閑話 デール
今日も更新更新。
デール視点の話になります。一応今度こそプロローグ終了
俺の名はデール。
しがない木こりだ。
聖アルカディア光国にある故郷の森の木こりとして生計を立てている。この森は代々俺の家系が守人として住んできた土地である。
俺は森に縛られ、ただ人生を送ることが嫌で家を飛び出した。冒険者になって一旗揚げてやると意気込み旅に出た。
最初のうちは順調であった。次第にできること、気の合う仲間が増えていった。
しかしとあるクエストでヘマをこいた。仲間のミスからフォーメーションが崩れ、魔物に追い詰められてしまった。なんとか包囲は脱したものの仲間の一人がその時に負った傷から死んでしまった。
冒険者という稼業に死は隣り合わせだ。
そんな当たり前なことを俺たちは上手くいっているからと忘れてしまっていた。
死んだのは俺たちのパーティーでも攻撃の中核を担っていた魔法使いだった為、俺たちはそれまでのようにクエストをこなして行けなくなった。
次第に狂っていく歯車。
冒険者ランクも上がらなくなってしまった。最終的にはFランクで伸び悩んでしまった。
後輩冒険者たちがどんどんと俺たちのランクを追い抜いていく。
皆それに焦りながらも、どこか諦め始めていた。
次第に安易で、稼ぎの良いクエストのみを受けこなすようになった。俺の目指していた冒険者像とは随分とかけ離れていってしまった。
そんな現状に苛立ち、酒やギャンブルに逃げ込んだりもした。
ちょくちょく溜め込んでいたパーティーの資金を使い込んでしまう仲間まで現れ、俺たちのパーティーは解散した。
一人となった俺も実家に戻るに戻れず、ズルズルと冒険者を続けていた。
また一人、新人冒険者にランクを抜かれた。
俺の焦りはとうとう軽率な行為に走らせた。
明らかに自身のランク以上のクエストを受注してしまった。
本来元々のパーティーメンバーがいればギリギリ達成できただろうクエストである。俺一人で達成できるはずがなかった。
数十体という魔物に囲まれ、追い詰められ俺は自分の愚かさを知った。
自分の弱さを思い知った。
死を隣に置き、俺は両親に謝りたくなった。己の限界を知った。こんなことなら素直に木こりになれば良かったと、死にたくないと・・・。
魔物の体当たりを防げず、右肩にずぶりと牙が刺さる。
走るのは激しい痛み。骨まで噛み砕かれそうになり、必死に抵抗する。
ミシミシと音を立ててこのまま噛みちぎられ、――――――――死ぬ。とおもった瞬間に魔物は跡形もなく塵と消えた。
俺は血が吹き出す右肩を抑えながら、何が起きたのか理解しようとつとめた。
すると俺の後ろに一人の冒険者の姿があった。
外見的にかなり若く未だに14、15歳に見えた。黒髪に黒目、片方の目は少し色が違うようにも見えるが様々に色が変化している。あまり見ない顔立ちである。手には二本の剣があり、先ほど屠ったであろう魔物の血液が滴っていた。マントを羽織、首には見たことのない首飾りが揺れる。
――――――後の英雄である勇者であった。
「助太刀するぜ」
戦闘は一瞬だった。
勇者は正しく風のように早かった。俺は殆ど目で追うことすらできなかった。魔物たちも何が起きたのか理解できないだろう。一歩で魔物に近づき、身動きすら取らせずに一刀のうちに首をハネる。
どうにか反応した魔物が口から火の弾を吐く。かなり強い部類の特異種だ。
しかし彼は炎弾を察知しつつも避けすらしない。「――ッあぶない!」と俺が叫ぶも、自身のマントを揺らし、炎弾をそのまま弾き飛ばした。炎弾ははなった魔物へとそのまま戻っていき爆散した。
残りの魔物はボス格がやられたことから動揺したのか、逃げようとしたが彼に容赦なく嬲り殺された。
それが俺の知る勇者の姿だ。
俺は勇者に命を助けられた。怪我をした右肩は殆ど上がらなくなってしまったが、上級の治癒魔法をかけてもらうような金も無いので、冒険者を引退することを決めた。俺を助けてくれた彼は後に冒険者ランクを最上のAランクまで上げたようで、才能の違いを痛感した。寧ろあそこまでレベルが違うと嫉妬というよりも感動のほうが強かった。
木こりとして生活する為に帰ってきた。
両親はまだ生きていた。しかしそう長くないだろう。二人共もうあまり体の調子が良くないようだ。最後に二人の顔が見れただけでも俺は幸せ者なのだろう。
両親が亡くなり、正式に木こりを継ぎ生活を立てる。
生活費は冒険者時代のなけなしの金と両親が残してくれた貯金。あとは日頃の木こり、森の恵で十分間に合った。
半年もすると仕事にも慣れ始め、自分に合っていると思った。
森に出て、異常がないか見回り、魔物が侵入していないか確認する。広い森全てを見回ることはできないが、魔物の足跡などがないかどうか等見ている。
ある日、一人の少女を拾った。幼い子だ。
服は汚れ、泥だらけである。
家に連れて帰り、休ませてやると目を覚ました。少女は記憶を失い、言葉を失っていた。
どうしようもない男一人暮らしの家で育てることを決意した。
アリアと名付けたその少女は、話せないながらも次第に元気になっていった。木こりの作業も嬉々として手伝ってくれる。時折、森の中に勝手に入っていき、いなくなってしまうが一時間もすると戻ってくる。最初のうちは動物や魔物に襲われないか不安であったが、どうもそこらへんは上手く避けられるようだ。何度注意しても森にいくので今は諦めている。
ある日、アリアが何かを見つけたと走ってきた。
最近光国の兵士がなにやら森に入り込んでたようだから問題を起こしたのかと思い、俺は急いでアリアに連れられ森に向かう。
てっきり兵士が落としていった剣や装備、もしくはゴミか何かだと思っていたら、転がっていたのは人だった。
頬はげっそりと痩せこけ、布一枚しか羽織っていない。
森のシンボルである聖樹の木の下に蹲っていた。
その男は、かつて俺を助けてくれた勇者だった。
■■■
どんな事情が彼にあるのか俺はわからない。
しかし、彼を寝かしつけた後に近くの街まで情報を集めに行くと魔王に人間側が敗れたことを知った。
更にその責任を負わされ勇者が処刑されるらしいとのことも。
処刑される筈の本人がうちにいるのだがどのように処刑するというのだろうか。
家に戻ると勇者は目を覚ましていたが、とても体温が高い。
アリアが俺の腕を引きながら紙に言葉を書く。
[あのひと、からだのなかの、まりょくがいっぱい。はれつしちゃう]
アリアは魔法の扱いが得意だが、勇者の体の魔力が見えるようだ。希にだがそういった才能の持ち主はいると聞いていたがまさかアリアがそのような能力の持ち主だとは思わずに驚いた。
勇者に魔力飽和による発熱ではないかと聞いたところ魔法を使ったことすらないという。
日常的に魔法は使うものであるのに今まで彼はどのように生活していたのだろうか。
とりあえず初歩の初歩である点火の魔法を教えて様子を見ることにした。
火事が起きた。ボヤと言ったほうがいいだろう。しかしお陰で魔力飽和の方は落ち着いたみたいだ。
体の熱も大分ひいている。
お手柄だったぞ、とアリアの頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。最近アリアが本当の娘に思えて仕方ない。可愛い。
勇者はその後も初級魔法の練習をしながら療養させた。以前の恩返しだと言ったらひどく気にしそうな様子だったので、どうせ暇だからとお茶を濁しておいた。
ある晩に彼とゆっくり話をする機会があった。
どうも勇者であることに苦しんでいたようだ。
名前も忘れてしまい、勇者としてのあの力も失ってしまったらしい。
自分は何もかもを失ってしまったのに、まだ期待だけはされる。俺には何もできない・・・。
そんな風に嘆く彼は、勇者ではなく小さな子供に見えた。俺は気がつくと彼の肩を抱いていた。
お前は十分頑張ったと励ましてやりたかった。お前のお陰で俺は助かったんだと伝えたかった。
しかし、止めた。彼に勇者という重荷をこれ以上背負わせるべきではない。
ジュウベイという一人の人間としてできることだけをやる。それでいいじゃないか。
世界はきっと誰か他の人が何とかしてくれる。
お前一人が頑張る必要はない、少し休めばいいじゃないかと。
どこかアクの採れた顔をしたジュウベイはうちに来て初めて笑った。
ジュウベイは俺にとって命の恩人であり、新しい息子みたいなものだと思う。
旅立つジュウベイの背中を見送る。
アリアが震える俺の手を掴んでくれた。
ジュウベイはきっと勇者であった過去から逃げることはできないだろう。いつか追いつかれる。しかし向き合えるようになるまで、くじけない力が付くまでどうか待ってもらえるように俺は祈った。
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