現代ライフライン
「……………」
阿部のんちゃんは、異世界から地球の日本にやってきた少女である。
移住してきた頃は戸惑いが多かったものの、今では環境に慣れてきている。
そんな少女がふと思った事である。
「ふぇー……」
◇ ◇
「どーぞ。のんちゃん」
「ありがとうございまーす」
とある喫茶店にて、のんちゃんはりんごジュースを頂く。店主のアシズムは他の注文がない事で
「相談かなにか?」
「のんちゃん、気になっているんです。アシズムさん、答えてくれます?」
「私にするとは珍しいね。ミムラちゃんや広嶋くんは頼りにならないと?」
「うーん……アシズムさんが今、暇かなって?」
「それでアテにされるのはちょっと辛いものがあるね……」
見た目は老店主であるが、老いているとかいうレベルではなく、のんちゃんの異世界人という括りすら超えているもの。人間社会にそこそこ干渉しているだけの、暇人とも言える存在。
だからという意味でもあるが、のんちゃんはちょっと気になった事がある。
「ここでは当たり前みたいですけれど、水や電気?みたいなのがいつでも使われているのって、凄いですね。でも、どーしてそんなに必要なのかなって」
「はぁー。のんちゃんの世界じゃ、そーいう事はなかったっけ?」
「うーん。悪い人とかは使ってましたけど、夜なんて星の明かりだけで十分でした」
「そーじゃないから電気に頼っているのだけれど」
「あ、そうでしたね」
環境の違い、社会の秩序の違い。
「働く人手がいないけれど、のんちゃんみたいな子達があまり働けないのも少し変だなーって。料理屋のウェイトレスはのんちゃんぐらいの子がお手伝いして、お金を少しもらえてましたし」
「あはははは、子供は学業が基本だからねぇ。高校ぐらいからだよ。子供に責任を負わせられないし」
「その高校生もあんまりしていないような」
「大変だからねぇ、働くと学ぶを両立するというのは。それで生きていくというのはより大変だからね。昔は良かったなんて言葉がよくあるけれど、それは本当で。技術が進歩すれば、人間一人にも進歩を問われ、負担というものが増しているんだ」
「のんちゃんにはその進歩が分かりません」
「だろうねぇ。それはのんちゃんが異世界人だからでもなくね。意外と単純だったりするものは多い」
多くが一般人ではあるが、極少数の天才なり、意志のある人がいるものだ。
「昔からライフラインが整備されていたわけじゃない。長い年月を懸けて生み出され、維持されているものだよ。その成果が今あるわけだ。脈々と継ぐモノがあれば、新たな風を起こすモノもいる。途中で果てるものもある。なかなか良さというのは、人には伝えられないものじゃないかな?」
「…………もっとこー。計画的に生きないんですかね?晴れた日にだけ洗濯すればいいし、外食なんて色んな種類がある必要性もないです。似たような店舗は統一した方が良いと思います。のんちゃん!人手不足で困っているならなおのことです!」
理想をぶちまける。
効率だったりを、こんな一瞬で思いつくのはその時の都合だけである。
便利な事をより便利するなら、そーいう事は誰しも分かること。
「ずーっと雨だったり、外食に好みを求める楽しさもあるし、店舗の統一としてもそのスペースの確保も大変なものだからねぇ」
理想を砕くのはいつも現実だ。
誰だって未来がこうなるとは、思ってもみなかったりする。
「効率や便利に追求するのんちゃんもいれば、金を求めて利益ばかりを求める経営者もいる。自由な時間を重視する人もいる。人の考えも多様化してきているものだよ。それも今の時代にしか分からない事だよね」
「むーーっ……なっかなか、変わらないんですね。
「便利なものは使いたい。その気持ちは分かるだろう?」
「むぅ」
ストローでりんごジュースを頂くのんちゃんは、何かに怒っているようだった。
「ところでなんでそんな話を?」
「ミムラさん。のんちゃんが寝てるときに、五月蝿い洗濯機や乾燥機使うし。テレビやネット動画で笑ってたりして、睡眠妨害してくるんです!のんちゃんだったら、ミムラさんが寝てる朝にやります!」
「それ、ミムラちゃんが今度、私か広嶋くんに相談するオチじゃないかな?寝る時間を同じするのは大変だものね」
単純な人手不足にしろ、インフラ系の職業って不人気ですね。
肉体労働だったり、資格が必要だったりで面倒なのは分かりますがね。
逆の考えですが、資格と必要なスキルさえ身に付けば、職には絶対困らない裏返しなんですが。
色々と社会がこれから動きそうで、辛い事は多々ありますが、社会の働きが変わりそうなところを直に確認していきたいなぁって、この頃思って、働いています。