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女が髪を切る理由

 鏡の中の自分を見て、雪乃は心の底から溜め息をついた。


 まさに不機嫌女王降臨ね。


 土曜日に和幸と大喧嘩をして、日曜日の夕方に無理言って美容室の予約を入れて、ベタに髪を切って、それでも吹っ切れなくて、一晩中鬱々とスマホいじってりゃあ、こんな顔にもなるわよね。


 5年ぶりのショート。痩せ気味の私は髪を短くすると、キツイ女に見られがちなんだけど、そんなことは構っていられない。ありがちだけど、なんか気分を変えないと。


 寒い。昨日の夜のニュースで、今夜には木枯らし一号が吹くという予報を流していたのを思い出す。地下鉄の階段を上がって、右に曲がり五分ほど。会社のあるビルのロビーに入る。同僚の姿が何人か目に入るが、今日の私には話しかけない方がいいわよオーラを漂わせながら、雪乃は高層階用エレベーターに乗り込む。


「雪乃先輩……ですか?」


 19階で人がどっと降りて、二人だけになったと思ったら、後ろから男性から声が掛かった。誰だよ。


 星野だった。5期後輩、彼が入社した時に研修の講師をしたのが最初の出会いで、その後、なにかと懐いてくる。体育会系のガッチリした容姿に似合わない、細かな心遣いのできる奴ではある。しかし本日私は絶賛御機嫌斜めであるから、横目で睨んで、小さく頷くだけにとどめる。挨拶も無し。我ながらひどい。


「おはようございます。ショートカット、似合いますね」

 星野が声に驚きを乗せて言う。そうか、星野は私がショートだった時代を知らないんだな。


「それ、セクハラ」

 そう言って、私は星野を蹴飛ばして、22階でエレベーターを降りた。

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