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オートマティスム

作者: 湖城マコト

 私は今日も、薄汚れたノートに右手でペンを走らせていく。


 神様、どうか息子の命だけでも――

 死にたくない死にたくない死にたくない――

 やっと死ねる――


 書き終わって初めて、私は記された内容を知る。考えて書いているわけではない。手が勝手にこれらの言葉を書くための動きを取るのだ。

 書き記される言葉は毎回異なるが、内容から察するにそれらは、全て死のふちに立たされた者達の最期の思いなのではと私は想像していた。

 この世界にはそういった強い念が多く彷徨さまよっている。きっとそれら死者の念が私の手を借りることで、最期の時を文字という形で現世に刻み込もうとしているのだ。


 もう何人分の言葉を書き記しただろうか? 1000を超えた時点で私は考えることを止めた。


 再び私の手が勝手に動き出す。


 どうしてワクチンが効かないんだ――

 何も見えない。あなた、あなた――

 母さん、母さん、母さん――


 いつまでこの自動筆記オートマティスムと呼べる現象は続くのだろう?

 いや、少なくとも終わりはそう遠くはない。あと数週間もすれば私は体内の電力が完全に尽き、活動を停止する。きっと自動筆記もそれと同時に終わることだろう。

 今更ながら二年もよくもった。予備バッテリーを節約しながら目的も無くただ活動し続けていたが、一週間前に唐突にこの自動筆記が始まったことで、私は自身に存在意義を見出すことが出来た。


 人類が滅亡してからもう二年が経つ。致死率100パーセントのウイルスがパンデミックを起こし、世界は僅か半年で滅び去った。

 人々は例外なく物言わぬ屍と化し、動いているのは機械の身体を持つアンドロイドだけであった。

 しかし、アンドロイドの先もそう長くはない。文明が滅びたことでアンドロイド達は電力共有を受けることが出来なくなり、活動限界は予備バッテリーの残量分だけ。やはり、アンドロイド達にも終焉しゅうへんの時は訪れる。


 世界が滅びた今。残されたこのノートを見る者など存在しないだろう。

 それでも私は死者の念をこのノートに書き記し続けようと思う。それが私のアンドロイドとしての、人間への最後の奉仕ほうしのつもりだ。


 文字を刻もう。活動を停止するその時まで――




 三週間後。


 アンドロイドは内部電力を全て消費し、その活動を停止していた。

 

 ペンを握る右手だけは、変わらずに文字を刻み続けている。




 了



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