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わんこ戦記 ~ ボクをバカ犬と呼ばないで  作者: Roxie
キャピタル・ヘリストン編、あるいは友達が欲しいポッチーノの章
12/30

帰るべき場所へ出発しました。

 キャピタル・ヘリストンに朝日が昇る。

 吊り上げ橋も降りて、街の外へ行き来する人も現れ始めた。

 そんな中、マハジャーラ家ではCやポッチーノと共に朝食の時間となっていた。

 久々に食べるあつあつのトーストに、ポッチーノはすっかりご満悦だったが、

「朝食中、失礼します」

 と、使用人セブールが1枚の手紙を持って食堂へやってきた。ンディーヤは顔をそちらに向け、

「どうかしたかい、セブール」

「先ほど、玄関の扉の下にこの手紙が挟まっているのを見つけましてな。恐らく、夜中に届けられたものでしょう」

「それならハウス・ポスタルの仕事じゃねえな」

 とCが口を挟む。配達員は、受領サインをもらえないやり方では手紙を配らないのだ。

 ひとまずンディーヤがその手紙を受け取ったが、その表を見て、

「なんだ、レインクルス君からか。君宛てだ、C君」

「俺に?」

「ああ。もしこの家へ宿泊していたなら渡してほしいと書いてある」

「回りくどいな、あいつらしくねえ。悪い魚にでも中ったかな」

 とCは不可思議そうな顔をしながら、その封筒を受け取り、中身を読み始めた。

「えーと……。『昨晩、言い忘れていたことがある。私としたことが、名誉分隊長との会食に浮わついてしまい、このような形で伝えることになってしまったことを、まずはお詫び申しあげたい』……。あいつは本当に堅苦しくていけねえ」

「そこがレインクルス君の良い所じゃないか」

 とンディーヤがコメントした。

 Cはそこから先は、手紙を黙々と読んだ。

『近頃、キャピタル・ヘリストンを中心に、獣人廃絶を謳う過激な民兵組織が活動している。彼らのやり方は法も何もあったものではないため、我が青旗騎士団は取り締まりの対象としているが、その方針を支持する民衆も多く、組織は力を増す一方だ。もし君が後輩の身を案じるなら、以後できる限りこの王都への接近は控えるよう忠告することを勧める』

 これが全文だった。

 Cは少し顔をしかめたが、

「何て書いてあったの?」

 というポッチーノからの問いに

「大したことじゃねえ。単なるデートの誘いだ」

 そう適当な答えをして、

「あのレインクルス君が?」

 と、ンディーヤを驚かせたのであった。


 朝食が終われば、いよいよ出発である。

「世話になったな、ンディーヤ」

「泊めてくれてありがとう。助かったよ」

 Cとポッチーノは、マハジャーラ家の屋敷を出るところだった。

「気をつけてね。ポッチーノ君も、また来てくれたら歓迎するよ」

 と、ンディーヤが見送ってくれた。

 大通りにはもう、行商人の姿がちらほら見受けられる。さすがは首都、エンドポイントにも負けないほど商工業の方も活発なようである。港の方を見れば、大きな帆船がいくつも並んでいるのが遠巻きに見えて、初めて見る実物の船にポッチーノは感動した。

彼女は知らなかったが、この辺には屈指の豪商“シップマン海運”が世界各地より集めた商品の一部を卸すので、キャピタル・ヘリストンはこの国の流通を語るうえで欠かすことのできない重要な港町でもあるのだ。

 行きかう商人に交じって大通りを歩きながら、

「これからどうするの?」

 ポッチーノはCに尋ねた。

「もう配達先はないからな。まっすぐボスのところに帰るぞ」

「お土産はいらないの?」

「旅行じゃねえんだぞ。第一、キャピタル・ヘリストンみたいな近場でいちいち土産なんか買ってられるかよ。そういうのはせめて、もっと遠出したときに考えろ」

 と、Cは呆れながら言った。

 実のところ、ポッチーノをここへ無駄に長居させることは、レインクルスからの忠告もあって控えたかったのだ。

「それもそうだね。じゃ、帰ろっか」

 とポッチーノは言いながら、もう1度だけ街を見返した。あわよくば、またトリバーに会えるかもしれないと思っていたのだが、あちらは見習い職人なのだ。暇なわけがない。

 仕方ない。それに、何も永遠の別れではないのだ。次来たときにでも探してみれば良いと思いながら、ポッチーノはCについて街を抜けて城壁の門をくぐった。

 昨日は衛兵より呼び止められたポッチーノも、今日は何も言われなかった。おそらく、都市から出ていく分には構わないのだろう。

 城壁の外には見通しの良い平原が広がっている。

「行くぞ。全速力でついてこいよ」

「うんっ」

 Cは、火の粉を撒き散らす大鳥へ瞬く間に変身したヴァローナに飛び乗った。ポッチーノも、トリバーからもらった靴で走り出す。あまりの猛スピードに、それを目にした門の衛兵たちはしばしポカンとしていた……。

 草原地帯をしばらく進むと、遠目に農家の集落が見えてきた。無論、集落の中を全力では走れないので、そういうところは避けて通ることになる。

 この辺では良質な大麦がたくさんとれるので、キャピタル・ヘリストンやエンドポイントで消費されるパンは大麦粉を使っているものが大半である。

 ──平原を越えると、少しずつ地面が荒地になってきた。来も草もなく、乾燥しきった地は簡単に砂煙を噴き上げた。

 ここまでくると気温も上がり、スナザメの襲来にも備えなければいけなくなってくる。

 火照ってきた体を冷ますため、汗をかくのが苦手な獣人であるポッチーノは大きく呼吸を繰り返した。砂漠の乾いた風が心地よくて、足を止めれば暑さで死んでしまいそうだ。

 トリバーが作った靴は、ポッチーノの恐るべき走力にもびくともしていない。──良い靴をもらった!

「夕方までにはつけるかな」

 とポッチーノが呟いた、そのとき。

 背後から吹き抜けた追い風が含んでいた砂鉄の匂いを、ポッチーノの鋭い嗅覚が捉えた。

 なんだろう、と思うと同時に、今度は足音が少しずつ近づいてくるのが分かった。本気で走るポッチーノへ追走できるのだから、かなりの速度だ。

 ポッチーノは振り向いて──、目を丸くした。追跡者の正体は、明らかに普通の犬を凌駕するスピードで疾走する、砂鉄に覆われた漆黒の狼だった。

 普通の人間なら、狼に追われているというだけでも恐怖しただろう。だが、犬性の獣人というものは往々にして犬に好かれやすく、ポッチーノは犬を見るとまず自分の仲間だと思うのだ。

 その砂鉄の狼はポッチーノに追いつくと、まず彼女の横に並び、最初から並走することが目当てだったかのように速度を緩めた。少なくとも、捕食対象としては見られていないらしい。

「君、速いんだね」

 とポッチーノが砂鉄の狼に話しかけた。すると、その砂鉄の狼は首を少しこちらに向けて

「よう、犬っころ」

 と、老婆のようなダミ声でポッチーノへ語りかけてきたではないか。人の言葉をしゃべる狼なんて、聞いたことがない。

「しゃべれるの!?」

「見ての通りだ」

 その砂鉄の狼の顔は、どことなく笑っているように見えた。それだけでもポッチーノにとっては驚くべきことの連発だったが、

「おまえが、ポッチーノ・ワンコロフか?」

 と、砂鉄の狼はいの一番にポッチーノの名前を言い当ててしまった。

「えぇッ!? ボクのこと知ってるの!?」

「話は聞いてるよ。ハウス・ポスタルの新米配達員、ポッチーノ・ワンコロフ。──どうやら、うちのリリッキーが世話になったらしいじゃんか」

「リリッキーが?」

 ポッチーノは小首をかしげた。

 この砂鉄の狼、リリッキーと知り合いなのだろうか。

「もしかして君は……、リリッキーのペットなの?」

「私があいつのペット、か。ハッ、たいしたドッグジョークだ」

 砂鉄の狼は鼻で笑った。

「私のことは、おまえの飼い主にでも聞いてみな」

「飼い主って、ボスのこと?」

 とポッチーノが尋ねかけたとき、前方にそびえ立つ砂丘の死角から嫌な奴がのっそり姿を現した。

 この距離から姿が見えるほどの巨体。見間違うはずがない。この砂漠の生態系の頂点、マチクイムカデだ。

「うっ、また会っちゃった!」

「なんだ。あんな虫けらが怖いのか」

「そりゃあ怖いよ。君は怖くないの?」

「……答えてやるのも億劫になってきたな」

 と砂鉄の狼は言うとポッチーノを置き去りに、マチクイムカデの方へ急加速し始めた。マチクイムカデもその王都の城壁にすら匹敵する巨体で、こちらへ突進してくる。

 あの狼ちゃん、ちゃんとあのムカデから逃げ切れるのかな、とポッチーノが心配したその瞬間。

 ──前方に見えていたマチクイムカデの巨体が、頭からしっぽまで縦真っ二つに両断されてしまった。左半身と右半身がそれぞれ、砂丘の上に倒れ伏す。

 鋼鉄の剣ですら傷ひとつつけららないと謳われる、超硬質の外殻をたった一瞬で……。

「おい、犬っころ!」

 ヴァローナに高度を下げさせながら、Cがポッチーノへ呼びかけた。

「今のはいったい何だったんだ? あの化け物ムカデを一発で──」

「分かんない。ボクにも、一体、何が起きたんだか」

 ポッチーノは走りながらも肩をすくめてみせた。

「ひとまず、おまえがケガしたわけじゃなきゃ何でも良いが、襲われなかったか?」

「ボクは全然。でも、今の狼ちゃん、ボクのこと知ってたよ」

「何だと?」

 Cが片眉を上げる。

「それにボクがハウス・ポスタルの一員だってことも。あと、リリッキーの知り合いみたい」

「リリッキーっていうと、確か、あの金貸し蛇人か」

 Cは、嫌な奴のことを思い出してしまった、とばかりに嫌な顔をしたが、急にハッとして、

「待てよ。まさか……」




「頼むよ、姐さん」

「もう俺たち、懐がすっかり寂しいんだよぉ」

 と、ヒョルモーとデイデイはそろって上司のリリッキーに頭を下げていた。

「だーかーらー、アタシは、相手が誰だろうと無利子で金は貸さないって決めてるんだよ」

 リリッキーは部下の懇願をまともに取り合わず、床の上に腹這いになりながら帳簿を更新していた。蛇人にとってうつ伏せに寝るというのは最も楽な体勢であり、リリッキーは客がいない間は大体こうしてリラックスしている。

「給料の前貸しだって同じだっつの。第一、ツケでバカみたいに買い物しまくったおまえたちが悪いんじゃん。アタシは無償で部下の尻拭いしたくないんだけど」

 ──ことの始めは、ヒョルモーとデイデイが蛇人のスラム街で派手に浪費したことだった。

 何せヒョルモーは煙草、デイデイは間食が大好きで、リリッキーから渡される日当なんかすぐに使い果たしてしまう。それどころか、金が足りない分はツケで購入してしまうのである。

 そしてツケの催促が来るとリリッキーに泣きつく。まあ、いつものことである。債務者には威圧的に振舞う彼らも、実は慢性的な金欠でリリッキーによく頭を下げているのだ。

「つーか、日当でコツコツ返していけよ。楽な方、楽な方に転がりやがって」

 と、リリッキーは冷たく突っぱねる。

 こいつらには昔、さんざん苛められたのだ。その恨みを忘れたことはない。

 むしろ自分に媚びさせるためだけに雇っているようなものだ。

「次からはそうするから、今回だけは頼むよ、姐さん」

「俺たち、肩もみ、ツボ押し、何でもするよ」

「触るなキモい。ナメクジ喰って死ね」 

 リリッキーは最早、部下たちの顔すら見ようともせず、ただ帳簿をつけている。

 よくもまあ昔の“カモ”に泣きつけるものだ、プライドという物はないのだろうか、と内心で呆れながら作業を進めていたそのとき、おもむろに店の扉が開いた。

「よう。商売は順調か?」

 と、漆黒のローブを纏った小さな女が、ポッチーノが出会ったあの砂鉄の狼と同じ声を発しながら店へ入ってきた。

 砂鉄まみれの黒いフードを被った顔は老婆のようにシワだらけで髪も白髪混じり。しかし体格は子供のように小さくもしっかりしており、歩き方にも若さがある。

 そのアンバランスな女の声を耳にするなり、リリッキーは跳ね起きた。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 と頭を下げると、先程までの強硬な態度を一転させ、ヒョルモーとデイデイに銀貨を1枚ずつ投げつけた。

「くれてやる。その代わり、今日はもう帰りな」

 それを受けとると、2人は何度も礼を言いながら店を後にした。

 実を言えば、ヒョルモーとデイデイはリリッキーが私費で雇っている個人的な手下に過ぎない。彼女の“ご主人様”が来た以上、2人には、小銭をやってでも速やかに退散してもらいたかったのだ。

「申し訳ありません、ゴタゴタしてしまいまして」

「まあ、いい。それにしても、まだあんな虫けらを雇っていたのか?」

 とその女、ウージー・シャイロック・マゴットニーは笑いながら言った。この店の人事は、店員への給与は店長が払うという条件で、全てリリッキーに任せているのである。

「ちゃんと十分な額の給与はやっているだろう。もう少し有能なのを使ったらどうだ?」

「あのバカどもには何も期待していません。ただ、あれをアゴで使える優越感が好きなだけですよ」

 とリリッキーは笑いながら言った。もちろん、幼少期にさんざんいじめられた当てつけである。なので、この店舗の掃除など、面倒な仕事は全てあの2人に押しつけていた。

「ご心配なく。ご主人様のご期待には、このリリッキーが責任を持ってお応えします」

「ならいい。私の留守中、変わったことは?」

「特にはございません。つつがなく、抜かりなく、営業させていただいております」

「ふーん。あまりトラブルがないのも退屈なんだけど、何かないの?」

 とシャイロックは悪戯っぽく笑いながら言った。

 ──シャイロックは世界中に事業を展開する世界一の金貸しでもある。

 基本的にはハウス・ポスタルに手紙を運ばせて各地の支部と連絡を取り合っているが、大きな商談があると自らその地へ迅速に駆けつけるのだ。これはシャイロックが魔術を使えるからこそできる所業である。

 とは言え、シャイロックが扱う客層は専ら特権階級や豪商・富裕層などで、無担保で金を貸すことはまずない。唯一の例外は、このエンドポイントで貧民向けに高利子・無担保で金を貸しているこの本店窓口である。

 このエンドポイントの事業について、シャイロックは腹心の部下であるリリッキーに多くの自由度を持たせて営業させている。そもそも蛇人を雇用すること自体が非常識的なのに、シャイロックはどの部下よりもリリッキーに大きな権限を与えていた。

「そう言えば、私がここを出る直前、3人組の強盗が来たとか言っていたな」

 と、シャイロックが話を切り出した。ポッチーノも巻き込まれた、先日の強盗事件のことである。もちろんリリッキーは、この件をシャイロックに報告していた。

「はい。債務者には手を上げないというご主人様の方針通り、穏便に追い返しました」

「それは聞いている。で、これがその続報だ」

 シャイロックは笑いながら、ローブより3対の“手”を取り出し、机の上へ放り投げた。何が起きたのかは明らかである。結局、あの強盗どもは返済期限を破り、担保の回収としてシャイロックに手を斬り落とされてしまったのだ。

 この担保回収に、リリッキーは立ち合ったことがほとんどない。その程度の雑務など命じられればいくらでもやるのだが、シャイロックはこの作業だけは決して部下に任せず、帳簿を基に自分の手で確実に行うのだ。しかも、シャイロックが遠方に出張しているときも、不思議なことに担保回収は着実に行われているのである。まさに“魔女の所業”とでも言うべきだろう。

 なお、手を失った債務者について、シャイロックは基本的に放置している。なので止血が間に合えば生きながらえるだろうが、治療を受けられる金があるのなら借金などしないだろう。生きながらえたとしても、両手なしに生計を立てていけるとは思えない。どの道、待ち受けるのは死だ。

「おまえが連中を殺さなかったおかげで、こうして3人分も手に入れることができた」

 とシャイロックは満足そうに、その切断した手を再びローブの中へしまった。

「リリッキー、おまえは良くやってるよ。ここの店長は何度も代替わりしているが、おまえほど器用に立ち回れた奴はいない。おまえのことは、使えなくなるまで使ってやろう」

「光栄です」

 そうリリッキーはにっこり微笑んで、

「これが今期の売上になります」

 と、帳簿をシャイロックに差し出した。シャイロックはここに来るたび、必ず帳簿を確認する。そうして、店長の働きぶりをチェックするのだ。

「……申し訳ありませんが、その程度の赤字となっております」

「構わないよ。こんな慈善事業と大差ないクソビジネスで黒字が出る方が信じられない」

 シャイロックは笑顔で赤字の目立つ帳簿を眺めている。そうして、債務者リストの中に利子の滞納が18日、19日分に達した者を見つけるたび、ほくそえむのだった。20日分に達すれば、証文通り“担保回収”が待っている。

「なるほど。いつも通り、良い働きだ。今夜はこれで美味いものでも喰いな」

 そう言いながら、シャイロックは給与の小切手をリリッキーに手渡した。

「はい、ありがとうございます」

 リリッキーは礼を述べると、ニコニコしながらその小切手をありがたく受けとる。やはり、最ももらって嬉しいものは、労いの言葉ではない。金である。

「そう言えば、リリッキー。ここへ帰ってくる途中、おまえのお気に入りの犬に会ったよ」

「犬、と言いますと……。ああ、あの“ワンコロフの犬”のことですか」

 とリリッキーは言った。ポッチーノが自身を孤児院出身と名乗ったときから、よもやとは思っていたのだ。あとは蛇人の情報網を駆使すれば、簡単にポッチーノこそ“ワンコロフの犬”だと確かめられた。

「別に、お気に入りと言うほどではございません。ただ、あんなお人好しのバカ犬でもハウス・ポスタルに就職できるのか、と記憶に残っているだけでして」

「ふーん。まあ、いい。……奴に訊かれたよ。『君はリリッキーのペットなの?』って」

 とニヤつくシャイロック。リリッキーは唖然とした。

「なかなか面白い子犬じゃん」

「……いや、バカと言うべきか、愚かと言うべきか……。それでご主人様、懲罰なさったんですか?」

「私は、ビジネスの邪魔にならない者には寛大なつもりだよ」

 シャイロックはシシシと笑った。少なくとも表面上は腹を立てていないように見える。むしろ、面白がっているという方が的確かもしれない。

 それでもリリッキーは、

「分かりました。そういうことでしたら、このリリッキーがそのバカ犬を締めあげておきます」

 と言い出す。シャイロックはニヤリと笑って、

「好きにしなよ。ただし、仮にもハウス・ポスタルの構成員だ。あまり乱暴を働くと、あのデスドールに睨まれるよ」

 と、腹心の部下に忠告を与えたが、その目はどこか悪戯っぽく笑っているようにも見えた。

「……ま、たまにはそんな火遊びも悪くはないが」


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