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泣き虫な幼馴染

「あ、魔王」


 まだ十歳にも満たない歳の頃。

 今も住んでいる家の外で日向ぼっこをしていた折に、金色の髪と髭をこさえた魔王ゲーティア・トワイライト・ロードが現れた。

 隣にはアイリスさんが立っていて苦笑気味に僕を見ていた。


「こ、こら……魔王様とお呼びしないと……」


 そう言ったアイリスさんを魔王が手で制した。


「フハハ! 構わん。俺は魔王と呼ばれる方がよい。こいつは俺の息子みたいなもんだからな。様付は不要だ」

「魔王様がそうおっしゃるのなら……」

「フハハ! それより坊主。綺麗な黄昏色の髪をした、それはそれは可愛い女の子を見なかったか?」


「黄昏色……?」

「分かりやすく言えば金色だ。金色をいっそう綺麗にした色だ」

「金色をいっそう綺麗にした色が分からないけれど、それはそれは可愛い女の子なんて見た覚えないな」


 僕がそう答えると魔王は、「ここもハズレか」と肩を落とした。


「その子がどうかしたのか?」

「いや……まあ、坊主には話してもいいか。おいアイリス。説明しろ」

「かしこまりました」


 アイリスさんは頭を下げ魔王よりも一歩前に出た。


「実はだね。その女の子というのが魔王様のご息女でね。昨日から行方不明になっていらっしゃるのだ」


 話を聞くと、魔王の娘は以前から城を抜け出しては下町へ遊びに行っていたらしい。

 いつもなら警備兵が、城を出た時点で気付くので未遂で終わるのだとか。

 昨日も例の如く魔王の娘は城を飛び出し――追手をまいて行方不明になったという。


「フハハ! さすが俺の娘だ。城の精鋭部隊の監視をすり抜けるだけでなく、追手もまくとは!」

「笑い事じゃないです魔王様……」

「まあ、坊主のところに来てるわけがねえよな。あいつはこの場所を知らないからな」


「じゃあ、なんで僕のところに来たんだ」

「顔を見に来たついでさ。いないだろうと思っていたところにいやがるんだよ。うちの娘は。フハハ!」


 魔王の娘は、珍獣かなにかなのだろうか。

 魔王は間の抜けた笑い声とともに踵を返すと、


「それじゃあ、俺は娘を探しに戻る。いずれまた来る。いくぞアイリス」

「かしこまりました。それじゃあね、クロくん」


 二人は僕に別れを告げると下町の方へと歩いて行った。

 残された僕は、さて洗濯物でも干そうかなと家の方に振り返ると――なにやら家の陰に誰かいるのが見えた。


「ん?」


 気になって近寄ってみると“誰か”は物陰からひょっこりと頭だけ出して、僕の方をじっと見つめてきていた。

 よく見ると、それは可愛らしい少女であった。

 肩口まで伸ばした金髪に真っ赤な瞳。


 白いうさぎの人形を大事そうに抱きしめた、それはそれは可愛らしい少女である。

 少女はしばらく僕をじっと遠くから眺めた後、物陰から出てきた。


「誰?」

「は、はわわ……わ、わたくしは、りゅ、りゃう……ルーシア・トワイライト・ロードでしゅ……!」


 カミカミだった。


 これが僕とルーシアの馴れ初めである。

 その後、僕はルーシアが魔王の探している娘であると知った。

 ルーシアの話を聞くと、城を抜け出して下町に出られたのはいいが、すっかり迷子になってしまい、城へ帰れなくなってしまったそう。


「うう、お父様に叱られてしまうのだわ……ぐすんっ」


 と、ルーシアは泣きながら家に帰りたいと僕に訴えてきた。

 僕としては、どうして下町からでもよく見えるバカでかい魔王城に帰れないのかが理解できなかったわけだが……ともかく。


「じゃあ、僕が君を家に連れて行ってあげるよ」

「ほ、本当に⁉︎ あ、ありゅ……ありがどうございますわ!」

「別に。魔王には恩もあるし」


「あ、あの! あ、あなた様のお名前は?」

「え? ああ、僕はクロだよ」

「クロ様……その……よろしくお、お願いしますわ!」


 口ったらずな感じで、ルーシアは僕に道案内をお願いした。

 こうして僕はルーシアを連れて、郊外のボロ家を後にすることとなった。

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