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魔法を習得………あれ?おかしいなぁ:1

「まだ痛むんだよ………」

「大丈夫?おねーちゃん」


ある日の授業中。私は包帯っぽい植物の蔓を巻き付けた指をさすりながら、そう呟いた。

普段なら心配してくれるアルカくん可愛い………とかほざく余裕もあるんだろうけど、今回は勝手が違った。

ナチュラルにぐつぐつと煮え立つ鍋に触って両手の指を火傷しちゃったからひとまず薬を塗って………なおこの時の薬は普通に薬草を煮詰めて作ったやつ………包帯っぽい蔓を巻き付けたんだけど、よほど酷く火傷したのか、一日経った今でもまったく痛みが治まらない。

お母さんは何やら『これもいい機会だしねぇ………』とか訳わかんないことを言ってたから何か起こるんじゃないかとも思うんだけど………勝城がよく読むラノベじゃあるまいし、まさかねぇ。

それにしても火傷ってこんなに痛むものだっけ?


もしかしてエルフは森に住む種族だから火に弱くて、その弊害で火傷が酷くなりやす………かったりは、流石に無いよねぇ。

あれはただ私が不注意だっただけだし、さ。種族のせいにしちゃいけないと思うんだよ。

でもここはファンタジーな世界だから種族のせいって可能性もあるし、私が火傷したのは元を正せばよく分からない私の体質のせいだ。

結局私がやったことには変わりないけれど、私の意思で原因を作った訳じゃないから私は悪くない………と信じたいな。

自分が悪いのを認めるのって結構大変だもの。

自分でもちょっとダメな思考パターンだなぁ、と思いつつ私はそう思った。


………まぁ、ひとまず私の手の火傷については一旦適当に置いておくことにしよう。

もうこれはクヨクヨなやんだところでこれ以上良くなったりはしないんだしさ。

だったらもういっそ自然に治るまで待つしかないよね。

それに、これだけの痛みに耐えたら少し痛みに強くなるかもしれないからね。

あと、むしろこっちの方が私の火傷のことをひとまず放っておく主要な理由なんだけど………


まるで手が人様のもののようなんだよ。

正確には、右手の火傷した場所に巻いてる包帯っぽい蔓のちょうど下の方で何かがもぞもぞと蠢いてるような感じがするというか、なんというか………もうよく分からないけど、とにかく変な感じがするんだよ。

ハッキリ言ってHPをゴリゴリ削られてる気分。

もはやこの蔓に何か虫でも………ん?虫?

身体の内側がもぞもぞして、虫………


寄生虫?


私はその思考に辿り着いてしまった瞬間、戦慄した。

ダメだ。10代にして寄生虫に寄生されるとかどんだけ衛生状態ダメダメなんだよエルフの里。

寄生虫は寄生虫でも、体を蝕むヤバい方の寄生虫じゃなくて家計に寄生してお金をせびってくる方がまだマシだよこれじゃ………実は前世で真逆の事を言った覚えがありますけど!

でも今考えれば寄生虫暮らしが出来るってことはそれだけカッコいいって可能性もあるわけで………あぁもう、そういうことで考えても家計に寄生する方の寄生虫の方がマシじゃないかぁ!

まだ二十歳にもなってないのに、いきなり大変な寄生虫(モノ)抱えて生きてけとか、どれだけハードな人生なのさ。

チクショウ勝城め、特典を選ぶなら私に超健康みたいなそんな特典を付けてくれれば良かった、いや、それ以前に私は私の特典が何かを分からないんだよ。


私はとうとう寄生虫に10代で寄生されることへの絶望感から現実逃避を始めた。

それはもう、椅子に座って俯いて、頭を抱える姿勢でね。

しかしそのタイミングで不意に、目の前に居たアルカくんが泣き出しそうなほど心配した表情で声をかけてきた。


「おねーちゃん………本当に、大丈夫?」


………はっきり言おう。これは破壊力が高すぎるぞ。なんてものを生み出してくれやがったんだエルフ族は本当にありがとうございました!

普段から私の理性に直接攻撃をかけてくるほどに可愛いアルカくんは今、泣き出しそうな表情によってその魅力を限界以上に引き出している………ッ!

あぁ、このアルカくんを優しく抱きしめながらベッドインしちゃいたい、それどころかこのまま永遠に私が養って………おっと、まずいまずい、今本気で理性を失いかけたね。

良いか、クールだ、koolに、するんだ。そうすれば思わず理性を失いそうなほど正気を失っていても大丈夫、って勝城も………ってクールの綴りが違った。これ正しくはcoolだわ。cool。


ま、まぁとにかく、coolになるんだよ私。冷静になってアルカくんを安心させないと。

泣きそうなアルカくんが恐ろしく可愛いのは分かるけど、それよりまず彼を安心させることの方が優先度は高い。

私はまず深呼吸して………しばらくして落ち着いたらアルカくんの方に向き直って、大丈夫だよと優しげに(少なくとも私にできる最大限の優しさで)語り掛ける。


「ほんと………?」

「うん、ほんとほんと。私めちゃくちゃ元気」


その瞬間に若干手の方に例の蠢く感覚が走って笑顔がぎこちなくなるけれど、それは気合で我慢してアルカくんを安心させ、授業を再開することにした。

今日の授業は………どうしようか。

いつも通り簡単な計算とか、そういうのも良いけれど。

でも今日はあえていつもとは違うものをやるのも良いかもしれない。

ちょっと前から勝城がしつこくやってきたなんちゃらテストっていうパズルとか、まったく訳が分からないけどちょっと見方を変えれば簡単に分かる、とか言ってた問題をやってみるとか、ね。

今日の授業をどうしようかと悩み始めて腕を組んだ。

その時。


「………っ、おねーちゃん!腕!腕が!」


………ほえ?どうしたんだねアルカくん。

突然騒ぎ出して私の腕を指さすなんて珍しい。

なにか変なことが起きてるのかな?

私はさっき組んだばかりの腕をほどいて両腕を見てみる。

左手………異常なし。まぁ当然だね。さっきから何一つ異常は無かったし。安心安全普通の腕だよ。

それじゃあ右手。


………真っ赤………というか赤く発光してるんだよ………


真っ赤、レッド、ほわい?訳わかんないよ。

でも、1つだけ確かなことは真っ赤に光るこの右手………死ぬほど熱い。どれくらいかと言うと今すぐ転げまわりたいくらいに熱い。だけどアルカくんの手前転げまわるわけにはいかない。

結果硬直するしかない訳で………………ってえっちょっなんか右手の内側から変なものが飛び出してくる感覚が………

そこまで考えたところで、私はあまりの熱さに耐えられず気を失った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


………前が見えない。

何時間経ったのかは知らないが私が目覚めた時、視界は完全に真っ白だった。

え?いやなんですかねこれ。

怖いよ、私なんで目覚めた瞬間に真っ白の視界を得てんのよ。訳が分からないんだよ!


『お、ようやく目覚めたみたいだね』


しかも何が何だか分からないだけじゃなくておかしな幻聴も聞こえてくる。

チクショウこれは本格的に私の頭が文字通り熱に浮かされちゃったみたいだぜ。

ははは、これまでなんとかバカとはいえ頑張ってた私の脳ももはや潮時なのか………

こうなっちゃあ腹を決めるしかないね。どうなるのか分からないけどさ。


『いや幻聴じゃないから。むしろ君達からすれば信仰の対象だよ?私これでも精霊王の一角なんだぜ?』


………あ、いやどうなるのか分かった。

勝城が呼んでるような小説に出てくる変な子みたいになるんだ。

たしか勝城は電波系も萌えるよなとか言ってたけど、私自身がそうなるのはまったく嬉しくないね。


『………君、普通ならこのタイミングですでに首チョンパからの肉片ストームして世界中に飛ばされてるよ………運がよかったね』


ああそうですかそうですか………じゃあ電波な精霊王(自称)さんや、私にその名を教えておくれ。

そしたら私も名乗るから。


『ハハハ、私の名前をいきなり聞こうなんて勇気があるじゃないか。でも精霊王の名前をそうやすやすと聞けると思っちゃいけないよ?だって私は精霊王、誇り高き精霊の王なんだから』


………あっそ、それじゃ私はお前のことなんかさっさと頭から追い出してガチで目覚めちゃうよ。

バイバイ精霊王!君のことは忘れない!


私は、自分でもかなり手短にすませた気がしてるやりとりをして、精霊王に手を振った(つもり)。

しかしそこで精霊王は、突如としてかまってちゃん的気質を発現し、引き留めてきた。


『すみませんお願いだから無視しないでというか頭から追い出さないで死んじゃう(消えちゃう)から』


………私、コロコロと態度を変える奴、嫌いなんだよねぇ。

その点勝城は良かったと思うよ。だって常に私をいじる側から態度が変わったりはしなかったもの。

そんな人間を知っている私としては、この自称精霊王は嫌いなタイプというか、微妙に好きになれないというか………ね。

というか死んじゃうなんて大げさだなぁ。私一人の頭の中から追い出されたら死ぬ?

雑魚じゃないか。寄生系のモンスターの中でも雑魚にありがちな寄生相手から追い出されると死ぬって奴じゃないか。

ハハハ、仮かつ自称とはいえ王様を名乗ってるのに雑魚とか情けない。


『くっ………こっちが下手に出たからって良い気になりやがって………』


あぁん?頭から追い出してやろうか?このエセ精霊王。

それが嫌なら今すぐ私の視界を返せや!さっきから真っ白でイライラしてるんですけど!

私は正直コロコロ態度を変えるこの自称精霊王にイラッときて脳内でそう叫んだ。

すると、精霊王はまたも態度をコロッと変えてこちらに視線を向けてきた。


『………へっ、そんなに望むなら見せてあげるよ!君の絶望的な状況をねぇ!』


具体的に言葉にすると、ものすごく私が絶望するのを心待ちにしているかのような表情で。


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