VS 首なし巨人
こんばんは(゜∀。)アヒャヒャ
今回は長くなりました。すみません。✌(◔౪◔ )✌
※
チャリオッツさんとシロ、そして道案内に僕を入れた3人で地下水路へ突入。
地下水路へ行くために階段を守っていた兵士を華麗に眠らせたチャリオッツさんを前衛に、そのまま地下水路へ歩を進めた。
「制限時間は次の見張り兵の交代までになるだろう。それまでに姫様をお助けし、最前線まで逃走。前線で戦っている同胞たちと合流したのち内側から前線を破壊し脱出する」
と、ここまでがチャリオッツさんの考えだそうだ。
正直、そこらへんの是非は僕に判断できないため全部任せた。
「それにしても暗いわねー。ちょっとあんた? ちゃんとランタン持ってなさいよ? それがなくなったら真っ暗でなにも見えなくなるんだから」
「分かってる」
僕はシロに言われるまでもなく、しっかりとランタンを手に持つ。
「ランタンは僕がちゃんと持ってるから、代わりに僕を守ってくれ」
「分かってるわよ。このあたしに任せなさい! 大船に乗ったつもりでいるといいわ!」
シロはそう言って胸を張った。
彼女に頼りきりな僕が言うのもなんだけど不安だ。
「それより前はあんたに任せてるんだからしっかりしなさいよね?」
「うむ……善処しよう」
チャリオッツさんは僕たちの前に立って周囲を警戒している。
さて、しばらく地下水路を歩いていると、ふいにランタンの火が揺れ動いた。
それを皮切りに前を歩いていたチャリオッツさんの足を止まる。
「む……2人とも来るぞ」
「みたいね。ほら、あんたはあたしの後ろにいなさい!」
「わ、分かった」
僕は言われた通りシロに背中で身を隠す。
我ながら女の子に守られる僕って――と思ったが仕方ない。
僕がそんなくだらないことを考えていると。
『ウラメシィ!』
「むっ!」
突如としてチャリオッツさんの目に足の女――怨霊が現れチャリオッツさんに襲いかかる。
しかし、チャリオッツさんはそれを紙一重に躱して顔面を鷲掴みにして地面に叩きつけた。
「うわ……怨霊って触れるんだ」
『怨霊と幽霊だとやや性質が異なるのじゃよ。比較的に弱い幽霊は物質に触れることができぬが、怨霊は憎悪の塊じゃ。この世への執着が強いゆえ物質の触れられる』
逆に言えば、こちらからも怨霊に触ることができるのだと聖剣が説明してくれた。
「いやぁ、でも触れるからといって触りたくはないよな。呪われそうだし」
「そんなことを言ってる余裕はない。どんどん怨霊たちが集まっている。我輩でも守りながらでは全てを相手取るのは難しい」
チャリオッツさんがそう言った側から、僕は背中に視線を感じて振り向く。
すると、僕の背後に怨霊が立っていた。
まるで目玉をくり抜かれてたみたいな顔で肌は真っ白。
例の如く足は地についておらず、僕を見下ろしていた。
『ウラメシィ』
「おおう……」
死んだ。
僕が死を覚悟した矢先。
閃光が走ったかと思えば、次の瞬間には怨霊の首が宙を舞って地面に落ちていた。
反射的に振り返ると、聖剣を片手に泰然と立つシロがいた。
「だから言ったでしょ? あたしがいれば大丈夫だって」
「……もっと早く助けてくれ」
「助けてもらっておいてその態度!? あんた足手まといなのちゃんと自覚してよね!」
僕もそう思います。
そんなこんなで怨霊たちの襲撃をチャリオッツさんとシロが防ぎながら地下水路を進み、やがて地下牢がある区画までやってきた。
「このまま進めばエルフィーナさんのいる地下牢です」
「なーんだー。意外と楽勝だったじゃない」
「お前それフラグだからな……」
そうツッコミを入れたが、シロは素知らぬフリである。
僕はため息を吐いた。
ふとそこで――そういえば、シロとこうやって話す機会はあんまりなかったよねと思った僕は興味本位で彼女に尋ねてみた。
「なあ、シロ。ちょっと聞きたいことがあるんだけれども」
「スリーサイズなら教えないわよ?」
「どうして僕がお前にスリーサイズを聞こうとしていると思ったのか不思議だ」
「違うの?」
「断じて違うに決まってんだろ」
「だってあたしのスリーサイズよ? 世の男ども知りたい秘密ランキング1位の特大シークレットな秘密よ?」
「それ同じこと言ってるから……」
というかそのランキングは誰得なのだろうか。
「そうじゃなくて、どうして魔王に復讐しようとしているのかなって思って」
魔王に復讐するために、魔王の全てを奪って殺すとのたまう危険人物だ。
だが、こう話しているとそこまで悪人にも思えず――気になった。
頭のネジが吹っ飛んでいることだけはたしかだが、その根底にある魔王への憎しみを知ればシロのことを少しは理解できるかもしてないと思ったのだ。
シロは僕の問いに目を瞬き、やや可笑しそうに笑った。
「なによ急にー?」
「いや、なんとなく聞いてみたかっただけだけど。言いたくなかったら別に言わなくてもいい」
「ふーん? まあ、隠してるわけじゃないし教えてあげてもいいわよ? といっても特別珍しい話でもないけどねー。どこにでもありそうな普通の物語よ」
シロはそんな前を起きをしてから簡潔に話した。
「魔王はね……あたしのお父さんを殺し、弟を連れ去ったの」
「戦争で……ってことか?」
「ええ。15年くらい前のことよ。あたしが物心つく前に、お父さんは魔王に殺されたそうよ」
「その言いぶりだと聞いた話なのか」
「まあね。なにせ物心がつく前のことだったから。それでも、記憶の断片には残ってるのよ。あたしに優しくしてくれたお父さんとの想い出が……お母さんはね、お父さんのお墓の前でいつも泣いていたわ」
「……弟を連れ去られたってのは?」
「そのままの意味よ。あたしが物心ついた頃。弟を生んですぐお母さんが病気で倒れちゃって……その時に魔王が現れて、あたしの目の前で弟を連れて行ったの」
そんなことが本当にあったのだろうか。
少なくても僕はそんな話を聞いたことがない。
「弟さんの名前とか分からないのか? もしかしたら、まだ魔族国で生きてるのかも」
「それが分からないのよ……あたしもまだ物心がついたばかりだったし、ちょっと記憶が曖昧なのよね……ただあたしに似てると思うのよね! 姉弟ってそういうものじゃない?」
「まあそうだな」
「あたしが絶世の美女だから、弟はきっと絶世の美男だと思うのよ!」
「自分で言うか普通……」
「きっと同じ黒髪が綺麗な美男よ! どうしようかしら……あたし好みだったら禁断の愛とかしちゃってもいいかしら!?」
「知らねえよ」
と、ちょっと彼女の話を聞いて後悔した僕であった。
「というか、お前っていくつなんだ?」
「レディに年齢を聞くとかありえないんですけど?」
「……レディ?」
「マジありえないんですけど!」
シロがブチ切れて僕に掴みかかろうとしたそのタイミングで――チャリオッツさんが足を止めたため、僕たちも彼に続いて足を止めた。。
「どうしたんですか? また怨霊が現れましたか?」
「いや、違う。そうじゃない。音が聞こえるのだ」
「音ですか? シロはなにか聞こえるか?」
「んー……耳をすませばなんとなく聞こえるかも」
「それってどんな音なんだ?」
という僕の問いに2人が同時に答えた。
「「なにか金属を引きずるような音」」
刹那――キーンっと僕の耳にもたしかにそんな音が聞こえてきた。
※
地下水路を進んだ先。
地下牢のある区画には柱が乱立した広い空間がある。
その空間の中心を陣取るようにして――大きさ3メートルはあろうかという体躯と、とんでもなく大きなノコギリを右手に携えた首のない巨人が立っていた。
異様に大きく長い胴体とは対照的に細く短い脚。
腕もまた細いがこちらは異様に長くなっていて不気味な姿をしている。
本来ならば首があったであろう部分からは黒いモヤが溢れ出ており、より一層の不気味さを醸し出している。
『――っ』
首なし巨人は僕たちに気づくと巨大なノコギリを肩に背負って動き出した。
「少年は下がっておくのだ……どうやらここはやつの縄張りのようで他の怨霊はいないようだから安心して隠れているといい」
「わ、分かりました!」
言われた通り僕は邪魔にならないようにすぐ後ろへ下がる。
こういう時に僕も力があればと歯痒く思うが――後悔しても遅い。
今はただ2人にあれをなんとかしてもらうしかないのだから。
「さーてと! やっとあたしの出番ね!」
「油断はしない方がいいぞ……少女よ」
「あたしを誰だと思ってるの? 勇者よ? こんな首のない木偶の棒に負けるわけが――!?」
シロが死亡フラグを言い終わる直前。
首なし巨人が突然動き出し、長い腕と巨大なノコギリから放たれた超リーチと広範囲の横なぎの攻撃。
シロとチャリオッツさんは己の武器を咄嗟に前へ構えて攻撃を防いだものの甲高い金属音が鳴り響くと同時に、2人が先ほど立っていた位置」から数メートル後退。
この時点でシロの顔つきが変わる。
「へえ……結構やるじゃない」
『――』
首なし巨人はなにも言わないが、ただ悠然とチャリオッツさんとシロを見下ろしている気がした。
ここからは戦闘においてまったくの素人である僕にはなにがなんだか分からなかった。
その上でありのまま見たことを口にするのなら、正直どっちが怪物なのか判断できない光景が僕の目に映っていた。
巨大なノコギリの振り下ろしを受け止めるチャリオッツさん。
目にも止まらぬ速さで聖剣を振るって首なし巨人の体に傷をつけるシロ。
『――』
「少女よ……我輩がこやつの攻撃を引き受ける。そのうちのその剣で斬るのだ!」
「言われなくてもやってるわよ! だけどこいつの肉は普通じゃないわ! どうしても攻撃が浅くなる!」
『――』
「む!?」
首なし巨人が再びノコギリを振り下ろすも、チャリオッツさんが槍の柄で間一髪それを防ぐ。
金属同士がぶつかる甲高い音が地下空間に鳴り響き、ものすごい衝撃破が僕の方まで飛んできた。
「わぁ……僕、すごい蚊帳の外だなぁ……」
当然といえば当然だ。
あんな怪物同士の戦いに僕が割って入っても足手まといにしかならないわけで。
僕にとっての最善は今ここでこうしていることなのだ。
そんなことを考えているうちに再び衝撃波――。
「……」
僕はたくさん立っている柱に陰に隠れて、ただじっと2人の戦いを見つめる。
『――!』
「っ!?」
「きゃ!?」
首なし巨人はノコギリを振り回し力任せにチャリオッツさんとシロを吹き飛ばす。
2人とも辛うじて己の武器で防御できていたみたいだけど、肩で息をしているし明らかに疲弊していた。
「こ、こいつ……思ったよりやるじゃない……!」
『シロよ! 無理するでない! もう息があがり切っておる! 一度呼吸を整えるのだ。見よ……首なし巨人はまったく疲弊しておらんぞ。このままではスタミナ切れで負ける』
「うっさいわねぇ……ちょっとあんた! あいつに弱点とかないわけ? 前に戦ったことあるんでしょ?」
「むう……すまないが心当たりがない」
あれ。
もしかして、意外と危機的状況なのだろうか。
「ったく……仕方ないわねぇ……こうなったら正攻法で勝ちに行ってやろうじゃない!」
シロは再び聖剣を構えるや否や首なし巨人に正面から突撃。
当然迎撃しようとノコギリをぶん回す。
シロはうまいことノコギリを躱して首なし巨人の懐に潜り込むと――。
「首がないならあんたの心臓をぶっ潰す! 心臓があるか分かんないけど!」
そんな適当でいいのか。
という僕のツッコミはシロに届くわけもなく、彼女は聖剣を首なし巨人の胸ぬ中央に聖剣を突き刺した!
「死ねぇ!」
『――!』
効いているのか首なし巨人が声なき悲鳴をあげる。
が、
「わっ!? ちょ……ぎゃ!?」
首なし巨人がシロを引っぺがそうとノコギリを持たない手でシロを掴んで、そのまま投げ飛ばしてしまった。
結果、聖剣が首なし巨人に刺さったままシロは僕のすぐ側を高速で通りすぎて壁に激突した。
ドカーンッ!
などという明らかにやばい音が聞こえてきて、僕は慌ててシロの元へと駆け寄った。
「おいシロ! 大丈夫か!?」
「うう……背中打ったぁ……結構痛い……」
「大丈夫そうだな」
「痛いって言ってんでしょうが! あいた!?」
叫んだからか、シロが本当に痛そうに腹部を手で抑える。
普通はあの速度で壁に叩きつけられたら死ぬんだけれども。
痛いで済んでいるのなら大丈夫だろう。多分。
「うっ……これあれだわ。肋が折れてるわ……」
「え? マジか」
「しかも、これ折れた肋が内臓に突き刺さってるんですけど……これ動いたらダメなやつなんですけど」
「……」
ぜんぜん大丈夫じゃなかった。
「回復魔法とか使えないのか?」
「せ、聖剣が手元にあれば……うっ……」
その聖剣は首なし巨人に刺さっていると……。
なんとかチャリオッツさんに聖剣を取り戻してもらえないかと声をかけようとしたところ。
ひゅーん――ドカーンッ!
と、チャリオッツさんがシロの近くの壁に激突した。
「……す、すまぬ……疲れたところをやられてしまった……前回と同じだっ。やはり、やつにはスタミナの概念がない……ぐっ」
チャリオッツさんもまた、起き上がろうとして腹部を抑えた。
これはまさか……。
「す、すまぬ……我輩も肋が折れて内臓に突き刺さっているようだ……」
「……」
重傷者2名。
戦闘員0名。
敵は1体。
残っているのは役立たずな僕だけ。
「うん」
終わった。
これはもうダメだ。
この2人で敵わなかった相手に僕が勝てる見込みとかないわけで、つまり完全に詰んでいる状況ということになる。
「こうなったら逃げるぞ!」
「そうしたいところだが我輩はどうやら動けないようだ……」
「あたしも同じく……」
「じゃあ、僕が抱えて逃げ……られるわけないか」
シロはともかくチャリオッツさんは無理だ。
たたでさえ大きな体をしているのに騎士甲冑を着ている彼を背負って逃げれるわけがない。
「もう我輩たちのことは捨てて少年だけでも逃げるのだ」
「それは……」
いや、そもそも僕1人ではここから生きては出られないのだ。
なぜならここから逃げようにも怨霊たちがいるのだから。
2人を背負って逃げられない。
僕1人でも逃げられない。
そして、あの首なし巨人には勝てない。
ない頭を振り絞って考えてはみたものの――やはり解決策は思いつかない。
やっぱり詰んでいる。
こうなったら――。
「じゃあ、3人で仲良くノコギリでズタズタにされて死にますか」
「少年の切り替えの速さに我輩は驚きを禁じ得ないのだが……」
「まあ、こういう状況には慣れてるんで逆に落ち着くというかですね。もう実家にいる気分ですよね」
「少年は一体どのような環境で育ってきたのだ……!?」
そうこうしているうちにも、首なし巨人はゆっくりとだがこちらに向かって歩いてきている。
ここまでか……。
万事休す。
はい。短い人生でした。
『――』
「……」
首なし巨人はゆっくりと、ゆっくりと近づく。
まるで追い詰めた獲物をいたぶるように。
ふとここで聖剣の声が聞こえてきた。
『おいぬし聞こえるか!?』
「ん? なんだよ。僕は今短い人生の最後まで自分がチェリーであったことに後悔している最中なんだから邪魔するなよな」
『ぬしの下半身事情などどうでもよいわ!』
下半身事情って……。
『そんなことより朗報じゃ! こやつ心臓がある! もうわしの切っ先がこやつの心臓に触れておる! 少しでもわしを押し込めばわしの不死無効化でこやつを殺せるはずじゃ!』
「え……マジか」
『マジじゃ! だから、ぬしよ! わしを押し込め!』
「え? 僕……?」
『今動けるのはぬしだけじゃ! ぬし以外に誰ができるというんじゃ!』
聖剣の言葉を聞いて振り返ると重症の傷を負ったシロとチャリオッツさん。
「む? どうかしたのか……? 先ほどから独り言を……」
そういえば、聖剣の声って他の人には聞こえないんだったか……。
一方、シロの方は僕に向かって親指を立てていた。
「あんたならできるわ! 多分!」
「あんまり信用されてないのね僕」
というかこの女、意外と元気な気がするのだが。
「大丈夫……よ。あの首なし野郎、スタミナとパワーはとんでもないけどスピードはないから。あんたでも避けられるわよ」
「そんな簡単に言ってくれるなよ……」
「ちょっとは自分を信じなさいよ。たしかに、普通に人なら恐怖で身が竦んであのノコギリの間隙を縫って懐に潜り込むなんてできないでしょうけど……」
シロは言いながら普段とは異なった大人びた微笑を浮かべる。
「あんたなら大丈夫よ。あんたは恐怖に負けない心の強さがある……短い付き合いだけどそれは分かる……だから思い切ってやっちゃいなさい!」
どのみちやってもやらなくても死ぬのだからとシロは笑った。
この状況で笑えるってとんでもないなと内心で苦笑しつつ、
「はあ……」
ため息を1つ。
シロの言う通り、やらなければやられるだけなのだ。
どうせ死ぬのなら好きにやらせてもらおうか。
僕は腹をくくった。