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聖剣と魔王


 その日、魔王の執務室では……。


「……」


『……』


 聖剣と魔王が顔を合わせていた。


 聖剣を執務室まで持ってきたアイリスは、どこか楽しそうな表情で状況を静観している。


 さて、仕事のしすぎで頭の回っていない魔王は――ガシガシと頭を掻いて、盛大なため息を吐いた。


「……ったく。聖剣が単体で、俺の前に現れたってのは……どんな状況なんだ?」


『わしが聞きたいわ!』


「あーうるせぇうるせぇ! 過労死寸前の頭に響くから、叫ぶんじゃねぇ!」


 魔王が額に手を当てて叫ぶと、アイリスが不思議そうに首を傾げた。


「……? もしかして、その聖剣がなにか喋っているのですか?」


「んあ? ああ……まあな。一種の、テレパシーみたいなもんでな。選ばれし勇者だけが聖剣の声を聞くことができるとか……」


「え? じゃあ、魔王様って選ばれし勇者なのですか!?」


「ちげーよ……話は最後まで聞け。選ばれし勇者だけがーなんざ言われてるが、実際は違う。さっきも言ったが、テレパシーの一種だからな。こいつと魔力の波長が合えば、誰でも声は聞き取れる」


「魔力の波長が合えば……」


「俺はこいつの波長に合わせてるから、もともと波長が合うわけじゃねえがな」


「おお! なるほど……波長を合わせればいいのですね。よっと……」


 アイリスは魔王に言われた通り、魔力の波長とやらを聖剣に合わせた。


 すると……。


『このー! 魔王め! 今ここで成敗してくれるわ!』


「あ、聞こえた」


『!?』


 魔王のみならず、アイリスにまで声が聞こえてしまった聖剣はギョッとして、ビクッと刀身を震わせる。


『うおい!? ま、魔王! 余計なことを言うでない! なんかわしのありがたみが、薄れてしまうであろう!』


「あーうるせぇー! だいたい、ありがたみもなにも、不死身を無効にする以外、大した力もない癖に聖剣とかおこがましい! お前が活躍できたのは、先代の勇者が強かったからだからな!?」


『ああ!? き、貴様! 今、わしに向かって言っちゃいけないことを言ったな!?』


(閑話休題)


 聖剣は気を取り直すためか、こほんと咳払いした。


『ふん! それで、これからわしをどうするつもりじゃ!』


「ああ? あー……そうだなぁ。よし、アイリス。こいつを路地裏でラーメン屋のバイトをしているシロのところに、返してやれ」


「!?」


『!?』


 魔王の発言に、アイリスだけでなく聖剣も驚いた。


『ど、どういうつもりか! というか、なぜラーメン屋でバイトをしていることを知っておる!』


「ハハ。バレないとでも思ったのか? テロ事件の首謀者として、てめえの持ち主――シロの顔は割れてたしな」


 魔王は面倒臭そうに耳の穴を小指で掻きながら、説明を続ける。


「ちょうど、その頃はルーシアの家出で、城下町に人員も割いてたからよ……。ルーシアならともかく、ひよっこの勇者を逃すほど、うちの警備はザルじゃあねえ」


『う!?』


「……それより、魔王様。なぜ聖剣を勇者のもとに返せと? テロ事件の首謀者であるにもかかわらず、捕らえないこともそうですが……いったいなにをお考えで?」


「ハハ。気になるか?」


「はい。聖剣は不死を無効にします。テロ事件の首謀者の狙いは、魔王様だけでなくお嬢様も対象のようですし……魔王様が、お嬢様を危険に晒すことをお考えになるとは考えにくいのです」


 アイリスは、魔王がそれだけルーシア大好き好き好きフリスビーなのかを、よーく知っている。


 その魔王が、聖剣を持ち主へ――というのは、あまりにも不自然だ。


「ハハ。ハハハ。まあ、ちょっとあいつとの約束っつーかな……」


「え? 約束でございますか? いったい誰の……」


「先代の勇者だ」


「え?」


 魔王は椅子から立ち上がり、アイリスの持っていた聖剣を手に取る。


『ぬお!? 汚い手で触るでないわ!』


「ハハ。こうなっちまったら、聖剣も形なしだな」


「えっと……魔王様?」


「おう。今、説明してやるよ」


 魔王は言いながら、生意気な聖剣に嫌がらせのつもりか、聖剣をぐるぐると振り回し始める。


『ぐおおおお!? や、やめろおおお!』


「こいつの今の持ち主……シロは、先代勇者の娘だ」


「先代勇者の!? ということは、自称でもなんでもなく……正統な勇者の後継者だったのですか」


「そういうことだ」


「確証がおありなのですね」


「まあな。シロが生まれたばかりのころ、会ったことがあるからな」


『なに!? わしはそんな話を聞いた覚えは……ぐおおおお!? 目が回るううう!?』


「ハハ。その時にちょっとな……」


 と、魔王が昔のことを思い出す。


「あのバカ野郎は、『もしも、俺の身になにかあったら――その時は、俺の子供たちを頼む』って、敵だった俺にそんなことを言ったんだ」


「そのようなことが……」


「ハハ。で、そのあと――勇者の野郎は、味方に騙されておっ死んでな。しばらくして、勇者の嫁が俺のところに訪ねてきたんだ。どうも旧人間国の方は、内乱で酷い有様のようでな……。『私の力では、この子たちを守れません』なんて言って、俺に子供を預けてきたんだよ」


「ええ!? そうなのですか?」


「ハハ。あいつ、ずいぶんと勇者に似てきてよ。立派に育ったもんだ」


「そ、そうなのですか……事件のことと言い、少しやんちゃが過ぎると思いますが」


「んあ? まあ、たしかにやんちゃが過ぎる気もあるな……ルーシアの件とかな。あいつの子供とはいえ許せねえ……」


「そうですね……お嬢様を傷つけたことは許せませんね」


 などと、うんうんと頷き合うアイリスと魔王を、はたから見ていた聖剣は――はて? と、頭上に疑問符を浮かべた。


『むー? なんというか、こやつらの会話……噛み合っているようで、噛み合っていないような……?』


 そんな聖剣の疑問も2人には聞こえていなかったみたいで――こうして、聖剣は無事にシロのもとへと返されることとなった……。


少し更新頻度が落ちます。


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― 新着の感想 ―
[一言] えっ勇者そっちなの
[良い点] 面白いです。 [気になる点] 「ハハ。」が多いことが気になります。
[気になる点] 名前からしてそんな気してた (・・・)だからあの時魔力の波長合わせなくても聖剣の声が聞こえたのかな?
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