都会から田舎へ
電車は一本二時間待ち、バスは最終18時、それ以降は運行いたしません。 コンビニは10時閉店の一軒のみ。 街灯? 月明かりで十分でしょ、怖いなら夜に出歩くな。 小学校が一つ、中学校一つ、高校一つ。 もう小中高一貫にしてしまえよって思う。交番一つ、駐在さんがいつも笑顔でお茶飲んでる。 オススメスポット? ……強いて言うならば、駅前の大きな(実際デカイのか分からんが) ソメイヨシノ。 これはみんな綺麗と言うね、だから間違いないんじゃないか? だから春に来てくれ。 それ以外で来るな。 何もないから。 俺は今、そんな所でがんばってる。 古くてボロいけど、初めて持った自分の城だからな。 やれるだけ、やってみるわ。
真弓。 俺は挫折しちゃったけどさ、お前は頑張れよ。 こう、なんつうか。 お前は俺とは違うんだからさ。 とにかく一生懸命頑張ってくれ。
P.S. 俺が殴っちゃった立花さん、改めて謝っておいてもらえたらありがたい……
「……まったく。 これ、元カノに送る手紙なの? 陸のバカ」
§
「にーちゃん! クジ、クジ引きさして!」
「おー。 じゃあ10円なぁ」
ランドセル背負ったチビどもが、建て付けの悪い扉を開いて入って来た。 まったく、子供と言うのは本当に元気だな。 こんな真夏に汗だくで走り回って。 なのにその髪の艶めきは理解できんぞ。 なんだ、その歳でトリートメントとか使ってんのかガチんちょども! ビヨーン、と効果音でも出そうな前髪をいじり、少し悔しくなる俺がいた。 そんな俺にニコニコしながら10円渡すチビ達。 くそ、サラサラ男児め! 妬みながらもレジの下から箱を取り出す。
「ほれ。いいか、一枚だぞ? ズルするなよ? その歳でズル賢いと思春期に友人関係で大きなトラブルがーー」
「やまとがさきー!」
「えー! ユウがさきだもーん!」
おい、大大大大、大! 先輩の忠告無視かよ。 なんだ、そんなくだらない話よりクジ引きの順番の方が大事だってか? 俺>順番てか? あ、なんか若干傷つくな……
「喧嘩するなっての! ほれ、大和から引け」
「わーい! やったやった、なにが出るかなぁ……」
「えー、えー、えー。 お兄ちゃん、やまととユウ、どっちがだいじなの‼︎」
「お前は彼女か。それにな、男がそう言う言葉はあんまり使うな、女々しく感じるから。そんで女にも言わせるな、その時点で倦怠期手前だから」
「けんたっきー? ああ! おにく!」
「……そう! お前らにフライドチキンはまだ早い! 俺でもそんな食べたことないーー」
「やったぁ! じゅーすいっぽんだって!」
大和はちっさい紙を俺に見せるように手を高く上げる。 ちっ! 最近当たりばっかり引きやがるからハズレ増やしたのに…… なんだその歳で強運とか逆に将来心配だぞ。
「ゆうはあいすー! お兄ちゃん、はやくー!」
お前もかい! はぁ…… まぁこの小学生コンビには正攻法は通用しないみたいだな。 ハズレを引かせるには全部ハズレにするくらいズルしないと。 あ、俺ってズル賢いな。 そんなズル賢い俺をキラキラ〜、みたいな効果音が必要なくらいキラキラした目で見てくるチビども。 うー、しゃーない! こんなチビ達でも大事なお客さんだ! そう思い込み、瓶ラムネとバニラアイスを取り出す。
「だれもこないねぇ」
「ねー、いつもどおりだれもこないねぇ」
「ああ、悲しいくらい誰も来ないな」
店の外の赤色のベンチ。 ラムネとバニラアイスと小学生と俺(店主)、駄作間違いなしの作品タイトルのようだ。 え、でもそれじゃ俺と言う存在が駄作と言うことに……いやいやそんな事ないからな!
「お兄ちゃん、いつはたらくの〜?」
「はたらくの〜?」
「あはははは。 僕たち〜? そのラムネやアイスが食べられるのはお兄ちゃんが一生懸命働いてるからだよ〜?」
「「うそだぁー」」
よし、叩く。 モグラ叩きなみに叩き尽くす。 こんのがきんちょども〜! 俺をニートだとでも思ってんのか! 確かに今はお前らとベンチに並んでグータラしてるけども! だけどな、色々見えない所でやりくりしてんだぞ! それを知らずにこんのやろう〜!
「おねぇちゃんのほうががんばってるよねぇ」
「うんうん! やさしいし、おもしろいし、きれいだし、おもしろいし!」
おい俺はそんなつまらないか? 面白いと二回繰り返すほど、あいつは面白く俺はつまらないと⁉︎ こんな結果を納得できるだろうか! いや、できない!
「おまえらなぁ…… あいつはーー」
「陸さん! ごめんなさい、先生に呼び出されてて……」
肩にかかるくらいの黒髪。 切りそろえられたパッツン前髪、それを違和感無く魅せれるのは、パッチリと開いた目力によるものか。 およそ美人、と言う基準がよく分からないのだが。 間違いなく可愛い、と言う意見がマジョリティだろう。 真弓が綺麗系なら、こいつは可愛い系なんだろうな。
「あー! しのおねーちゃん!」
「あ、大和くんに遊くん! またクジ引き当たったの?」
「うん! ゆうはね、アイス当たったの!」
「わー! 凄いねぇ、偉いねぇ!」
「おねぇちゃんにもあげるー」
そう言って、遊は木のスプーンとカップアイスを紫乃に渡す。「ありがとー!」などと言いながら紫乃はなにも気にせずにアイスを一口食べた。 その光景を見てた俺、一人思った。 ……もしも同い年だったら、恥ずかしがるか遠慮するのワンアクションがあったんだろうな。 子供って、怖い!
「あ! 店長、すぐ準備しますから!」
「いいよ 慌てなくて。 どーせこいつらしか今は客いないし」
「もー。 そんなんじゃ本当に潰れちゃいますよ! ほら、立った立った!」
そう言って俺の腕を引っ張り無理やり立ち上がらせる。 まぁ生真面目なのは結構なんだがなぁ…… まぁ、いいか。
真弓。とりあえず俺はここで頑張ってみてる。 俺の城、佐久間商店で。
「てんちょー! 早くー!」
「わーかったっての!」