは「うわああん!」と泣き出してしまい秒殺。
撃沈されるの早すぎるだろ……。
「ふんっ。どいつもこいつも分かっていない。慕われているということはなにかに秀でているということ。その点、魔王軍幹部最強である私が今回の議題においても最強であることは明白」
「ディオネス……君はいい加減に自分が脳筋だと気づくべきだ。ひと昔前ならば、腕力だけでも慕われたかもしれないが、これから平和になる世の中では役に立たないさ。腕力しか誇れるところのない君を誰が慕ってくれるというんだい?」
「アイリスうるさい。股を開くしか脳のないサキュバスの癖に」
「そりゃあサキュバスだからね」
バチバチと円卓を挟んでアイリスさんとディオネスが火花を散らす。
一方、いまだこの場で一度も発言していない人物がいることに気がついた僕は視線を切り替える。
僕の視界には椅子に綺麗な姿勢で座るベルベットさんの姿が映った。
ベルベットさんはギルダブと同じで、あまりこの会議に興味がないのだろうかと思って見ていると、
「……すぴー……すぴー」
寝ていた。
「あの……ベルベットさん」
「ん……はっ!? 寝てません。寝てませんよ。寝てませんからね? この魔王軍の幹部たるベルベットが、まさか会議中に居眠りなどしていません。断じて寝ていないので勘違いしないでくださいね。ゴブリンAさん!」
「いや、僕はゴブリンAさんじゃないんですけどね……」
本当にこの人、ずっと目が閉じてるから寝ているかどうか分からないなぁ。
と、ここでアイリスさんとディオネスの言い争いが一区切りしたのか、二人が僕に詰め寄ってきた。
「ディオネスと言い争っても埒があかないので前回同様、クロくんに決めてもらおうではないか!」
「望むところ」
「ええー……」
二人はまた僕に全てを丸投げしてきた。
うーん……魔王軍幹部の中で一番部下に慕われている人かぁ。
「じゃあ、ベルベットさんで」
「ふわぁ〜……え? ベルベットですか? やった。ボーナスいただきですね! ふふ」
と、ベルベットさんは嬉しいのか頬に手を当てて喜びを露わにしている。
対して、選ばれなかったアイリスさんとディオネスが口をあんぐりと開けたのちに突っかかってきた。
「ふざけるな貴様!」
「そうだぞクロくん!」
「いや、ふざけてないですけど。ちゃんとベルベッドさんだって対象でしょ? 大体、言わせてもらうけれど、部下から慕われる上司はこんな小さいことで争ったりしないだろ」
素直に思ったことを口にすると、アイリスさんとディオネスが同時に、「うっ」と言葉を詰まらせた。
しばらくして、ディオネスだけがどうしても納得できなかったみたいで、ずかずかとベルベットさんに近寄ると、
「ベルベット! 最強に相応しいのは私のはず! ボーナスは私のもの!」
「……? そう言われましても、クロくんの裁定で私と決まったわけですし……あ、もしかして悔しいのですか?」
「むかっ」
多分、ベルベットさんに悪気はなかったが今の一言はディオネスを怒らせるのに十分だったらしい。
「貴様! 魔王軍幹部最強は私だ! いい加減、ボーナスで新しい武器を買いたいのだ!」
みみっちい理由でディオネスはベルベットさんに襲いかかり――。
「ぎゃっ」
ディオネスがベルベットさんにいとも容易く投げ飛ばされ、床の上でそのまま目を回して気絶。
ディオネスはこうして見事に撃沈させられた。
「す、すごい……魔王軍幹部最強のディオネスが一撃で……」
「まあ、盲目でなければベルベットの方がディオネスよりも強いというのは幹部全員の見解ですからねぇ。そりゃあ、不用意にベルベットの間合いに飛び込めば、いくらディオネスとてこの通りですよぉ」
「……」
僕はギルダブの説明を聞いて頬を引きつらせた。
「折角、ボーナスが入りましたし、新しいブラッシング用の油を買いましょう。うふふ」
こうして第二回魔王軍幹部最強決定会議は、上機嫌なベルベットさんが優勝という形で幕を閉じた。