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夢で想う

川岸の堤防の上に、少女が一人佇んでいた。

家々から香る美味しそうな香りや、犬に散歩をさせている女性、日課であろう散歩をしている老夫婦達の中にいて、少女の周りのみ空間が孤立しているように見えた。

少女は向かいの山の稜線上に赤々と燃える夕陽を背にし、こちらを振り向いた。

振り向きざまに、赤い照明が照らした彼女の顔はとても美しく、この世の物とは思えなかった。彼女につられ翻る長い髪は黒色で、外側に一房二房とはねた癖っ毛だった。

彼女は私を真っ直ぐに見据えている。

その表情は温かく、どこまでも優しく、しかし人が人に向けるソレとはどこかが違っていた。

「あなたは一人しかいない、だから大丈夫だよ」

幼い声色ではあるが、その落ち着きをはらった話し方は、可愛いらしい見た目とは一致していなかった。

「君は寂しいだけなんだ。だけど君には、私がいる。」

そう言い終えると彼女は歩みよってきた。彼女は私に話していた。

「屈んで」

私は言われるがままにした。

逆らおうなどとは、微塵も思はなかった。

彼女は私を抱き締めた。

石鹸の香りが僅かにした。

小さな胸が頭にあたり、どこか興奮を覚えた。

けれどもそれ以上に、温もりを感じた。

それはまるで、母の腕の中で眠る赤子の様な感覚。

少女と母、一見相反するようで、同一線上にあるもの。

私は彼女の胸の中で、ありきたりな事を考えていた。

ああ、この時が永遠になればいいのに、と。

しかし、時の流れという無形の怪物は、天使の様な彼女と私との大切な時間を喰らい尽くす。

形もないのに、食欲をもつ、罪深いバケモノ。

気がつくと私は、いつも通りの朝をベッドで迎えていた。

私を抱き締める温もりなど、一縷も感じられない。同じ空の下に彼女はいない。

そして、いつも通りの日常が始まる。今晩も彼女に出逢えると信じていた。

信じたかった。


かつてみた夢。

まっかな夢。

ただの夢。

起きたら消える、それだけのもの。

記憶の中にしかないもの。

脳内で生まれ、脳内で消える。

それだけ。

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