アルバイトな自称勇者とフラグ建築士な騎士
いろいろと大変ない時期の昨今……わたくしも書籍化のお話がどうなることやらと心配です。
ルーシアにさえイラストがつけば後はなんでもいいので、とにかくここを乗り切りたい所存です。
そんなわけでみなさんこんにちは(゜∀。)アヒャヒャ
※
エルフィーナさんのところから地上に帰ってきた僕はあるところに足を運んでいた。
「ってことで、協力してくれないか」
『断るに決まってるじゃろうが』
旧人間国首都にある大通りの路地。
その入り口で営業していたエドワードのラーメン屋にて、僕は看板のところに立てかけられていた聖剣エックスガリバーに頼んでみたがあっさり断られてしまった。
「そんなこと言わずに」
『うるさいわいボケェ! わしを騙して魔王のところに持っていったこと忘れておらんからな!』
ごもっともな怒りである。
自称勇者シロが持つ聖剣エックスガリバーは不死身を無効化する聖なる剣――実際、不死身のルーシアに傷を負わせたこともある。
聖剣の力を貸してもらえれば首なし巨人とやらに対抗できると思ったんだけど……案の定断られた。
前回のことを根に持っているみたいだ。
「騙したことは前に謝ったじゃないか。それに魔王からなぜかお咎めなしだったんだろ?」
『それとこれとは話が別じゃ! わしの取引を断っておいて、自分は手を貸してもらおうなどと虫が良すぎるわ!』
僕も我ながらそいう思います。
「それを承知で頼む……世界平和? のためなんだよ」
『いやぬし世界平和とかどうでも良さそうな顔しておるし! 嘘を吐くでないわ! シロからもなにか言ってやれ!』
と、聖剣は屋台に立っているシロに声をかけた。
すると、
「別にあたしは協力してあげてもいいわよ?」
「え?」
『は? はあ!?』
シロの思わぬ回答に聖剣だけでなくん僕も驚いてしまった。
そんな僕たちのことなど他所に、シロは隣に立っていたエドワードに尋ねる。
「店長ー? いいですか?」
「む? 俺様は構わないぞ。少しくらい貴様がいなくても店の売り上げに影響はない……聖剣がないと人目は引きにくくなるだろうが……」
「そうですわね……これは彼に恩を売れる絶好の機会ですし……」
エドワードもレベッカも特に反対することなく、僕の隣で聖剣が愕然としていた。
『な、なぜじゃシロよ!? かつて騙されたのだぞ!?』
「ん? まあ、別にいいじゃない昔のことは。それより、もちろんタダで協力する気はないわよ?」
「あ、うん……僕にできることならなんでも言ってくれ」
「あんたにできることなんてたかが知れてるわよ」
「傷ついた」
「まあ、そんなたいした条件じゃないわ。ただ……魔王と二人きりで話ができる機会を作って欲しいのよ」
「魔王と……それは……」
「あー安心して。別に殺すつもりっていうか……今回は戦うつもりないし。本当に話がしたいだけよ」
「……どういう風の吹き回しだ?」
魔王に復讐するため闘技場を爆破しようとまでした頭のネジがぶっ飛んだ女だ。
魔王と1対1の状況で戦うつもりがないというのは、些か信じがたい台詞だ。
その疑問にシロは肩を竦めて答えた。
「娘の黄昏皇女にすら勝てない現状……魔王を殺すにはあたしはまだ力不足だもの」
「つまり、今戦っても勝てないから戦うつもりはないってことか……」
「そーいうこと……」
言われてみればたしかに……仮に魔王とシロを二人きりにしたところで、魔王が殺されるビジョンは見えない。
「分かった……そうできるように全力を尽くすよ」
「じゃあ、取引成立ね!」
『ちょ……わしの意思は!?』
ギャーギャーと騒ぐ聖剣を無視し、割烹着を脱いだシロは白と青が混在した服にプリッツスカートと言った衣装で聖剣を手に取った。
「それじゃあ、勇者の出陣よ!」
※
シロの協力を取り付けた僕はチャリオッツさんの協力を得るために、彼がいるという首都郊外にある丘へと足を運んだ。
「というか、あたし1人でも別にいいんだけど?」
「念には念を……味方は多い方がいい。だいたい、お前が戦っている間に誰が僕を守るんだ?」
「あんたは外で待ってれば?」
「誰が道案内するんだよ」
入り組んだ地下水路の先にある地下牢――現状、エルフィーナさんのいる地下牢までの道のりを知っているのは僕だけだ。
完全に足手まといな僕が地下水路へ行くのだから、シロだけではなくチャリオッツさんにも協力してもらった方がいいはずだ。
「そういえば……チャリオッツさんって結構自由なんだな。今は人間の奴隷みたいな立ち位置なのに」
「そのチャリオッツってのが噂通りの人物なら、そもそも拘束したところで意味がないからでしょ。お姫様を手にしている限りには裏切らないって自信もあるんだろうけどねー」
「ふーん……」
しばらくし、僕たちはチャリオッツさんがいると聞いた郊外の丘までやってきた。
見晴らしのいい丘からは広大な森林が見える。
その丘上には白亜の甲冑に身を包んだ大男――チャリオッツさんが槍を地面に突き刺して座っている。
「チャリオッツさん」
と、僕が声をかけるとチャリオッツさんがこちらを振り向いた。
兜の隙間から鋭い視線を感じる。
「む……何用かな。見たところ軍の関係者ではないようだが」
「僕のこと覚えてませんか? 捕虜の引き渡しの時に……」
「ああ……あの時の少年か」
「はい。僕はクロ・セバスチャン……こっちはシロです」
僕は地下牢でエルフィーナさんと話したことをチャリオッツさんに説明した。
「そうか……姫様と」
「信じて……もらえますか?」
「ああ……信じよう。少なくても少年が嘘を言っているようには見えなかったし、そんな嘘を言うメリットも感じられんからな……それに……」
チャリオッツさんは僕から視線を外すと、再び丘かた見える森林に目を向ける。
「我輩と姫様が幼馴染であることを知っているのは、同胞の中での我輩と姫様だけであるからな……少年の話は十分に信用できる」
「それじゃあ……!」
「うむ……協力させていただこう」
「……!」
これで必要なパーツが全て揃った――あとは、エルフィーナさんを助け出すだけだ……!
「しかし、不死を無効化する剣か……少女はなかなか珍しいものを持っているのだな」
「ふふん。すごいでしょ? なんてってあたしは勇者なんだから!」
「勇者? 勇者というとあの伝説の英雄か……はは。それは頼もしい限りだ」
「……ねえ? ぜんぜん信じてないでしょ? なにその子供をあやす感じ!」
「いやいや信じているとも。ははは」
「絶対信じてない!」
「おい自称勇者。小さなことで怒るなよ。器が小さい」
「あんた協力してもらってる身でよくもそんな口が聞けるわね!?」
僕もそう思います。
閑話休題。
「さて……故郷の眺めも堪能したことだし、そろそろ行くか」
「あの森林が東南森林だったんですか」
「うむ……我ら森エルフ族の故郷だ……姫様を無事に助け出し、この戦争が終わったら……我輩は同胞たちとあの森に帰って静かに過ごすのが夢なのだ」
「ねえ、なんでちょっと死亡フラグっぽいの出してるの? やめてくれないかしら? 先行きが不安になるから」
「む? す、すまぬ……?」
「まったく! こんな死亡フラグを立てるやつなんかと一緒にいられないわ!」
「いや、お前それも死亡フラグだぞ……」
こうして僕はアルバイトの自称勇者とフラグ建築士の騎士と一緒に、地下水路攻略に乗り出すのだった。